漢字には、「本来の意味」のほかに「派生した意味」があるのは普通ですが、「労」という漢字の意味は、「働く」から「苦労する」「犒う」「病気」とバラエティーに富んでいます。
最近は「額に汗して働く」とか「歯を食いしばって頑張る」ことを、「ダサい」とか「格好悪い」として齷齪(あくせく)しない「イージーゴーイング(easygoing)」な考え方の若者も増えてきたようです。
1.「労」という漢字の成り立ち
「労」(旧字体:勞)は「会意文字」(「熒」の省略形+力)です。「松明(たいまつ)を組み合わせた篝火(かがりび)」の象形と「力強い腕」の象形から、篝火が燃焼するように力を燃焼させて「働く」「疲れる」「苦労する」「(頑張りすぎて)病気になる」、またその疲れを「犒(ねぎら)う」「いたわる」を意味する「労」という漢字が成り立ちました。
「労」は「勞」の略字です。漢字の成り立ちを知る上では、旧字体の「勞」が欠かせません。
なお、「勞」の上の部分を「松明を組み合わせた篝火」の象形ではなく、「屋根」と「二つの火」と見立てて、「屋根が火で燃えている時に人が出す労力の意味」とし、「大きな力を出して働くことを言う」とする説もあります。
まさに「火事場の馬鹿力」というわけで、こちらの方が強烈なインパクトのある解釈ですね。
2.二宮金次郎像
私が小学生のころは、どこの小学校にも「薪を背負いながら本を読んで歩く姿」(負薪読書図)の「二宮金次郎像」(石像や銅像)がありました。
二宮尊徳(通称:二宮金次郎)の弟子の富田高慶が著した「報徳記」には、「大学の書を懐にして、途中歩みながらこれを誦し、少しも怠らず」とあります。
二宮尊徳の「勤労」と「向学心」という二つの美徳は、今も輝きを失っていないはずです。
いつの間にか「二宮金次郎像」を見かけなくなりました。いつ頃どういう理由で撤去されたのでしょうか?
全国の小学校校舎の老朽化や耐震強化のための建て直しの際に撤去されているようです。
理由は、「児童の教育方針にそぐわない」「子どもが働く姿を勧めることはできない」「戦時教育の名残という指摘」「『歩いて本を読むのは危険』という保護者の声」などのほかに、「ながらスマホを助長する」という理由もあるそうです。
私は「歩きながら本を読むと目が悪くなるから」が理由かと思っていたのですが・・・
3.「労」を含む言葉
(1)忠労(ちゅうろう)
誠意を込めて力を尽くすこと。
(2)辛労(しんろう)
ひどく苦労すること。骨を折ること。
(3)所労(しょろう)
病気。または、疲労。
(4)労(いたずき/いたつき)
病気。
(5)慰労(いろう)
働きや苦労をねぎらうこと。
4.「労」を含む四字熟語
(1)以逸待労(いいつたいろう)
こちらが動かないときに、相手が動かなければいけない情況を作って相手の疲弊を狙う策略。
「兵法三十六計」の第四計。局面の主導権を握ることの重要性をいうもの。
(2)一労永逸(いちろうえいいつ)
一度苦労すれば、その後は長く利益が得られ、安定した暮らしが送れること。
「一労」は一度の苦労。または、少しの苦労。「永」は長くの意味。「逸」は安楽、利益のこと。
「一たび労して永く逸んず」とも読みます。
(3)以労撃逸(いろうげきいつ)
疲労のたまった軍隊で気力に満ちた軍隊を打ち倒すこと。「労」は疲労。「逸」は休むこと。
「労を以て逸を撃つ」とも読みます。
中国の三国時代の魏の張既は、疲弊した遠征軍を率いて、策略によって他国を平定したという故事から。
(4)汗馬之労(かんばのろう)
物事を成功させるために、苦労しながらあちこち駆け回ること。
「汗馬」は馬に汗をかかせるということから、戦場で功績を得るために駆け巡るということ。
(5)勲労功伐(くんろうこうばつ)
成果や功績のこと。または、成果や功績を上げること。
「勲」、「労」、「功」、「伐」はどれも成果や功績のこと。
人臣の功は「閲」を含めた五つ。
(6)犬馬之労(けんばのろう)
君主や他人のために出来る限りのことをすること。
自分の労力を謙遜していう言葉で、犬や馬程度の働きという意味から。
中国の三国時代、諸葛亮が劉備に出仕を承諾した故事から。
(7)好逸悪労(こういつあくろう)
苦労するのを嫌がり、遊んで暮らすことだけを求めること。
「逸」は楽しむこと。「悪」は嫌うこと。
「逸を好み労を悪む」とも読みます。
中国の後漢の医者の郭玉が言った病気を治すための四つの困難の一つ。
(8)暫労永逸(ざんろうえいいつ)
先に苦労をして、その後はずっとのんびりと暮らすこと。
「暫労」は一時的に頑張って働くこと。「永逸」はいつまでものんびりと暮らすこと。
(9)辛苦心労(しんくしんろう)
ひどく辛い思いや心配事。また、それについて悩むこと。
「心労辛苦」「辛労辛苦」とも言います。
(10)薪水之労(しんすいのろう)
人に仕えて、怠けず懸命に働くこと。または、炊事などの家事仕事。
「薪水」は薪を拾いに行って、水を汲みに行くこと。
(11)日昃之労(にっしょくのろう)
午後まで休むことなく、昼食すら食べずに働くこと。また、精一杯努力して働くことのたとえ。
「日昃」は現在の午後二時頃のこと。
(12)能者多労(のうしゃたろう)
能力がある人は、いろいろな仕事を任されるので、普通な人よりも苦労することが多いということ。「能者」は普通の人よりも能力がある人のこと。
忙しくて苦労していることを慰めたりするときに使う言葉。
「能者、労多し」とも読みます。
(13)煩労汚辱(はんろうおじょく)
面倒な苦労や恥のこと。「煩労」は面倒で無駄な労力のこと。「汚辱」は辱めのこと。
(14)疲労困憊(ひろうこんぱい)
疲れ果てること。「困憊」は酷く疲れて弱ること。
(15)蚊虻之労(ぶんぼうのろう)
価値のない、つまらない技術のこと。「蚊虻」は虫のかとあぶ。
蚊や虻のような小さな労力という意味から。
(16)胼胝之労(へんちのろう/へんていのろう)
非常に辛い苦労をすること。「胼胝」は皮膚が厚く固くなるたこやひび、あかぎれ。
たこやひび、あかぎれができるほどに苦労するという意味から。