前に「日本に古くからある花の漢字名」をどう読むかをご紹介する記事を書きましたが、今回は最近種類も豊富になってきた洋花(外来の花)を日本名で漢字でどう書くか(和名)をご紹介したいと思います。
名前は知らなくても、見かけたことのある花も多いと思います。百花繚乱の画像とともにお楽しみください。
今回は「な行~は行」の花をご紹介します。
1.洋花(外来の花)のカタカナ名
(1)な行
①ナスタチウム、②ニゲラ、③ネモフィラ
(2)は行
①ハイビスカス、②パンジー、③ヒソップ、④ヒペリカム、⑤ヒヤシンス、⑥ピラカンサ、⑦プラタナス、⑧フリージア、⑨ブーゲンビリア、⑩ブルースター、⑪ペチュニア、⑫ヘリオトロープ、⑬ヘリクリサム、⑭ベルフラワー、⑮ヘレニウム、⑯ペンステモン、⑰ペンタス、⑱ポインセチア、⑲ポトス、⑳ポピー
2.洋花(外来の花)の漢字名(和名)
(1)な行
①ナスタチウム:金蓮花(きんれんか)/凌霄葉蓮(のうぜんはれん)
「ナスタチウム」は、南米のアンデス山脈などの熱帯高地原産のノウゼンハレン(凌霄葉蓮)科の一年草です。
「ナスタチウム(Nasturtium)」という名前は、ラテン語の「nasus(鼻)」と「tortus(ねじる)」が語源です。ナスタチウムには辛(から)みがあって、「鼻がねじれるほど辛い」ことに由来します。
この「Nasturtium」という名前は、「クレソンなどのオランダガラシ属の学名」でもあります。味が似ているからだそうですが、「違う植物の学名」を名前に持つ植物とは珍しいですね。
「ナスタチウム」の学名は「Tropaeolum」ですが、これは「トロフィー」が由来です。古代ギリシャでは戦いに勝利すると、ポールを立て、そこに負けた敵の鎧と武器を掛け、戦利品としました。これを「トロパイオン(tropaion)」と呼び、今のトロフィーの元となりました。
ナスタチウムの丸い葉を「盾」、赤い花を「血に染まった鎧や兜」に見立てて、トロフィーの名が付けられたと言われています。
「金蓮花」「凌霄葉蓮」の二つの和名は、黄色や橙色の花が凌霄花(のうぜんかずら)に似て、葉が蓮(はす)に似ていることから付けられました。
②ニゲラ:黒種草(くろたねそう)
「ニゲラ」は、南欧・地中海沿岸・西アジア原産のキンポウゲ(金鳳花)科の一年草です。
「ニゲラ(Nigella)」という名前は、ラテン語で「黒い」を意味する「ニゲル(niger)」という言葉が語源で、種子の色が黒いことに由来します。
また種子は芳香があり、アリッシア時代にはパンやケーキの香り付けにこの種子が使われたそうです。
和名の「黒種草」もこの種子の特徴から付けられました。
③ネモフィラ:瑠璃唐草(るりからくさ)
「ネモフィラ」は、今大人気の花なのでご存知の方も多いと思います。
ネモフィラの名所として有名なのは、茨城県の「国営ひたち海浜公園」(下の画像)、埼玉県の「国営武蔵丘陵森林公園」、東京都の「国営昭和記念公園」などです。
この花は森の妖精のような、澄んだブルーの花が愛らしく、春の花壇やコンテナの寄せ植えなどに多く利用されています。細かく切れ込んだ葉が密に茂り、自然に分枝して咲きながら大きくこんもりと成長します。
「ネモフィラ(Nemophila)」という名前は、ギリシャ語の「nemos(小さな森)」と「phileo(愛する)」を語源とし、原種が森の周辺の明るい日だまりに自生することに由来します。
青い花の中心が白いその花姿から、英語では「Baby blue eyes(赤ちゃんの青い瞳)」と呼ばれています。
(2)は行
①ハイビスカス:仏桑華(ぶっそうげ)/扶桑花(ふそうげ)
