日本語の面白い語源・由来(し-⑰)栞・醤油・芝居・正念場・旬・竹刀・七五三・霜月・ジャガ芋

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栞

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.栞(しおり)

栞

しおり」とは、本の読みかけのところに挟んで目印とする、紐や紙片などのことです。案内書。手引き。

しおりは、動詞「枝折る(しおる)」の連用形が名詞化された語です。
「しおる」とは、山道などを歩く際、迷わないように木の枝を折って道しるべとする動作のことで、そこから道しるべを「しおり」と言うようになりました。

さらに意味が転じ、書物の間に挟んで目印とするものや、案内書などを「しおり」と言うようになりました。

枝折るは「草木をたわめる、しなわせる」という意味の「撓る・萎る(しおる)」と同一語源と考えられ、漢字の「枝折る」や「枝折り」、また「栞」は全て当て字です。

2.醤油(しょうゆ)

醤油仕込み樽

醤油」とは、日本独特の液体調味料です。小麦と大豆を原料にした麹に塩を混ぜ、発酵熟成させたものと、アミノ酸に塩を混ぜたものがあります。むらさき。したじ。

醤油の「醤」は「ひしお(ひしほ)」といって、古く中国から伝来した「醤(ジャン)」に由来するといわれます。

ひしおには、野菜や海藻を原料とした「草醤(くさびしお)」、魚を原料とした「魚醤(うおびしお)」、肉を原料とした「肉醤(ししびしお)」、穀物を原料とした「穀醤(こくびしお)」などがあります。

そのうち、現在の味噌にあたる「穀醤」から滲み出した「溜まり(たまり)」を改良したものが「醤油」の原型とされ、醤からとる油のような液体なので「醤油」となりました。

醤油

「醤油」の語は、室町末期の『多聞院日記』の記事に初めて見られますが、室町中期の『文明本節用集』には「漿醤」に「しゃうゆ(しょうゆ)」の読みがされています。

醤油の起源は和歌山県の湯浅にあり、鎌倉時代に造られたものが最初とされ、江戸時代には日本独特の調味料として、ヨーロッパにも醤油が輸出されています。

3.芝居(しばい)

芝居小屋

芝居」とは、演劇。歌舞伎などの興行物。役者などが演技をすること。また、その演技のことです。人を騙すための作り事。狂言。

芝居は鎌倉時代に入ってから見られる語ですが、当初は芝の生えている場所をいう現在の「芝生」の意味で用いられたり、酒宴のために芝生に座ることをいいました。

室町時代になり、寺の本堂などで猿楽や田楽・曲舞などの興行が行われ、大衆向けに芝生を柵で囲った見物席が設けられたため、見物席を「芝居」というようになりました。

江戸時代になると歌舞伎が演劇として成立し、見物席を含む劇場そのものも「芝居」というようになり、さらに、劇場で演じられる演劇自体を「芝居」と呼ぶようになって、役者の演技も意味するようになりました。

「初芝居」は新年の季語、「夏芝居」は夏の季語で、「地芝居(じしばい)」「村芝居」は秋の季語で、次のような俳句があります。

・初芝居 苦節何十年の貌(高澤良一)

・汗拭や 左袒(ひだりかたぬ)ぐ 夏芝居(高井几董)

・地芝居の 黒子三代 植木職(中村勝臣)

・地芝居の その他大勢 役足らず(茨木和生)

4.正念場(しょうねんば)

八正道

正念場」とは、ここぞという大切な場面、真価を問われる大事な場面のことです。

正念場の「正念」は仏教語で、悟りにいたるまでの基本的な実践目得『八正道(はっしょうどう)』のひとつです。

『八正道』にある「正念」を除いた残り七つは、「正見」「正思惟」「正語」「正業」「正命」「正精進」「正定」といいます。

八正道とは

正念とは、雑念を払い仏道を思い念ずることで、正しい真理を思うことを意味し、修行の邪魔となる雑念に乱れない信心も意味します。

そこから、「正しい心」「正気」が必要な場面を「正念場」と言うようになりました。
また、正念場は歌舞伎や浄瑠璃などで、主人公が役柄の神髄を見せる最も重要な場面をいう語で、「性根場」とも書きます。

演劇の中で仏教語が用いられたことで、一般にもこの語が広まり、「正念場(性根場)」が重要な場面を表したことから、現在の意味で使われるようになりました。

5.旬(しゅん)

