日本語の面白い語源・由来(さ-⑦)鮭・鰆・猿梨・鯖・塞翁が馬・山椒・山椒魚・三途の川

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鮭

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.鮭(さけ)

高橋由一・鮭

鮭と言えば、私は江戸生まれの洋画家・高橋由一(たかはしゆいち)(1828年~1894年)の「鮭」(上の画像)という絵を思い出します。中学の美術の教科書に掲載されていました。

」とは、サケ目サケ科の魚です。河川に上って産卵し、孵化した稚魚は川を下り海に出て、北太平洋を広く回遊して成長します。産卵には遡上してまた母川に戻ります。卵は筋子・イクラとして食用にされます。しゃけ。

鮭の語源は、以下のとおり諸説あります。

①「裂ける」が「サケ」になったとする説。
鮭が「裂ける」という意味に由来するのは、肉に筋があって裂けやすいこと。稚魚から成魚となるまでに胸腹が裂けていること。産卵の際に腹が裂けることなど、様々な見解があります。

②鮭の赤い肉の色を語源とする説。
この説には、鮭の肉が酒によったような赤色をしているため「サカケ(酒気)」が転じたとする説と、「アケ(朱)」が転じて「サケ」になったとする二説があります。

③サケはアイヌ語が語源とする説。
アイヌ語で「夏の食べ物」を意味する「サクイベ」や「シャケンベ」は、魚の「マス」を意味する語に通じることや、鮭の大きなものを古語では「スケ」と言い、アイヌ語の「shak」の部分は「スケ」や「サケ」の音に変化することは十分に考えられることから、アイヌ語説は有力とされています。

漢字の「鮭」は、日本では室町時代からサケを指す漢字として用いられているが、中国ではフグもしくは魚一般を指します。

「鮭」の「圭」は、「三角形にとがった」「形が良い」という意味を表しています。

「鮭」は秋の季語で、次のような俳句があります。

・初鮭や 網代の霧の 晴間より(各務支考)

・鮭に酒 換へてうき世を えぞしらぬ(与謝蕪村

・荒縄の その荒鮭を 屠(ほふ)りけり(長谷川櫂)

2.鰆(さわら)

鰆

サワラ」とは、スズキ目サバ科の魚です。全長約1メートル。成長するに従い、サゴシ・サゴチ、ナギ、サワラと呼び名が変わる出世魚です。

サワラの歴史的仮名遣いは「サハラ」です。
「サ」が「狭い」、「ハラ」が「腹」の意味で、マグロを細長くしたようなその体形から「サハラ」になったといわれます。

また、植物の葉に斑点や筋ができたものを「イサハ」と言っていたことから、サワラの斑点を古くは「イサハダ」と言っおり、「イ」が脱落して「サハダ」「サハラ」と変化したのではないかとする説もあります。

サワラが「イサハダ」と呼ばれていたのは推測でしかないが、この説が正しいとすれば、サワラはサバ科の魚なので、同じように斑点のある「サバ」の語源も、「イサハ」に通じると考えられる貴重な説です。

サワラの漢字「鰆」は、春先に多く獲れることから「春が旬の魚」を意味しています。
ただし、瀬戸内では春が旬ですが、関東で美味しくなるのは秋以降で、特に12月を過ぎたものを「寒ザワラ」と呼び、冬が旬とされています。

「鰆」は春の季語で、次のような俳句があります。

・炙(あぶ)りては 木の芽をまぶす 鰆かな(長谷川櫂)

・有明の 月に出でゆく 鰆船(森藤千鶴)

・一匹の 鰆を以て もてなさん(高浜虚子

3.猿梨(さるなし)

猿梨

サルナシ」とは、山地に生えるマタタビ(木天蓼)科の蔓性落葉低木です。果実は緑黄色に熟し食べられます。蔓は細工物とします。

サルナシは、サルが好んで食べる梨のような実の意味からや、サルが梨と間違えて食べるからといった説があります。

この二説は、サルが好んで食べることと梨に似ている点が共通しており、言い方を変えただけで、同じ語源と考えてよいでしょう。

「梨」「木天蓼(またたび)」は秋の季語、「木天蓼の花」(下の写真)は夏の季語で、次のような俳句があります。

木天蓼の花

・梨むくや 故郷をあとに 舟くだる(飯田蛇笏)

・夜半の雨 知らずまたたびの 花夢む(金子兜太)

・遠くより 木天蓼見えて 来し山路(稲畑汀子)

4.鯖(さば)

鯖

サバ」とは、スズキ目サバ科のうち、サバ類の魚の総称です。一般に日本近海ではマサバとゴマサバの二種を指します。背部は青緑色で流紋があります。

サバは歯が小さいことから、「小歯(さば)」や「狭歯(さば)」の意味、「セバキ(狭)」の略転などの説が有力とされています。

多数で群れをなすことから、多いことを意味する古語「サハ」が濁音化して「サバ」になったとする説もあり、意味も濁音化も十分に考えられるため捨てがたい説です。

他には、盂蘭盆で蓮の葉で包む魚であり葉をくさくさすることから、「サ」は「クサシ」の上下略、「ハ」は「葉」といった説があるが考慮しがたいものです。

鯖寿司

余談ですが、私の家(大阪府高槻市)では、秋祭りの時は必ず「鯖寿司」を作って食べていました。

「鯖」は夏の季語、「刺鯖(さしさば)」「秋鯖」は秋の季語で、次のような俳句があります。

・鯖釣や 夜雨のあとの 流れ汐(飯田蛇笏)

