1.灸花(やいとばな)
「灸花」とは、「ヘクソカズラ(屁糞葛)」のことで、アカネ科ヘクソカズラ属の蔓(つる)性多年草で、藪や道端など至る所に生える雑草です。
夏に中心部が赤紅色の白い小花を咲かせますが、葉や茎を傷つけると悪臭を放つため「ヘクソカズラ」という名前があります。
「やいと」とは「お灸」のことですが、花の色が「もぐさ」あるいは「お灸のあとのかさぶた」にも見えることから「灸花(やいとばな)」と呼ばれています。
子季語・関連季語には、「屁糞葛(へくそかずら)」があります。
例句としては、次のようなものがあります。
・灸花 七番寺に 喘ぎ坂(高澤良一)
・どくだみの 終わりしからに 灸花(後藤夜半)
・名をへくそ かずらとぞいふ 花盛り(高浜虚子)
・こぼれても 咲いても親し やいと花(北川サト)
2.甘酒(あまざけ)
「甘酒」は、白米を焚(た)いて十分に搗(つ)きつぶし、米麴(こめこうじ)と混ぜて密封し一晩置くか、粥に焚いた白米に米麴を混ぜて密封して作る酒です。
両者とも温度によって発酵の違いがありますが、一夜で出来上がることから「一夜酒」とも呼ばれ、古くは祭酒に使われていました。
江戸時代には「暑気を散ずる」として夏に好んで飲まれていたため、「夏」の季語となっています。しかし現在では主に冬に熱したものが飲まれることが多いようです。
私はひな祭りに飲む「白酒(しろざけ)」や、花祭りの時に仏像に注ぎかける「甘茶(あまちゃ)」は知っていますが、「甘酒」はあまりなじみがありません。
正月に参拝客に「甘酒」を振る舞ったり、自宅に持ち帰る「甘酒」を販売する寺社も多いそうです。
子季語・関連季語には、「一夜酒(ひとよざけ)」「醴(あまざけ)」「醴酒(こさけ、こざけ)」「甘酒売(あまざけうり)」「甘酒屋」などがあります。
例句としては、次のようなものがあります。
・百姓のしぼる油や一夜酒(宝井其角)
・一夜酒隣の子迄来たりけり(小林一茶)
・御仏に昼供へけりひと夜酒(与謝蕪村)
・甘酒屋打出の浜におろしけり(松瀬青々)
3.夕焼け(ゆうやけ)
「夕焼け」は、夕方に太陽が西の空に沈んだ後もしばらくは空が茜色に染まり、なかなか日が暮れない様子のことです。
「夕焼け」は四季を通じて見られるもので、私などは個人的には秋の夕焼けが最も印象的で好きです。
しかし俳句では、「夏」の季語となっています。長い梅雨が明けて、晴天の多くなった晩夏が、特に美しく感じられるためのようです。
確かに夏の夕焼けは大地を焼き尽くすように壮大なものです。
子季語・関連季語には、「ゆやけ」「夕焼雲(ゆうやけぐも、ゆやけぐも」「梅雨夕焼」「大夕焼」などがあります。
なお、「春の夕焼」「秋の夕焼」「冬の夕焼・寒夕焼・寒茜」のように、「夕焼」に季節の言葉が付くと、それぞれの季節の夕焼けを指す季語となります。
例句としては、次のようなものがあります。
・アカシヤに 夕焼雲の いなびかり(飯田蛇笏)
・夕焼や 杉の梢の 凌霄花(のうぜんかずら)(村上鬼城)
・ちぎれつつ 吹きとぶ雲も 夕焼けし(山口青邨)
・ほどよう 御飯が炊けて 夕焼ける(種田山頭火)
4.赤潮(あかしお)
「赤潮」は、栄養塩などの変化によってプランクトンが異常繁殖し、海や運河などが赤く変色する現象です。
水が赤く染まることが多いため、「赤潮」と呼ばれます。夏に発生することが多く、養殖の魚介類などに被害をもたらします。
子季語・関連季語には、「くされ潮(くされじお)」などがあります。
例句としては、次のようなものがあります。
・赤潮の 海辺おそれず 眠れ眠れ(金子兜太)
・赤潮は よその沙汰なり 握り寿司(阿波野青畝)
・赤潮や 海の怒れる いろならむ(吉年虹二)
・赤潮の 迫れる真珠 筏かな(山田不染)
5.目高(めだか)
目高は童謡「めだかの学校」にも歌われましたが、最近は「ペットショップ」でたくさんの種類が売られているほかは、自然の中ではめったにお目に掛からなくなりました。
目高と言えば「春の小川」を泳いでいる印象が強いですが、「夏」の季語です。
子季語・関連季語には、「緋目高(ひめだか)」「白目高(しろめだか)」などがあります。
例句としては、次のようなものがあります。
・苗代へ 分かるる水の 目高哉(正岡子規)
・群れに入る 目高素早く 幸福に(金子兜太)
・菱の中 日向ありけり 目高浮く(村上鬼城)
・緋目高の つゝいてゐるよ 蓮の茎(原 石鼎)