豊かで細やかな季語(その2「春」)薄氷・余寒・野火・初花・忘れ霜など

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片栗の花

私は外国語学習としては英語とドイツ語を習いましたが、必ずしも上達したとは言えません。

欧米欧米人には今でもアジア系民族への人種差別意識が根強くありますが、彼らから英語で揶揄されても岡倉天心のように、当意即妙に英語で応酬することは私にはできません。

語学の天才か帰国子女でもない限り、英語の微妙なニュアンスまで体得することは至難の業です。

我々日本人としてはそんな無理なことに挑戦するよりも、俳句の季語のような豊かで細やかな日本語、美しい日本語をもっと深く知るほうがよほど易しいし、気持ちを豊かにしてくれると思います。

これまでにも、「四季の季節感を表す美しい言葉(その1「春」)」「四季の季節感を表す美しい言葉(その2「夏」)」「四季の季節感を表す美しい言葉(その3「秋」)」「四季の季節感を表す美しい言葉(その4「冬」)」などで多くの季語をご紹介して来ましたが、まだまだ美しい季語があります。

二回目は「春」の季語をご紹介します。

・片栗の花(かたくりのはな)

ゆり科の多年草で山地の樹陰などに多く自生します。早春、地上に二葉を出してその間から長い花茎をのばし姫百合に似た鐘形で紅紫色の六弁花を一個下垂する。「かたかごの花」、「うばゆり」などとも呼ばれ可憐な花です。

<子季語>かたかごの花、ぶんだいゆり、かたばなうばゆり、かたばな、はつゆり

<例句>片栗の花を咲かせて山しづか(長谷川櫂)

・薄氷(うすらい)

薄氷

薄氷は、一般的には「はくひょう・うすごおり」と読みますが、俳句では、和語の「うすらひ」と読んで春の季語としています。

春浅いころの薄く張った氷のこと。または、解け残った薄い氷のことも言います。冬の氷と違い、消えやすいことから、淡くはかない印象があります。

<子季語>うすらひ、春の氷

<例句>薄氷の草を離るゝ汀(みぎわ)かな(高浜虚子

・余寒(よかん)

寒が明けてからもなお残る寒さのことです。春の兆しはそれとなくあるものの、まだまだ寒さは続きます。
立秋以後の暑さを「残暑」と言いますが、それに対応する季語です。

<子季語>残る寒さ

<例句>関能の戸の(または「関守の」)火鉢小さき余寒かな(与謝蕪村

・野火(のび)

鵜殿のヨシ焼き

春先に野原の枯草を焼く火、野焼きの火のことです。草萌えをよくし害虫を駆除するため、山、畑、野、畦、芝などを焼きます。その灰は肥料となります。

<子季語>野焼、野焼く、草焼く、堤焼く

<例句>野火今は月の光に衰ふる(日野草城

・いぬふぐり

イヌフグリ

ゴマノハグサ科の二年草です。早春の道の辺や草原に生えます。空色の可憐な小さい花をつけ、踏まれても逞しくはびこります。名前は実の形から来ています。

なお「オオイヌノフグリ」については、「植物の名前は漢字で書くほうが想像しやすく、名前の由来もわかる!」という記事に詳しく書いていますので、ご一読ください。。

<子季語>ひょうたんぐさ、いぬのふぐり、おおいぬのふぐり

<例句>午過の花閉ぢかかる犬ふぐり(松本たかし)

・芽柳(めやなぎ)

芽柳

柳の新芽のことです。柳が芽吹くのは桜の花の頃と重なり、その柔らかな緑の芽は古来春の
代表的な色どりとして「柳桜」と愛されました。新芽の前に花を咲かせますが、目立ちません。

<子季語>柳の芽、芽ばり柳

<例句>古川にこびて芽を張る柳かな(松尾芭蕉

・剪定(せんてい)

桃の木の剪定

林檎、梨、桃、などの果樹の結実をよくするため、芽の出る前に
枝を刈り込むことです。この作業によって風通しや日当りが良くなります。

<子季語>剪定期、剪枝

<例句>剪定の試し鋏を猫柳(湯浅桃邑)

・初桜(はつざくら)

その年に初めて咲いた桜のことです。「初花」と同義ですが、初花より
も植物であることに重きが置かれています。

<例句>旅人の鼻まだ寒し初ざくら(与謝蕪村)

・初花(はつはな)

その年の春、初めて咲く桜のことです。一輪二輪、枝に咲いている姿は初々しく可憐です。
心待ちにしていた開花を喜ぶ気持ちが「初」という文字に現れています。

<例句>初花に命七十五年ほど(松尾芭蕉)

・草餅(くさもち)

草餅

蓬(よもぎ)の柔らかい新芽を餅に搗き込んで作ります。高い香りと若草色が特徴。「蓬餅(よもぎもち)とも言います。かつては 母子草(春の七草のひとつ、ごぎょう)を使ったので、「母子餅」とも言いました。 現在も地方によっては、母子草を使った草餅が作られています。

<子季語>蓬餅、草の餅、母子餅、草団子

<例句>おらが世やそこらの草も餅になる(小林一茶

・桜餅(さくらもち)

桜餅

塩漬けの桜の葉で包んだ餅です。江戸で生まれた菓子のひとつですが、関東は小麦粉地を焼いたもので餡を包み、関西は道明寺糒(ほしいい)の生地で包んだものが主流です。薄い塩味に桜の葉のほのかな香りがあります。

<例句>さくら餅うちかさなりてふくよかに(日野草城)

・梨の花(なしのはな)

梨の花

バラ科の落葉高木。高さ十メートルにも達しますが、栽培するものは枝をたわめて棚づくりします。花は四月下旬から五月にかけて新葉とともに開きます。白色五弁で花盛りになると白い花で埋まります。

<子季語>梨花、梨咲く、梨散る

<例句>梨咲くやいくさのあとの崩れ家(正岡子規

・春陰(しゅんいん)

春のの曇りがちな空模様のことです。

<例句>春陰や眠る田螺の一ゆるぎ(原石鼎)

・忘れ霜(わすれじも)

春、遅くなってから降りる霜のことです。古来「八十八夜の別れ霜」といって、立春から数え
て八十八夜(五月二日頃)ごろに最後の霜が降りると、農家に恐れられました。野菜や桑や茶
などに害をもたらす霜です。

<子季語>別れ霜、霜の名残、晩霜、終霜、名残の霜、霜の別れ、霜の果、霜害

<例句>鶯も元気を直せ忘れ霜(小林一茶)

・春の闇(はるのやみ)

月のない春の夜の闇を言います。潤んだ闇のそこここに、たしかな春の息吹が感じられます。

<子季語>春闇(はるやみ)

<例句>灯をともす掌にある春の闇(高浜虚子)

・花明かり(はなあかり)

桜の花が満開で、闇の中でも辺りをほんのりと明るく照らすように感じられることを表しています。

なお、日本画家の東山魁夷が昭和43年(1968年)に発表した連作「京洛四季(けいらくしき)」の作品の一つに「花明かり」(下の画像・左側)があります。京都市東山区にある円山公園の枝垂桜と満月(下の画像・右側)を描いたものです。

東山魁夷・花明かり



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