十返舎一九 江戸時代の長寿の老人の老後の過ごし方(その13)

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十返舎一九

前に「江戸時代も実は『高齢化社会』だった!?江戸のご隠居の生き方に学ぶ」という記事を書きましたが、前回に引き続いて江戸時代の長寿の老人(長寿者)の老後の過ごし方・生き方を具体的に辿ってみたいと思います。

第13回は「十返舎一九」です。

1.十返舎一九とは

東海道中膝栗毛

十返舎一九(じっぺんしゃ いっく)(1765年~1831年)は、江戸時代後期の戯作者・絵師です。江戸時代最大のベストセラーとも言われる『東海道中膝栗毛(とうかいどうちゅうひざくりげ)』の作者として有名です。

彼は、江戸後期の洒落本(しゃれぼん)、黄表紙(きびょうし)、滑稽本(こっけいぼん)、合巻(ごうかん)作者です。本名重田貞一(しげたさだかず)、通称与七。

十返舎は香道の十返(とがえ)しにちなみ、一九は幼名市九によります。酔斎、十偏舎、十偏斎などとも号しています。

前半生の伝記は詳しくわかりませんが、駿府(すんぷ)で武家の子として生まれ、ある大名の家に仕えましたがまもなく浪人し、23歳ごろ大坂で町奉行(まちぶぎょう)小田切土佐守(おだぎりとさのかみ)に仕えましたが、これもまもなく致仕したようです。

1789年(寛政元年)近松余七の筆名で浄瑠璃(じょうるり)『木下蔭狭間合戦(きのしたかげはざまがっせん)』を若竹笛躬(ふえみ)、並木千柳と合作しますが、1794年江戸に出、翌年黄表紙『心学時計草(とけいぐさ)』以下3種を発表し、以後毎年20種近くの黄表紙を発表しています。

享和(きょうわ)(1801年~1804年)に入ると洒落本も執筆しますが、1802年(享和2年)滑稽本『東海道中膝栗毛』初編を出版しました。

その後も様々なジャンルの作品を発表し続け、江戸時代の作家としては「最大の多作家」でした。これは読者の好みに忠実に応えようとした「大衆作家」としての姿勢からであり、同時に生活を筆で維持するためでもありました。

『東海道中膝栗毛』が人気を博し、彼が流行作家となった背景には、「貸本屋」を通じた一般大衆読者の増加と、交通制度の整備による「庶民の旅の隆盛」があったことも見逃せません。

彼はその後半生を曲亭馬琴とともに「原稿料だけで生計を立てた最初の職業作家」で、そのためには戯作(げさく)以外にも、通俗的な庶民教科書としての往来案文類などを多数出版するとともに、また書肆(しょし)の依頼によっては素人(しろうと)作者の原稿を編集して出版し、名前を貸すなどしています。

1831年(天保2年)に66歳で亡くなりました。墓は東京都中央区の東陽院にあります。

なお彼については、「戯作者十返舎一九は、東海道中膝栗毛で有名ですが、生涯も洒落のめし!」という記事にも詳しく書いていますので、ご一読ください。

2.十返舎一九の老後の過ごし方

読者の熱狂的歓迎を受けた『東海道中膝栗毛』は、1822年(文政5年)に完結するまで、21年間にわたって続編に続編を重ねて出版され続けました。この間、『東海道中膝栗毛』の作者として人気の高まるとともに、読本(よみほん)、人情本、咄本(はなしぼん)、滑稽本とあらゆるジャンルに筆を染め、黄表紙、合巻だけでも360種に達する作品を発表しています。

洒落本は『恵比良之梅』など13種、人情本は『清談峯初花』など5種以上、読本は『深窓奇談』など12種以上、滑稽本は『膝栗毛』のほか『(滑稽)江の島土産』『金草鞋』など紀行物や『(風流)田舎草子』など地方色豊かな作品もあります。『(紅毛影絵)於都里伎』は人体の組合せで影絵の趣向を見せる奇巧の作品です。噺本は多く他作のとりあわせのため自作といえませんが、一九編とすれば『(落咄)風の神』以下30種以上となります。

文化年間(1804年~1818年)には寺子屋の教科書向けの往来案文類を60種以上作っており、全著作数は360種以上になります。これらには特に傑作とよべるものは少ないですが、一般町人読者の好みにあわせて平易で面白くしており、自筆の挿絵は緻密さには欠けますが、独特の穏やかな雅趣に富んでいます。

作品の販路を確実にするため『膝栗毛』の挿絵の賛に地方の文化人の狂歌を載せ、黄表紙や合巻の中に自分を戯画化して登場させ、出版書店主(村田屋)を中心に「十返舎社中」と呼ぶ作者グループを作るなど、自作の宣伝に努めました。

酒を好み、遊里に通じ、物事に拘らない道化的な性格は、対社会的に作られたものであり、実生活は几帳面であったようです。

自分の娘を大名の妾にとの話のあった時これを拒否したことや、『膝栗毛』のなかでの武士の町人的性格の誇張、また城の描写が皆無であることなどから、隠された冷ややかな彼の人柄や思想をうかがうことができます。

晩年は中風で不自由をかこちました。また酒におぼれて「その日暮らし」の生活に落ちぶれてしまったようです。

3.十返舎一九の辞世

・この世をば どりゃお暇(いとま)に 線(せん)香の 煙と共に 灰(はい)左様なら

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