「ハイビスカス」は、ハワイ諸島・モーリシャス島原産のアオイ科の非耐寒性の常緑低木で、開花期は5月~10月です。華やかな美しい花が魅力の熱帯花木として人気があります。
「ハイビスカス(Hibiscus)」という名前は、エジプトの女神「ヒビス(Hibis)」とギリシャ語の「isko(似る)」が語源で、「女神のような美しさを持つ花」という意味です。
②パンジー:三色菫(さんしきすみれ)
「パンジー」は、ヨーロッパ原産のスミレ(菫)科の一年または二年草です。
「パンジー(Pansy)」という名前は、フランス語で「思い」「考え」を意味する「パンセ(pensee)」に由来します。
③ヒソップ:柳薄荷(やなぎはっか)
「ヒソップ」は、地中海の東から中央アジアに自生するシソ(紫蘇)科ヤナギハッカ(柳薄荷)属の半樹木です。
「ヒソップ(Hyssop)」という名前は、ヘブライ語の「Ezob(聖なる草)」という言葉で、穢れを払うと信じられていたことに由来します。
旧約聖書の詩篇には「ヒソプをもって我が身を清めたまへ」という一節があります。
④ヒペリカム:小坊主弟切(こぼうずおとぎり)
「ヒペリカム」は、中央アジア・地中海沿岸原産のオトギリソウ(弟切草)科の落葉ないし常緑低木です。
「ヒペリカム(Hypericum)」という名前は、ギリシャ語の「hyper(上に)」と「eikon(像)」を語源とし、悪魔よけの像の上にこの花が置かれていたことに由来します。
⑤ヒヤシンス:風信子(ひやしんす/ふうしんし)/飛信子(ひやしんす)
「ヒヤシンス」は、雪が溶け始める頃になると花が開き始めます。開花したヒアシンスは爽やかな青葉のような香りを漂わせます。この香りの成分は香水にも利用され、疲労回復やリラックス効果があると言われています。
「ヒヤシンス(Hyacinthus)」の名前は、ギリシャ神話の美少年「ヒュアキントス」が語源です。
日本に伝来したタイミングで当て字で「風信子」「飛信子」の漢字が当てられました。
⑥ピラカンサ:常磐山査子(ときわさんざし)
「ピラカンサ」は、南欧および西アジア原産のバラ(薔薇)科ピラカンサ属の常緑樹で、明治時代中期に日本へ渡来しました。
花や秋にできる実がサンザシ(山査子)(下の画像)に似ていることと、常緑であることから、「常磐山査子」という和名が付けられました。
「ピラカンサ(Pyracantha)」という名前は、ギリシャ語で「火、炎」という意味の「pyr」と「棘」という意味の「akantha」が語源です。この植物の果実の色と枝に生えたたくさんの棘に由来して付けられました。
⑦プラタナス:鈴懸の木(すずかけのき)
「プラタナス」は、スズカケノキ(鈴懸の木)科の落葉高木です。大きな葉で木陰を作ることを目的として、北海道から九州まで日本各地に植栽されています。
古代ギリシャ時代から並木に使われ、トチノキ・ニレ・シナノキとともに、「世界四大並木樹種」の一つに数えられています。
山伏の装束である「鈴懸」(山伏が胸に装着する「結袈裟(ゆいげさ)」)につける球形の房(「梵天」という)(下の画像)にプラタナスの果実が似ていることから、和名で「鈴懸の木」と呼ばれるようになりました。「鈴をぶら下げたような実」がなるからと思っている方も多いかもしれませんが・・・
「プラタナス(Platanus)」という名前は、この木の葉っぱが大きいことから、ギリシャ語で「広い」という意味の「platys」を語源とし、この木のギリシャ名が「platanos」と名付けられ、それにちなんで付けられました。
日本へはこの植物の仲間がいくつか渡来しましたが、「スズカケノキ(鈴懸の木)」と「アメリカスズカケノキ」の雑種とされる「モミジバスズカケノキ(紅葉葉鈴懸の木)」が最も普及し、「プラタナス」と呼ばれています。
