思考や創造には「触媒」と「発酵」が必要! 

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触媒発酵

人間が「思考」する場合、あるいは芸術作品を「創造」する場合、「無から有を生じる」ということはあり得ません。

必ずその人が過去から蓄積したさまざまな「知識」や「感情」が複合・統合されたり、変容したりして、思考体系(思想)や芸術作品が生まれるはずです。

1.思考や創造に必要な「触媒」

中学校の理科で化学反応を早めたり助ける働きをする「触媒」を習ったと思いますが、思考や想像にも「触媒」必要なようです。

(1)T・S・エリオット

エリオット横顔

イギリスの詩人・文芸批評家で1948年にノーベル文学賞を受賞したT・S・エリオット(1888年~1965年)は、「伝統と個人の才能」の中で次のように述べています。

詩人は常に、自己をより価値のあるものに服従させなくてはならない。芸術の発達は不断の自己犠牲であり、不断の個性の消滅である。芸術とはこの脱個性化の過程にほかならない。

これはエリオットの「没個性説(インパーソナル・セオリー)」と呼ばれるものです。

この後で、次のように述べています。

詩の創造に際して起こるのは、酸素と二酸化硫黄(亜硫酸ガス)とのあるところへ、プラチナのフィラメントを入れた時に起こる化学反応に似ている。

これが「創造に必要な触媒説」です。

前に谷村新司の「昴」の歌詞が、石川啄木の「悲しき玩具」にヒントを得たものであることを紹介した記事を書きました。歌詞は確かに「悲しき玩具」を下敷きにしていますが、あの荘厳で雄大かつ壮大な昴の曲は、谷村新司の「インスピレーション」というか何らかの「触媒」が働いたものであることは間違いありません。

2.思考や創造に必要な「発酵」

納豆・味噌・醤油・漬物などの発酵食品と同じように、思考や想像にも「発酵」(発酵期間)が必要なようです。

そう言えば、「考えを温める」とか、「長年温めて来た構想」などと言いますよね。「ちょっとした(単なる)思い付き」というのは「生煮え」で、「取るに足らないもの」であることが多いものです。

(1)外山滋比古

外山滋比古

お茶の水女子大学名誉教授の外山滋比古氏(1923年~2020年)は、「思考の整理学」の中で、次のように述べています。

頭の中の醸造所で、時間をかける。あまり騒ぎ立ててはいけない。しばらく忘れるのである。”見つめるナベは煮えない”。

(2)オノレ・ド・バルザック

バルザック

フランスの文豪オノレ・ド・バルザック(1799年~1850年)は、「熟したテーマは向こうからやって来る」と述べています。

これは「セレンディピティ」の話と似ていますが、パスツールの言葉にもあるように「構えのある心」を持っていないとセレンディピティは得られないと思います。

3.文芸作品の「評価」にも必要な「発酵」

これは、ワインを樽に長年月の間寝かせておくと、程よく「熟成」して芳醇な香りを放つようなものです。

ただし、中には「腐敗」してしまうものもありますが・・・

ウィリアム・エンプソン

イギリスの文芸批評家・詩人のウィリアム・エンプソン(1906年~1984年)は、「諸説紛々の解釈のある文章や詩歌の意味は、その諸説のうちの一つではなくて、諸説の全てを含んだものなのではないか」と述べています。

シェイクスピアのような「世界的大文豪」にしても、存命中からそのように評価されていたわけではありません。亡くなった直後から偉大な戯曲作家とは見られていたようですが、現在ほど「神格化」されてはいなかったようです。

彼の戯曲が世界各地で上演されて高い人気を博するなど長い年月の積み重ねの中で多少の評価の変動はあっても、シェイクスピアの場合はどんどん評価が高まって来たようです。

一方、「金色夜叉(こんじきやしゃ)」で有名な尾崎紅葉(1868年~1903年)のように、明治時代には人気作家だったにもかかわらず、今ではほとんど顧みられない作家もいます。

尾崎紅葉とは対照的に、彼とほぼ同時代に生きた夏目漱石(1867年~1916年)は、当時から人気作家でしたが、今や「大文豪」の地位を不動のものとしています。

4.「発酵」と「熟成」の違い

余談ですが最後に、「発酵」と「熟成」の違いをご紹介しておきます。

(1)発酵

「発酵」とは、「発酵生物が栄養素として取り込んだ有機物を代謝し、エネルギーを得る過程のこと」「微生物が人間にとって有益な有機物を生成する過程のこと」です。

分かりやすく言えば、「微生物の働きによって物質が変化すること」です。

(2)熟成

「熟成」とは、「食材に含まれるタンパク質が酵素の働きによって分解され、アミノ酸へと変化すること」です。

「発酵」との違いは、「微生物が介在するかどうか」で、「発酵」は微生物が分解しますが、「熟成」は自らの酵素で分解します。



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