・鯖売の 闇路をこゆる 安宅哉(加舎白雄)

・表から 来る刺鯖の 使ひかな(井上井月

・新聞に 秋鯖包み 村まつり(那須雛子)

5.塞翁が馬(さいおうがうま)

人間万事塞翁が馬・絵

塞翁が馬」とは、人間の吉凶・禍福は変転し、予測できないことのたとえです。また、だから安易に喜んだり悲しむべきではないということ。「人間万事塞翁が馬」とも。

塞翁が馬の「塞翁」とは、北方の「砦・塞(とりで)」に住むとされた老人(翁)のことで、中国前漢時代の思想書『淮南子』「人間訓」の以下の故事に由来します。

昔、中国の北方の塞に占いの得意な老人(塞翁)が住んでいた。
ある日、塞翁が飼っていた馬が逃げてしまったので、人々が慰めに行くと、塞翁は「これは幸いになるだろう」と言った。
数ヵ月後、逃げた馬は立派な駿馬(しゅんめ)を連れて帰ってきたので、人々がお祝いに行くと、塞翁は「これは災いになるだろう」と言った。
塞翁の息子が駿馬に乗って遊んでいたら、落馬して足の骨を折ってしまったので、人々がお見舞いに行くと、塞翁は「これは幸いになるだろう」と言った。
一年後、隣国との戦乱が起こり、若者たちはほとんど戦死したが、塞翁の息子は足を骨折しているため兵役を免れて命が助かった。

この故事から、「幸(福・吉)」と思えることが、後に「不幸(禍・凶)」となることもあり、またその逆もあることのたとえとして「塞翁が馬」と言うようになりました。

また、「人間のあらゆること(人間の禍福)」を意味する「人間万事」を加えて、「人間万事塞翁が馬」とも言います。

6.山椒(さんしょう)

山椒

山椒」とは、山地に自生するミカン科の落葉低木です。芽は香味料に、果実は香辛料および健胃薬・回虫駆除薬に、材はすりこぎにします。さんしょ。

山椒は、古く「ハジカミ(椒)」と呼びましたが、生姜が普及してからは生姜も「ハジカミ」と呼ばれるようになってしまいました。

生姜と区別するため、山椒は「結実する」の意味で「ナルハジカミ」や、実が房状になる意味で「フサハジカミ」などと呼ばれたこともありました。

漢字の「椒」は、「木」+音符「叔(小さい実)」で、小粒の実がなる木を意味し、「椒」の一字でも「山椒」を指していましたが、山で採れる意味で「山」が冠されて「山椒」となりました。

その漢字を音読みしたのが「サンショウ」で、「生姜」に「ハジカミ」の名を奪われたため、この名で定着していきました。

「青山椒(あおざんしょう)」は夏の季語、「山椒の実」「実山椒(みざんしょう)」は秋の季語で、「切山椒(きりざんしょう)」は新年の季語です。

・夕立の 山亘りをり 青山椒(森澄雄)

・半農の 粗き垣結ひ 実山椒(白水拝石)

・暮からの 風邪まだぬけず  切山椒 (久保田万太郎)

7.山椒魚(さんしょううお)

山椒魚

サンショウウオ」とは、有尾目サンショウウオ上科の両生類の総称です。

サンショウウオは、体のイボが山椒の木の皮に似ているからか、そのイボに触れると山椒に似た匂いの白い汁を皮線から発することからといわれます。

山椒の樹皮を食べることからともいわれるが、上記二説のいずれかと思われます。

この名は室町時代から見られますが、山椒の古名が「ハジカミ」なので、「サンショウウオ」と呼ばれる以前は「ハジカミイヲ(ハジカミウオ)」と呼ばれていました。

「山椒魚」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・平穏と いふ退屈や 山椒魚(益田風彦)

・掌(て)の見えて 大山椒魚に 貌(かお)のなし(小林鱒一)

・黒岩を すべり落ちたる 山椒魚(石脇みはる)

8.三途の川(さんずのかわ)

恐山・三途の川

三途の川」とは、死んで7日目に渡るという冥途にある川のことです。三瀬川。葬頭河。渡り川。

三途の川には流れの速度が異なる三つの瀬があり、生前の業(ごう)によって「善人は橋」「軽罪の者は浅瀬」「重罪の者は流れの速い深み」を渡ります。

このことから、「三つの道(途)」の意味で「三途の川」や「三瀬川」と呼ばれるようになったといわれます。

しかし、「三途」は死者が悪業を報いるために逝くという「三悪道」のことを意味していました。

そのため、三悪道の考えから「善人」を含んだ「三途の川」が生まれたと考えられます。
この三悪道の「三途」は、「地獄道」「餓鬼道」「畜生道」からなります。

地獄道は火に焼かれることから「火途」、餓鬼道は刀で虐められることから「刀途」、畜生道は互いに食い合うことから「血道」と呼ばれます。