日本語の面白い語源・由来(け-①)鶏頭・貶す・捲土重来・稀有・源氏蛍・檄を飛ばす

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鶏頭

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.鶏頭(けいとう)

鶏頭・ケイトウ

ケイトウ」とは、熱帯アジア原産のヒユ科の一年草です。観賞用に古くから栽培されます。

ケイトウは、ニワトリの鶏冠(とさか)に似た花穂をつけることからの名です。
別名にも「鶏冠花(ケイカンカ)」「鶏冠草(ケイカンソウ・トサカグサ)」「鶏頭花(ケイトウゲ・ケトギ)」など、ニワトリの頭に由来する名が多くあります。

日本には奈良時代に中国を経由して渡来しました。

余談ですが、俳句の世界では有名な「鶏頭論争」がありました。これについては「鶏頭論争というのは、俳句の解釈と評価の難しさを如実に表した論争です。」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。

「鶏頭」は秋の季語で、次のような俳句があります。

・鶏頭の 十四五本も ありぬべし(正岡子規

・鶏頭や 雁の来る時 尚あかし(松尾芭蕉

・鶏頭の 黄色は淋し 常楽寺(夏目漱石

2.貶す(けなす)

けなす

貶す」とは、わざと悪い点ばかり取り上げて非難する、腐すことです。

最近ネットでは「ディスる」という言葉がよく使われます。「ディスる」は、英語の「ディスリスペクト(disrespect)」を日本語的に動詞化した「ディスリスペクトする」の略です。

けなすの「」は、ことさら悪い点を取り上げ、良い点を無視するところから、「消す」や「蹴る」の意味

けなすの「なす」は、行為をする意味の「為す(なす)」と思われます。

変わっていることや、非難すべきであることを表す「けし(怪し・異し)」などが考えられます。

「貶す」の「貶」は、財貨を表す「貝」と、とぼしいを意味する「乏」からなります。
これらを合わせた「貶」は、ものを減損することを表すところから、位を落とす意味の「貶位(へんい)」、罰して退ける意味の「貶棄(へんき)」、けなす意味の「貶議(へんぎ)」などにも派生し、日本では「おとしめる」や「けなす」の漢字に「貶」が使われるようになりました。

3.捲土重来(けんどちょうらい)

捲土重来

捲土重来」とは、一度敗れたり失敗した者が、非常な勢いで再び盛り返すことです。「けんどじゅうらい」とも読みます。

捲土重来は、中国唐の詩人 杜牧が、項羽の死を死を悼んだ詩「烏江亭に題す」に由来する四字熟語です。
捲土」は土煙を巻き上げること。「重来」は再びやって来るという意味で、捲土重来は一度静まった土煙が再び巻き上がることを意味します。

その勢いの激しいさまから、捲土重来は、一度いくさに敗れた者が再び勢いを盛り返し、相手に攻め込むことのたとえです。転じて、一度敗れたり失敗した者が、巻き返すことのたとえとなりました。

4.稀有(けう)

稀有

稀有」とは、めったにないこと、非常に珍しいこと、不思議なこと(また、そのさまのこと)です。

稀有は仏教漢語に由来する語です。本来は、文字通り「稀(まれ)に有る(ある)を意味します。
「稀にあること」というのは、普通は存在しない、きわめて少ないことでもあるため、珍しいこと、不思議なことを「稀有」と言うようになりました。

稀有を「きゆう」と読むのは間違いと言われることもありますが、一般的な読みが「けう」というだけで、「きゆう」と読んでも間違いではありません。
「けう」は呉音、「きゆう」は漢音です。

5.源氏蛍(げんじぼたる)

源氏蛍

ゲンジボタル」とは、ホタル科の昆虫です。体長は約15mmで、日本産ホタルの中では最大種。体は黒く、前胸部は淡紅色で黒い十字紋があります。腹端に発光器があり、淡い黄緑色に光ります。

「ゲンジボタル」の名前の由来は諸説ありますが、源平合戦に勝利した清和源氏に由来する説が有力です。
昔は、大形のホタルを「大蛍」「宇治蛍」「源氏蛍」、小形のホタルを「姫蛍」「平家蛍」と呼んでいたため、大きさを源平合戦の勝敗に当てはめた名と考えられます。

平家に敗れた源頼政の亡霊がホタルになったという伝説に由来する説もありますが、これは「ゲンジボタル」の名から作られた伝説と思われます。

また、腹部が光ることを『源氏物語』の「光源氏」にかけたとする説もありますが、「ゲンジボタル」から「光源氏」は想像できても、光るホタルを見ただけで「光源氏」を想像するか疑問です。

柳田国男は、大型のホタルに一種の力を感じた名で、「ゲンジボタル(験師蛍)」の意味としています。

ゲンジボタルの地方名には「山伏」もあるため、「験師(修験者)」に由来する説も考えられます。

「蛍」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・草の葉を 落るより飛 蛍哉(松尾芭蕉)

・ほたる飛や 家路にかへる 蜆売(しじみうり)(与謝蕪村

・人寝て 蛍飛ぶなり 蚊帳の中(正岡子規)

6.檄を飛ばす(げきをとばす)

檄を飛ばす

檄を飛ばす」とは、自分の主張や考えを広く人々に知らせ同意を求めること、人々を急いで呼び集めることです。なお、頑張るよう激励する意味でも使われますが、誤用です。

檄を飛ばすの「」は、自分の主張を述べて賛同や決起を促す文書のことです。
元々は、古代中国で木札に書かれた文書のことで、招集や説諭のために檄を発することを「飛檄」といいます。
この「飛檄」を訓読した語が「檄を飛ばす」です。

「監督が選手に檄を飛ばす」のように、「叱咤激励する」や「発破をかける」の意味で使うのは本来間違いです。

しかし、「刺激を与えて活気づける」の意味と解釈している人が大多数で、慣用的表現となっています。

この誤用は、「檄」と「激」の字が似ていることや、「人々に決起を促す」の意味もあることから生じたものと思われます。

檄と激

なお、「檄文」として有名な「大塩平八郎の檄」については、「大塩平八郎はなぜ乱を起こしたのか?またその結果は?」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。

大塩平八郎の檄文