⑧フリージア:浅黄水仙(あさぎすいせん)/香雪蘭(こうせつらん)/菖蒲水仙(あやめすいせん・しょうぶすいせん)
「フリージア」は、南アフリカ原産のアヤメ(菖蒲)科フリージア属の半耐寒性球根植物です。
「フリージア(Freesia)」という名前は、発見者であるデンマークの植物学者エクロンが、親友のドイツ人医師フレーゼにちなんで名付けました。
和名は、菖蒲と水仙に似ていることから「菖蒲水仙」、花の色から「浅黄水仙」、甘い香りから「香雪蘭」と名付けられました。
⑨ブーゲンビリア:筏葛(いかだかずら)/九重葛(ここのえかずら)
「ブーゲンビリア」は、中央アメリカ・南アメリカ原産のオシロイバナ(白粉花)科ブーゲンビリア属の熱帯性低木です。
「ブーゲンビリア(Bougainvillea)」という名前は、1768年にブラジルでこの木を発見したフランス人探検家ブーガンヴィルに由来します。
⑩ブルースター:瑠璃唐綿(るりとうわた)
「ブルースター」は、ブラジル・ウルグアイ原産のキョウチクトウ(夾竹桃)科のつる性多年草です。
別名は「オキシペタラム(Oxypetalum)」です。この名前の語源は、ギリシャ語で「鋭い花弁」です。
「ブルースター(Blue star)」という名前は、他の植物にはあまり見られないベビーブルーの花色の5枚の花びらと、可愛らしい星のような形の花を咲かせることから付けられました。
⑪ペチュニア:衝羽根朝顔(つくばねあさがお)
「ペチュニア」は、南米原産のナス(茄子)科ペチュニア属の植物です。
「ペチュニア(Petunia)」という名前は、ブラジル語のタバコを意味する「ペチュン(petun)」が語源です。これは当初ペチュニアがタバコ属とされていたことに由来します。
和名の「衝羽根朝顔」という名前は、江戸時代に日本へ渡来した際、花が朝顔に似ていること、また咢が羽根つきに使用する羽根に似ていることにより名付けられました。
⑫ヘリオトロープ:木立瑠璃草(きだちるりそう)/匂ひ紫(においむらさき)/香水草(こうすいそう)
「ヘリオトロープ」は、ムラサキ科キダチルリソウ属の植物です。
日本で初めて輸入して商品化された香水の香料となったハーブです。
「ヘリオトロープ(Heliotropium)」という名前は、ギリシャ語の「helios(太陽)」と「trope(向く)」が語源で、太陽に向かうという意味があります。
⑬ヘリクリサム:麦藁菊(むぎわらぎく)
「ヘリクリサム」は、オーストラリア原産のキク科ヘリクリサム属の一年草ないし多年草です。
「ヘリクリサム(Helichrysum)」という名前は、ギリシャ語の「helios(太陽)」と「chrysos(金色)」が語源で、キラキラと光り輝く花姿を表します。
⑭ベルフラワー:乙女桔梗(おとめぎきょう)
「ベルフラワー」は、東欧・クロアチアのダルメシアン原産の花です。
「ベルフラワー(Bellflower)」という名前は、花の形がベル状であることに由来します。
ベルフラワーは、小ぶりで可愛らしい花を咲かせ、桔梗のような花であることから「乙女桔梗」という和名が付きました。
⑮ヘレニウム:団子菊(だんごぎく)
「ヘレニウム」は、北アメリカ原産のキク科の多年草です。
「ヘレニウム(Helenium)」という名前は、ギリシャ神話に登場するスパルタ王妃「トロイのヘレン」が由来です。ヘレンの美しさが原因でトロイア戦争が起こったために、ヘレンが流した涙がヘレニウムになったと言われています。
⑯ペンステモン:釣鐘柳(つりがねやなぎ)
