ユネスコの「世界自然遺産」は曲がり角に来ている!問題点と今後の課題は何か?

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ヒグマを叱る男知床

現在、日本の世界自然遺産は、白神山地(1993年登録)・屋久島(1993年登録)・知床(2005年登録)・小笠原諸島(2011年登録)の4つがあります。

先日たまたまテレビを見ていると、NHKスペシャルの「ヒグマと老漁師~世界遺産・知床を生きる~」というのを放送していました。

この番組を見て、改めて「『世界自然遺産』は曲がり角に来ているのではないか?」と感じました。

世界遺産知床

そこで今回は、「世界自然遺産」の問題点と今後の課題について考えてみたいと思います。

1.「ヒグマと老漁師~世界遺産・知床を生きる~」

「ヒグマを叱る男」として知られる大瀬初三郎氏(84歳)は、青森県の漁師の家に生まれましたが、生活は厳しく23歳の時に故郷を離れ、出稼ぎの漁師として知床にやって来ました。

良い漁場はすでにほかの漁師の手に渡っており、残っていたのは「ヒグマの巣窟」のルシャでした。最初、ハンターにヒグマの駆除を頼みましたが、命を奪うことに後味の悪さを感じていました。

10年ほど経った時、ヒグマの命を奪わずに済むという思いから、夢中で叱り続け、それでも逃げない時は棒で追い払ったそうです。こうして「人間の方が強い」ということを子熊のときから繰り返し学習させることで、人を襲わなくなることがわかったそうです。

知床は2005年に「世界自然遺産」に登録されました。ところが5年前、ユネスコは「ルシャ川を横断する道路や橋などを撤去」するよう日本政府に勧告してきたのです。

ユネスコはまた、「大雨で山から流出した木々が沖合の定置網を破ったことをきっかけに造られた砂防ダム」が「サケやマスの遡上を妨げている」と指摘してきました。

2019年9月には、ユネスコから委託を受けた「国際自然保護連合」のアメリカの自然保護の権威・ピートランド博士が、世界自然遺産の調査団として来日し、大瀬氏は「漁師の代表」としてピートランド博士と対面しました。

世界自然遺産に対するユネスコの基本的な考え方は、「人工的なものを排除し、自然そのものの姿を後世に残すこと」です。

砂防ダムの撤去は日本側が了承し、今後北海道が撤去工事を本格的に始めるそうですが、道路と橋の問題は未解決です。

2.世界自然遺産の問題点

(1)ユネスコの「極端な人工的なものの排除」姿勢

国際連合の専門機関の一つである「ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)」は、上記の知床の例を見てもわかるように、人間との共生における必要性を無視した「極端な人工的なものの排除」姿勢を変えず、それを当該国や対象地域に住む住民に頑なに無理やり押し付けていることです。

つまり、世界自然遺産に登録されても、それを維持するために多大な負担を強いられるということです。そして、双方の折合いが付かなければ「登録抹消」ということになります。

(2)人間の生活と自然との共存共栄(共生)の視点の欠如

ヒグマが人間を襲うことが頻発したり、エゾシカの食害が甚大になる前に、人類の叡智を絞って「駆除」と「頭数管理」をどうするのかという観点が不可欠です。

サケやマスの遡上が増えすぎても、新たな問題が発生します。

「ヒグマを叱る男」の大瀬氏が生きているうちは、人間を襲うことは防げているかもしれませんが、その後も安全が保障されているわけではありません。

捕鯨反対派の国が多い影響で、長らく商業捕鯨が禁止されていましたが、その結果、鯨が増えすぎて、小型の魚が激減するという悪影響も出ています。

山林も、適切な時期に間伐や下草刈りをするなどの管理がされないと荒れ果ててしまいます。

古人の知恵の尊重や、大局的な視点が欠けているように思います。

(3)登録申請のための過度の経済的・人的負担

世界遺産登録の推薦にも多額の資金が必要で、場合によっては数十億円もかかることさえあるそうです。

その内訳は推薦書を執筆する専門家の人件費、推薦書に添付する写真などを手掛けるコンサルタント会社への委託料、推薦書の作成に向けた専門家会議の開催費用などです。

(4)登録維持のための過度の経済的・人的負担

もともと世界遺産は、1960年以降世界で急速に進んだ人間による開発の波が、文化財や自然環境に及び、その破壊から人類の宝を守ろうというのが原点です。

しかし、登録されると保護・保全のための義務が生じます。この仕組み自体は意義があると思いますが、過度の経済的・人的負担が発生するのは問題です。守っていくためのコストや人材には限界があります。

余談ですが、私は前に勤めていた会社で「ISO認証登録」のための基礎作業の一端を担ったことがあります。この「ISO認証」は、競合他社がすでに認証を取っているため、私の勤めていた会社の経営者も信用を獲得するためには「ISO認証登録」が不可欠と判断したようです。

しかし、多額のコンサルタント料、登録料や3年毎の更新費用がかかる上、1年後・2年後の維持審査というモニタリングがあり、3年後に更新審査があります。それに合格しないと「ISO認証抹消」となります。そうなると、かえって「レピュテーションリスク」(評判リスク)が発生し、厄介なことになります。

比較するのは適当ではないかもしれませんが、世界遺産も似ているような気がします。

(5)世界自然遺産の増えすぎ

観光客による経済効果があるため、今や観光産業のための「お墨付き」「格付け」のような位置づけとなっています。

そのため世界各国が「世界遺産登録競争」を繰り広げるようになって、登録申請が急増し、2019年時点で登録されている世界自然遺産は213件にも上っています。

3.世界自然遺産の今後の課題

(1)新規登録の抑制

やみくもに「世界自然遺産」の登録を増やすことに歯止めをかけることがまず必要だと思います。そして、今後はどのような方針で行くのかを再検討すべきです。

(2)厳しい登録維持基準の緩和

そこに住む人間と自然との「共生」を考え、極端に厳しい登録維持基準を見直すべきだと思います。

人跡未踏の土地であれば、「人工物排除」は簡単でしょうが、人間の生活を度外視したような「人工物排除」原理主義は、弊害の方が大きいと思います。

(3)理不尽な「人工物排除」原理主義が変わらなければ「登録返上」すべき

上に述べた「砂防ダムの撤去」を日本側が了承したのは、大変残念なことだと私は思います。もっと強く、堂々と日本側が正当であることを主張すべきだったのではないでしょうか?

そして、ユネスコ側の人間の生活を度外視したような「人工物排除」原理主義がまかり通り、日本の正当な主張が認められないのであれば、日本もアメリカと同様にユネスコから脱退して、「世界遺産登録も返上」すればよいのではないかと思います。