前に「年齢の異称」や「和風月名」「和風月名以外の異称」の記事を書きましたが、今回は「日の異称」をご紹介します。
1.「除日(じょじつ)」
(1)除日とは
12月31日(大晦日)の午後11時頃になると「除夜の鐘」を撞(つ)く音が近くの寺から聞こえてきます。
この「除夜」というのは「除日の夜の鐘」のことです。
「除日」とは、 旧年を除く日という意味です。「大晦日/大晦(おおみそか/おおつごもり)、「除歳(じょさい)」「歳除(さいじょ)」とも言います。
(2)除夜の鐘とは
①起源や由来
「除夜の鐘」の起源は中国の宋の時代で、もともとは鬼払いのために月の最終日の夜に鐘をついていたものが大晦日だけになり、鎌倉時代に日本の禅寺へ伝わったとされています。 その後、室町時代から広がり始め、江戸時代には多くの寺で行われるようになっていきました。
多くの寺では1年間を振り返って感謝の気持ちを表す「除夜法要」「除夜会(じょやえ)」といった、その年最後の法要を勤めます。
「除夜の鐘」を鳴らすのも、その法要の一つ。大晦日から新しい年への引継ぎを行う大切な儀式です。
古来より時報として鳴らされていた梵鐘の音は、単に正確な時を人々に知らせるだけでなかったようです。
梵鐘の梵は、サンスクリットの神聖・清浄が語源。鐘の音は仏様の音や声を連想させるものであり、その響きを聴く者は一切の苦から逃れ、悟りに至る功徳があるとされていました。
世の中の人々の今生と来世の幸せを願って梵鐘をつき、清浄な音が広がっていくことで極楽浄土のような安らぎを与える。そんな意味もあったようです。
②回数の意味
多くの寺院では、除夜の鐘が108回つかれています。この「108」という回数の理由は諸説ありますので、代表的なものをご紹介します。
まず有名なのが、「煩悩の数から来ている」というものです。では、108の煩悩とは何でしょうか。
諸説ある中よく知られたものとして、煩悩とは、「眼(げん:視覚)」「耳(に:聴覚)」「鼻(び:嗅覚)」「舌(ぜつ:味覚)」「身(しん:触覚)」の五感+第六感ともいえる「意(い:意識)」による「六根(ろっこん)」から生じる心の働きによって生み出されると考えられています。
ここから起こる感情は「好(こう:良い)」「悪(あく:悪い)」「平(へい:どちらでもない)」の3つに分けられ、さらにその状態は「染(ぜん:汚れたこと)」「浄(じょう:清らかなこと)」の2つに分けられます。
また、煩悩によって人は過去・現在・未来の「三世(さんぜ)」によって悩みや苦しみが続くと考えられており、つまり計算をすると、6(六根)×3(良・悪・平)×2(染・浄)×3(三世)=108になるのです。
もう一つの説は、「1年間を表している」というものです。月の数の12、「立春」や「夏至」などで知られる1年を季節ごとに細かく分類した「二十四節気(にじゅうしせっき)」の数の24、二十四節気をさらに細かく分けた「七十二候(しちじゅうにこう)」の数の72、これらすべてを足した数が108になります。
なお、除夜の鐘をつく回数は108回と決まってはおらず、寺院によっては200回以上つくところもあります。
2.「晦日(みそか/つごもり/かいじつ)」
旧暦を使っていた頃は、毎月の最終日を「晦日(みそか)」といっていました。「みそ」は三十を示していることから、もともとは30日のことを表す言葉でしたが、旧暦ではひと月の長さが29日になることもあったため、月末日のことを「晦日」と呼ぶようになりました。
「晦日」のうち、1年の締めくくりである12月の「晦日」は、頭に「大」を付けた「大晦日」といいました。新暦を使うようになってからは12月31日のことを示します。
