「彩雲」は七色に輝く虹色の不思議な雲! 雲の色の不思議(その3) 

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彩雲

私たちの生活で日々目にする雲は、通常は白色で雨雲は灰色や黒色に見えますが、それ以外に「彩雲」という七色に輝く虹色の不思議な雲があるのをご存知でしょうか?

雲自体は白色や黒色の物体でできているわけではありません。

白色の雲については「雲の色はなぜ白色なのか? 雲の色の不思議(その1)」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。

雨雲の色については「雨雲の色はなぜ灰色や黒色なのか? 雲の色の不思議(その2)」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。

また空の色に関しては、前に「空はなぜ青色なのか? 空の色の不思議(その1)」「日の出や日没の空はなぜ赤色に見えるのか?空の色の不思議(その2)」「薄明の焼け空・ブルーモーメント・ビーナスベルトとは? 空の色の不思議(その3)」という記事を書きましたが、原理的には空の色と同じ「光の乱反射」です。

そこで今回は、「彩雲」についてわかりやすくご紹介したいと思います。

1.「彩雲」とは

彩雲

雲の色といえば白色や灰色、黒色をイメージしますが、時には七色に輝く虹色に見える雲もあります。この不思議な色の雲を「彩雲」と呼びます。

 「彩雲(さいうん)」( iridescent clouds)とは、雲が太陽の近くを通りかかった場合に太陽の光が雲つぶの間を通りぬけるときに散乱したり曲がったりして、光どうしが干渉することで緑や赤など多色の模様がまだらに見える現象のことです。

「巻積雲」(うろこ雲)や「高積雲」(ひつじ雲)が太陽のそばを通るときに起こることが多いようです。

昔から「瑞相(ずいそう)」(良いことが起きる前ぶれ)の一つであるとされ、これが現れることは吉兆とされますが、実際はありふれた気象現象です。瑞雲(ずいうん)、慶雲景雲(けいうん)、紫雲(しうん)などの雅称があります。

 仏教の彫刻や絵画には、「五色」にいろどられた雲が登場することがありますが、これは「彩雲」を表したものだと考えられています。

 冬は、気圧配置の関係で「彩雲」があらわれる確率が高まります。寒さに身をちぢめて、下を向いて歩きがちな季節ですが、晴れた日に空を見上げると、「彩雲」に出逢えるかもしれませんよ。

2.発生条件と鑑別

この現象は、太陽光が雲に含まれる水滴で回折し、その度合いが光の波長によって違うために生ずるもので、大気光象の1つです。

巻雲、巻積雲、巻層雲や高積雲に現れ、風でちぎられた積雲に見えることもあります。また、成層圏に発生する真珠母雲も同様の回折による光彩 (iridescence) を特徴とする雲です。

彩雲の光彩 (iridescence) は、順序立って色が並んだ一定間隔の平行な縞模様を基本としつつ、それが歪んだ形になります。雲の輪郭・縁に平行な縞模様となることが多いようです。

雲の水滴粒子(雲粒)の大きさが揃って均一に近いほど、鮮明な色彩となります。

薄いベールのような巻雲や巻層雲では雲のどの部分でも現れますが、辺縁部の方が見やすいです。中心部が厚い巻積雲、高積雲や積雲では、雲の断片が太陽または月に近づいた時に、その辺縁部に現れます。

発達した積雲の頂上に帽子をかぶったようにできる頭巾雲・ベール雲にもしばしば現れます。また、雲粒が均一なことが多いレンズ状の雲では大きなものが現れることがあります。

太陽(または月)からの天空上での見かけの大きさ(視角度)が 10度以内に現れるものが多いですが、20度~30度以内に現れることもあります。

なお、太陽を中心点とする同心円状に光彩が現れる光冠」(下の写真)と異なり、「彩雲」の模様は太陽からの同心円に平行ではなくばらばらとなります。なお光冠も回折によって起こり、同様の雲に見られます。

