古来日本人は、中国から「漢語」を輸入して日本語化したのをはじめ、室町時代から江戸時代にかけてはポルトガル語やオランダ語由来の「外来語」がたくさん出来ました。
幕末から明治維新にかけては、鉄道用語はイギリス英語、医学用語はドイツ語、芸術・料理・服飾用語はフランス語由来の「外来語」がたくさん使われるようになりました。
日本語に翻訳した「和製漢語」も多く作られましたが、そのまま日本語として定着した言葉もあります。たとえば「科学」「郵便」「自由」「観念」「福祉」「革命」「意識」「右翼」「運動」「階級」「共産主義」「共和」「左翼」「失恋」「進化」「接吻」「唯物論」「人民」などです。
ポルトガル語は、日本語と最も付き合いが長いヨーロッパの言語です。日本とポルトガルの交流は約500年前の室町時代から始まり、現在ではポルトガル語由来とは忘れてしまうくらい沢山の言葉が日本語として定着しました。
そこで今回は、日本語として定着した(日本語になった)ポルトガル語由来の「外来語」(その4:マ行~ワ行)をご紹介します。
1.ミサ(Missa)
日本語の「ミサ」は、ポルトガル語のmissaが語源といわれています。
この言葉は式の最後で言われるラテン語のフレーズ「Ite, missa est.(イテ・ミサ・エスト)」に由来するそうです。
元々の意味は「行け、汝らは去らしめられる」で、近年では「行け、ミサを終わります」などとも訳されるそうです。
ミサはカトリック教会において、最後の晩餐に由来する最も重要な典礼の一つで感謝の祭儀とも呼ばれています。英語も同じ語源のmassです。
2.マンゴー(Manga)
「マンゴー」は、ポルトガル語のmangaや英語のmangoが語源といわれています。語源をさかのぼると、マレー語のmangga、タミル語のmāṅkāyに由来します。紀元前からインドやインドネシアなどで栽培されており、仏教では聖なる樹、ヒンドゥー教では宇宙万物の創造神プラジャーパティの化身とされているそうです。
3.マングローブ(Mangue)
「マングローブ」は、ポルトガル語のmagueやスペイン語のmangleが語源とされています。
語源をさかのぼると、南アメリカの先住民グアラニー族やカリブ海の先住民タイノ族の言語が由来とされていますが、正確なことは分かっていません。
その他の説には、マレー語で「海岸の樹木」の総称を意味するmangi-mangi(マンギ・マンギ)に由来するともいわれています。
4.ミイラ(Múmia)
「ミイラ」は、ポルトガル語で「没薬(もつやく)」を意味するmirraが訛った語です。
没薬とは、お香、鎮痛剤、ミイラの防腐剤などで利用されていた植物性のゴム樹脂のことです。語源を遡ると、アラビア語のmumiyah(エンバーミング)、ペルシア語のmumiya(アスファルト)やmum(ワックス) などの言葉に由来します。エンバーミングとは、遺体の保存処理のことです。英語も同じ語源のmummyです。
5.ヨーロッパ(Europa)
「ヨーロッパ」はポルトガル語のEuropa(エウロパ)に由来します。漢字表記は「欧羅巴」です。
室町時代~江戸時代にエウロパという語が伝わり、「えうろつは」と表記され、「エウロッパ」と発音されました。その後「エウ」が「ヨー」に変化して「ヨーロッパ」になったとされています。
そもそも何故ヨーロッパと呼ばれているのかは諸説あり、ギリシャ神話に登場するフェニキア王女エウローペー(europe)や、ギリシャ語の広い目(eurús+óps)、古代アッシリア語の日没、西(ereb)などの言葉が語源とされています。
6.ラシャ(Raxa)
「ラシャ」はポルトガル語で「毛織物」を意味するraxa(ラーシャ)が語源です。漢字表記は「羅紗」です。
室町時代末期の16世紀頃に南蛮貿易によってポルトガル船から輸入されました。ラシャは厚手の毛織物の一種で、密に織って起毛させているので織り目がないのが特徴です。丈夫で保温性が高いため外套や羽織として用いられ、明治時代には防寒用の軍服などで利用されました。
現在では減少傾向ですが、乗馬用のズボンや帽子などで利用されています。ビリヤード台に敷かれている緑のシートもラシャと呼んでいます。
7.リオ・デ・ジャネイロ(Rio de Janeiro)
「リオ・デ・ジャネイロ」はポルトガル語で「1月の川」という意味があります。
ポルトガル語でrioは「川」、Janeiroは「1月」のことです。なぜ1月かというと、1502年1月にポルトガル人の探検家がこの地を発見した月に由来するそうです。
リオ・デ・ジャネイロは、「リオのカーニバル」や巨大なキリスト像がある「コルコバードの丘」で有名な都市で、1960年にブラジリアに代わるまでブラジルの首都でした。
ちなみにリオ・デ・ジャネイロの住人をポルトガル語でcarioca(カリオカ)と言いますが、これはブラジル先住民のトゥピ語で「白人の家」を意味する言葉です。
8.ロザリオ(Rosário)
「ロザリオ」は、カトリック教会において聖母マリアへの祈り(アヴェ・マリア)を繰り返し唱える際に用いる数珠状の祈りの用具、およびその祈りのことです。ロザリオの祈りは、カトリック教会における伝統的な祈りで、「アヴェ・マリア」を繰り返し唱えながら福音書に記されているイエス・キリストの主な出来事を黙想していく祈りですが、ミサなどの典礼行為ではなく、私的な信心業として伝わるものです。
「ロザリオ」は、ポルトガル語のrosárioに由来します。語源をさかのぼると、ラテン語のrosarium(バラ園、バラの花冠)という言葉に由来します。rosaは「バラ」、-āriumは「~するための場所」のことです。英語も同じ語源のrosaryです。