なお、「大晦日」前日の12月30日は、「小晦日」と書いて「こつごもり」と読みます。
ちなみに、宮中をはじめ、全国の神社では6月末日と12月末日の年に2回、大祓(おおはらえ)という、人が知らず知らずのうちに溜めてしまった罪や穢れを祓う神事が行われています。
なお、「晦」という漢字は、音読みで「カイ」、訓読みで「みそか、つごもり、くら(い)、くら(ます)」です。意味は①みそか。つごもり。陰暦で月の最終日。「晦日(カイジツ)・(つごもり)・(みそか)」「晦朔(カイサク)」 [対義語:朔(サク)] ②くらい。「晦冥(カイメイ)」 [対義語:明] ③くらます。「晦渋」「鞱晦(トウカイ)」です。
3.「朔日(さくじつ/ついたち)」
「朔日」とは、毎月の第1日のことです。「朔月(さくげつ)」「朔(さく)」とも言います。
4.「八朔(はっさく)」
(1)八朔とは
「八朔」とは八月朔日の略で、旧暦の8月1日のことです。
新暦では8月25日頃から9月23日頃までを移動します。秋分が旧暦8月中なので、早ければその29日前、遅ければ秋分当日となります。
この頃、早稲の穂が実るので、農民の間で初穂を恩人などに贈る風習が古くからありました。このことから、「田の実節句(たのみのせっく)」とも言います。この「たのみ」を「頼み」にかけ、武家や公家の間でも、日頃お世話になっている(頼み合っている)人に、その恩を感謝する意味で贈り物をするようになりました。
(2)柑橘類の「はっさく」
今では柑橘類の「はっさく」を思い出す人の方が多いでしょう。「はっさく」は江戸時代に広島県の恵日山浄土寺で発見されました。
発見されたのは江戸時代ですが「はっさく」と名付けられたのは明治言われていますいます。
名前の由来は、当時恵日山浄土寺の住職であった小江恵徳が「八朔には食べられる」と言ったことから名付けられたというのが定説となっています。
5.「望日(ぼうじつ)」
陰暦15日のことです。「もちのひ」とも言います。
6.「元日(がんじつ)」
「元日」とは、いうまでもなく1年の最初の日です。1月1日。国民の祝日の一で、年のはじめを祝う日です。
よく似た言葉に「元旦(がんたん)」がありますが、こちらは本来は「元日の朝」のことで、「元朝(がんちょう)」とも言います。
「一七日」とは、人が死んでから七日目、また、その期間のことです。「初七日(しょなぬか/しょなのか)」とも言います。
8.「愛日(あいじつ)」
「愛日」とは、①冬の日。やわらかく暖かい冬の愛すべき日光ということから。②日や時間を惜しむこと。③日時を惜しんで両親に孝行すること。
大阪市の北浜にかつて「愛日小学校」という1872年に創立された歴史の古い小学校がありました。この校名の「愛日」は③の意味です。「孝子愛日(こうしあいじつ)」(孝子は日を愛[おし]む)が由来です。
余談ですが、この小学校の敷地は山片蟠桃の屋敷跡です。1872年8月、「升屋」八代当主山片重明が小学校設立のため、大阪北浜にある自らの邸宅を、土地、家屋、建具ごと学校に寄贈したものです。
9.「戌の日(いぬのひ)」
「戌の日」とは、十二支で表す暦で戌に当たる日のことです。妊娠五ヶ月目のこの日に安産のために参拝して岩田帯を巻きます。
10.「丑の日(うしのひ)」
「丑の日」とは、日付を十二支で表した場合に丑にあたる日のことです。特に夏の土用の丑の日を言います。
11.「数え日(かぞえび)」
「数え日」とは、今年もあといく日と、指折り数えるほど暮れが押し詰まること、また、その押し詰まった日のことです。
俳句で冬の季語になっています。
数へ日のなかの一日母を訪ふ(角川春樹)
数へ日を第九の稽古重ねけり(阿波野青畝)
12.「忌日(きじつ/きにち)」