光冠

雲の辺縁部や断片雲で雲が消えつつあるとき、蒸発する前の水滴は表面張力の作用で同じ大きさの粒が揃いやすくなります。雲の中心部は大粒、外側は小粒ですが、その大きさの変化が小さくて順序良く帯状に並ぶことがあって、このとき「彩雲」が見えやすくなります。

同径の粒子は回折を経た色が同一になるので、粒子径の分布が縞模様の見え方に反映されています。なお、水滴(上空では過冷却水滴)のみならず、微小氷晶の雲でも発生するという研究があります。

「彩雲」とよく混同されるのが「環水平アーク」(下の写真)です。環水平アークは太陽高度が58度以上と高いとき(夏季を主とした昼間)太陽の下方に現れる、水平線に平行な(見かけ上はやや上に反って見える)虹色の光彩の帯で、雲の中の氷晶により見られます。

環水平アーク

  • 彩雲の光彩模様は不規則で曲がった帯状。環水平アークの模様は水平線に平行
  • 彩雲は太陽の近くで見える。環水平アークは太陽から一定の距離だけ(目安として腕を伸ばして手のひら2つ分)離れている
  • 彩雲は太陽が低くても見えるが、環水平アークは太陽が高くなければ見えない
  • 彩雲は光彩の色相が幾重にも繰り返すが、環水平アークはふつう虹1つ分の色相で上が赤・下が青紫

などが鑑別のポイントとなります。

また、「彩雲」は「環水平アーク」と共に地震雲の例に挙げられることもありますが、地震の発生メカニズムとの関連は科学的には示されていません。

写真撮影に当たっては、太陽に近いところに現れるため、強い光による白飛びを避ける工夫が必要です。雲の厚い部分に太陽が隠れるタイミングに撮る、建物の出っ張った部分などを利用し太陽だけが隠れるようにする、などの方法があります。

3.文化との関わり

「彩雲」は「景雲」や「慶雲」、また「瑞雲」などとも呼ばれ、仏教などにおいては「日暈」などとともに、寺院の落慶、開眼法要などには「五色の彩雲」等と呼ばれる、仏教的に重要な際によく発生する現象として認識されていました。また、西方極楽浄土から阿弥陀如来が菩薩を随えて、五色の雲に乗ってやってくる『来迎図』などにも描かれており、瑞相の一つとしても捉えられていました。

阿弥陀如来来迎図

日本における記述例としては、『続日本紀』神護景雲元年(767年)7月23日条と9月1日条に、五色雲の記録が見られます。

また、その出現自体が改元の理由ともなり得て、飛鳥時代の704年から708年までは「慶雲」、奈良時代の767年から770年までは「神護景雲」の2つの年号が採用されました。

実際には上に述べた「環水平アーク」同様、特定の気象条件や大気の状態により発生する、それほど珍しくない大気現象ですが、それ故に特定の事象、行事と結びつけて認識されることが多々あったと考えられます。

4.仏教における「五色」とは

五色

「五色(ごしき)」は、仏教において如来の精神や智慧を5つの色で表すものです。青・黄・赤・白・黒が基本となる五色ですが、青の代用に緑、黒の代用に樺色や紫を使うことがあります。

五色

ちなみに仏旗(国際仏旗)で用いられる色は、以下の5色で、意味は次の通りです。

  • 青 – 如来の毛髪の色で、心乱れず穏やかな状態で力強く生き抜く、定根(じょうこん)・禅定(ぜんじょう)を表す
  • 黄 – 如来の身体の色で、豊かな姿で確固とした揺るぎない性質、金剛(こんごう)を表す
  • 赤 – 如来の血液の色で、大いなる慈悲の心で人々を救済することが止まることのない、精進(しょうじん)を表す
  • 白 – 如来の仏歯の色で、清らかな心で諸々の悪業や煩悩の苦しみを清める、清浄(しょうじょう)を表す
  • 樺 – 如来の袈裟の色で、あらゆる侮辱や迫害、誘惑などによく耐えて怒らぬ、忍辱(にんにく)を表す

なお、日本で旧来から用いられている仏旗の色は、青が緑、樺が紫です。