日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.ぐっすり
「ぐっすり」とは、よく眠るさま、熟睡する様子のことです。
「have a good night’s sleep」の意味に「一晩ぐっすり眠る」「ひと晩ゆっくり眠る」とあるせいか、ぐっすりの語源を「good sleep」からと考える俗説があります。
しかし、江戸時代の『黄表紙・即席耳学問』という書物の中で、ぐっすりが「すっかり」「十分に」の意味として使われています。
『黄表紙・即席耳学問』は鎖国していた時代の書物なので、ぐっすりが英語に由来する言葉とは考えられません。
「すっかり」「十分に」などの意味が派生し、「ぐっすり寝てしまった(すっかり寝てしまった)」「ぐっすり眠る(十分に眠る)」になったと考えるのが妥当です。
2.管を巻く/くだを巻く(くだをまく)
「くだを巻く」とは、主に酒に酔った時、とりとめのないことや不平不満など、訳のわからないことをぐずぐず言うことです。
くだを巻くの「くだ(管)」とは、機織りで糸を紡ぐときに用いる軸のことです。
これを「糸繰車(いとくりぐるま)」に差して糸を巻くと、「ぶうんぶうん」と単調な音が鳴ります。
その管巻きの音や糸を巻く動作が、酒に酔った人が同じことを繰り返し、くどくど言う姿に似ていることから、「くだを巻く」と形容されるようになりました。
愚痴を撒き散らす印象から、「まく」を漢字で「撒く」と表記するのは誤りです。
3.下らない(くだらない)
「くだらない」とは、取るに足りないこと、馬鹿馬鹿しいことです。
くだらないは、動詞「下る」に打ち消しの助動詞「ぬ」がついて「くだらぬ」、「ない」がついて「くだらない」となりました。
「下る」には通じるといった意味を示す場合があり、それを「ない」で否定して、「意味がない」「筋が通らない」などの意味となり、取るに足りないの意味に転じたということです。
他には、上方から関東に送られる物を「下りもの」と言い、その中でも清酒は灘や伏見が本場であるため、「下り酒」と呼ばれていました。
反対に関東の酒は味が落ちるため「下らぬ酒」と言われ、まずい酒の代名詞となり、転じて現在の意味となったとする説もありますが、「下りもの」と呼ばれる以前から「くだらぬ」は使われていたため、この説は説得力に欠けます。
また、日本に農作を伝えたのは現在の朝鮮にあたる百済の人々で、百済の人々を頭の良い人としていたため、頭が悪く話の通らない人を「百済ではない人」と呼び、略され「くだらない」となったとする説もあります。
一般的に昔の否定は「ぬ」であり、名詞を「ぬ」で否定することは考えられないことと、「くだらぬ」という言葉が使われ始める遥か前から、「くだらない」が使われていたことになるため、この説も説得力に欠けます。
さらに他の説では、仏教に「ダラ」という九つの教えが有り、その教えが一つもない行為を「クダラが無い行動」と言ったことから、「くだらない」に転じたとする説もあります。
先の百済の説と同じで、「くだらぬ」から「くだらない」に転じていなければならず、名詞を「ぬ」で否定することも考えられません。
また、仏教用語に「ダラ」を含む言葉は多いですが、「ダラ」という教えについては不明で、九つの「ダラ」で「クダラ」というのは、質の低い駄洒落としか言いようがありません。
4.ぐうたら
「ぐうたら」とは、ぐずぐずしていて働く気力のないさま(また、その人のこと)です。
ぐうたらは江戸時代から使われている言葉で、愚かでたるんでいることを意味しました。
ぐうたらの「ぐう」は「愚(ぐ)」の長音化したもので、「たら」は「弛む(たるむ)」などの基になる「たる」が変化したものです。
スコットランドの一部地域で、怠けることを「グウタル」、怠け者を「グウタラー」と呼ぶことから、それらを語源とする説もあります。
しかし、スコットランドの一部地域で使われる言葉が、江戸時代の日本に伝わった経緯が不明で、ぐうたらの語源とは考えられません。
5.紅(くれない)
紅と言えば、「紅顔の美少年」や、旧制三高の寮歌「紅萌ゆる」、スタジオジブリのアニメ映画「紅の豚」などを思い浮かべる方も多いと思います。花柳界を意味する「紅灯の巷(こうとうのちまた)」や、川端康成の小説「浅草紅団(あさくさくれないだん)」を連想する方もおられるでしょう。
「紅」とは、鮮やかな赤色のことです。紅色。
くれないの語源は、「紅花(べにばな)」(下の写真)の異名「呉の藍(くれのあゐ)」の変化です。
「呉」とは中国の「呉(ご)」の国のことで、日本では中国一般を意味することがよくあります。
くれないは、紅花を染料とする色を指すことから色彩名に転じました。