「忌日」とは、その人が死亡した日と年や月が異なる、同じ日付の日のことで、「命日」とも言います。
故人が亡くなった月日は「祥月命日(しょうつきめいにち)」で、「月命日(つきめいにち)」は「祥月命日」を除く故人が亡くなった日のみを指す命日です。
13.「凶日(きょうじつ)」
「凶日」とは、縁起の悪い日。不吉な日。悪日(あくにち/あくび)のことです。
対義語は「吉日(きちじつ/きちにち)」です。
14.「四万六千日(しまんろくせんにち)」
「四万六千日」とは、寺の縁日の一つで、その日に参拝すると四万六千日参拝することと同じ功徳を授けられるとされています。観音の縁日で「功徳日(くどくにち)」の一つです。
「二万五千日(にまんごせんにち)」も同様の「功徳日」です。京都・長崎などの「清水寺」に毎年7月10日に参詣すれば、この日一日だけで二万五千日参詣したのと同じ功徳が得られるということです。
15.「念日(ねんじつ)」
「念日」とは、二十日を言い表す言葉です。「念」は二十という意味(*)で、「二十五日」を「念五日」の形で用います。
(*)二十を「廿」とも書きますが、これは「十」を2個組み合わせた合字です。また大字の「念」は、「廿」の俗音「ネン」からの借用であることから
16.「一粒万倍日(いちりゅうまんばいび/いちりゅうまんばいにち)」
宝くじ売り場で「大安吉日」と並んで「一粒万倍日」と表示されているのを見かけたことはありませんか?
「一粒万倍」とは、「わずかなものから非常に多くの利益を得ること」を意味する四字熟語です。1粒の種子が万倍となって実る様を表しています。「稲」の異名でもあります。もともとは仏教の言葉で、ひとつの善行がたくさんの良い結果に結びつくことを意味していました。
「一粒万倍日」とは、占いの一つである「四柱推命(しちゅうすいめい)」(中国で陰陽五行説を元にして生まれた人の命運を推察する方法)において、大安と並んで運のいい日とされる吉日のことです。
開業や結婚など、新たな物ごとを始めると大きく実を結びやすい縁起のいい日とされています。
「一粒万倍日」は、「二十四節気」と、一日ごとに割り振られている「干支」との組み合わせによって決まります。二十四節気とは太陽の動きに合わせて1年を24等分し、それぞれに季節の名称を付けたもの。春分や夏至、大寒などのことです。
たとえば、立春(2021年は2月3日)から啓蟄の前日(3月4日)までなら丑の日・午の日が、啓蟄(3月5日)から清明の前日(4月3日)までなら寅の日・酉の日が一粒万倍日です。
17.「大明日(だいみょうにち)」
大明日とは、一粒万倍日や天赦日(てんしゃにち)と同じく吉日として知られている日です。
移動を伴う行動や慶事によいとされ、月に十数日ほど巡ってくるため比較的利用しやすい日です。
大明日とは、「七箇の善日(ななこのぜんにち)」と呼ばれる吉日のひとつで、太陽の光があまねく照らす吉日です。
「七箇の善日」とは、天赦日(てんしゃにち/てんしゃび)・神吉日(かみよしにち/かみよしび)・大明日(だいみょうにち)・鬼宿日(きしゅくび)・天恩日(てんおんにち/てんおんび)・母倉日(ぼそうにち)・月徳日(つきとくにち/がっとくにち)の総称です。
七箇の善日はそれぞれ由来が違いますが、大明日の由来は、中国の旧暦・太陰太陽暦で使われていた「大明暦」です。中国で使われなくなった後、日本に入った大明暦が、暦注として残ったといわれています。
ちなみに神吉日は、日本由来の善日です。
大明日は、太陽の恩恵を受けられるすべてのものにとっての吉日といわれていて、慶事・吉事によい日です。
さらに、建築、移転、旅行を実行するには非常によいとされています。