旬のもの

」とは、魚介類・野菜などが出盛りで最も美味な時期、物事を行うのに最適の時期、季節的に最盛である時期のことです。

旬は「10日」を意味する言葉です。
本来の読みは「じゅん」ですが、漢音で「しゅん」と読むのが習慣でした。

古くは、毎旬の初め(1日・11日・21日)と月の後半の初め(16日)に、天皇が臣下から政務を聞き、宴を催す儀式を「旬」と称しました。

平安中期以後、この儀式は4月1日と10月1日だけになり、4月を「孟夏の旬」、10月を「孟冬の旬」と称し、二つを合わせて「二孟の旬」といいました。

孟夏の旬には「扇」、孟冬の旬にはアユの幼魚である「氷魚(ひお)」を賜ったことから、最盛の時期・魚介類や野菜などの最もおいしい時期を「旬」と言うようになりました。

6.竹刀(しない)

竹刀

竹刀」とは、剣道で使用する竹製の刀、四本の割り竹の切っ先と柄にをはめたものです。ちくとう。

弾力があってしなやかに曲がる意味の動詞「撓う(しなう)」の連用形「撓い(しない)」に、「竹」がついた「撓い竹(しないたけ・しないだけ)」の略です。

「しない竹」は竹刀を作るのに用いる、よくしなう竹を指し、竹刀そのものも指しました。

「しない」の漢字表記には、「撓」「試合刀」「革刀」「竹袋」「品柄」「順刀」などもありました。

7.七五三(しちごさん)

七五三

七五三」とは、男子は3歳と5歳、女子は3歳と7歳に当たる年の11月15日に晴れ着を着せ、神社・氏神などに参詣する行事のことです。七五三の祝い。「七五三の膳」の略。「しめ縄」の別名。

七五三は、中国で祝い事に用いる数を奇数(陽の数)とした中国の思想に基づき、一・三・五・七・九の中の三つを取ったものです。

この行事のほか、本膳七菜、二の膳五菜、三の膳三菜を供えた盛大な宴の「七五三の膳」や、「しめ縄」の異称に「七五三」が用いられるのも、この思想に基づくといわれます。

子供の成長を祝う行事としての七五三は、3歳の「髪置(かみおき)」、5歳の「袴着(はかまぎ)」、7歳の「帯解(おびとき)」など、江戸時代から見られる3歳、5歳、7歳を祝う風習に由来します。

ただし、「髪置」「袴着」「帯解」の儀式は平安時代頃から見られますが、時代によって男女の別は異なり、年齢も3歳、5歳、7歳に限らず、11月15日の決まりもありませんでした。

七五三の風習が盛んになったのは、「七五三」の名称が成立した明治以降です。

「七五三」は冬の季語で、次のような俳句があります。

・人の子の 育つは早し 七五三(関 千世)

・七五三 詣り合はして 紋同じ(高浜虚子

・七五三 飴も袂も ひきずりぬ(原田種茅)

・まだ栄ゆ 老舗猿飴 七五三(水原秋桜子)

8.霜月(しもつき)

霜月

霜月」とは、旧暦11月の異称です。

霜月の語源は、「霜降り月・霜降月(しもふりつき)」の略とする説が有力とされます。

その他、十は満ちた数で一区切りなので上月になり、それに対して下月とする説。
神無月を「上な月」と考え、霜月を「下な月」とする説など、上下の「下」とみる説。
「食物月(をしものつき)」の略とする説や、「摺籾月(すりもみづき)」の意味など諸説ありますが、いずれも有力とはされていません。

なお、「月の異称」については、「和風月名以外の月の異称をご紹介します。」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。

「霜月」は冬の季語で、次のような俳句があります。

・霜月の 晦日(みそか)よ京の うす氷(池西言水)

・霜月や 日まぜにしけて 冬籠(ふゆごもり)(向井去来)

・霜月の 梨を田町に 求めけり(正岡子規

・霜月や 壺に活けたる 枝蜜柑(島村元)

9ジャガ芋(じゃがいも)

じゃが芋の花・紫

じゃがいも」とは、南米アンデス中南部山地の原産のナス科の多年草です。高さ約60センチメートル。地下茎が分枝して、その先にデンプンが蓄えられて芋となります。芋は食用とされます。馬鈴薯。

じゃがいもは、「ジャガタライモ」の略です。
ジャガタラとは、インドネシアの首都「ジャカルタ」のこと。

16世紀末頃、オランダ商船によりジャカルタから渡来したため「ジャガタライモ」と呼ばれ、「じゃがいも」となりました。

日本へ伝来した当初は、観賞用とされていました。

じゃがいもの花

芋ばかり注目される植物ですが、じゃがいもは白・黄・淡紫色などの花も咲かせます。
結実することは少ないですが、じゃがいもの果実はトマトに似ています。

「じゃがいも」「馬鈴薯」は秋の季語で、次のような俳句があります。

・じやがいもの 北海道の 土落す(中田品女)

・馬鈴薯の 宅送届く 紋別産(高澤良一)

・馬鈴薯の 白さを秘めし 土のまま(稲畑汀子)

・馬鈴薯を 夕蝉とほく 掘りいそぐ(水原秋桜子)