「ペンステモン」は、北米西部原産のオオバコ科イワブクロ属の多年草です。
釣鐘状の花が特徴の常緑性の植物です。
「ペンステモン(Penstemon)」という名前は、ギリシャ語で「数字の5」を意味する「pente」と「雄しべ」を意味する「stemon」が語源です。仮雄ずい1個が目立って、本来は4個しかない雄しべがまるで5個あるように見えることに由来しています。
⑰ペンタス:草山丹花(くささんたんか)
「ペンタス」は、熱帯アフリカ原産のアカネ科ペンタス属の常緑低木です。
「ペンタス(Pentas)」という名前は、ギリシャ語で「数字の5」を意味する「pente」が語源で、ペンタスの花びらの数が5枚であることに由来します。
英語名の「Star cluster(星団)」は、星のような花の形にちなんでいます。
和名の「草山丹花」は、花姿が「山丹花」(下の画像)に似ていることに由来します。
⑱ポインセチア:猩々木(しょうじょうぼく)
「ポインセチア」は、メキシコ原産のトウダイグサ(燈台草)科の常緑低木です。
日本ではクリスマスの代名詞のような植物で、冬になると至る所でこの花の姿を見かけます。
「ポインセチア(Poinsettia)」という名前は、アメリカの外交官(初代メキシコ公使)ポインセットが、駐在していたメキシコで発見し、1829年頃に本国に持ち帰ったことから、彼の名にちなんで1836年にラテン語で命名されたものです。
⑲ポトス:黄金葛(おうごんかずら)
「ポトス」は、ソロモン諸島および東南アジア原産のサトイモ科エピプレムヌム属のつる性植物です。
「ポトス(Pothos)」という名前は、かつて「ポトス属」に分類されていた名残で、園芸名はポトスと言われています。
「ポトス」は10年に一度しか花を咲かせないそうです。私も家で数年間は観葉植物として置いてい ましたが、花を見たことはありませんでした。
⑳ポピー:雛罌粟・雛芥子(ひなげし)/虞美人草(ぐびじんそう)
「ポピー」は、北アメリカ原産のケシ科ケシ属の多年草です。
フランスやポーランドの国花となっています。
「ポピー(Poppy)」という名前は、ラテン語で「粥」という意味の「papa」が語源です。幼児を眠らせるためにお粥の中にケシの乳液を加えたことから名付けられました。
和名の「虞美人草」は古めかしい名前なので、どんな花だろうと思う方もおおいかもしれませんが、「ヒナゲシ」のことです。昔アグネス・チャンが歌ってヒットした「ひなげしの花」のことです。夏目漱石の最初の新聞小説の題名も「虞美人草」でした。
「コクリコ坂から」というアニメ映画がありましたが、この「コクリコ(雛罌粟)」も「ヒナゲシ」のことです。このタイトルは原作者の佐山哲郎が歌人で、与謝野晶子の短歌「ああ皐月仏蘭西の野は火の色す君も雛罌粟我も雛罌粟」から取ったそうです。
話がだいぶ脱線しましたが、「虞美人草」という名前は虞美人(?~B.C.202年頃)の伝説に由来します。虞美人は、古代中国の秦末の楚王・項羽(B.C.232年~B.C.202年)の愛妃で、虞姫(ぐき)、楚姫とも呼ばれます。
秦が滅びた後、項羽は漢の劉邦(高祖)と天下の覇権を争っていましたが、愛妃の虞美人も常に軍中に従っていました。しかしB.C.202年、劉邦のために垓下に包囲され(垓下の戦い)、夜漢軍が楚の歌を歌う(四面楚歌)のを聞いた項羽は故郷が漢に占領されてしまったと思い、別れの酒宴を開いて名馬騅(すい)や虞美人に対する辞世の詩を歌うと、彼女も唱和し、皆泣き伏したということです。
彼女は項羽の足手まといにならぬよう自害しました。彼女が自害した時の鮮血が化してこの花になったということです。