日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.パンジー/pansy
「パンジー」とは、「ヨーロッパ原産のスミレ科の一年または二年草」です。
パンジーは、英語「pansy」からの外来語で、「思い」「考え」を意味するフランス語「pensee(パンセ)」に由来します。
フランスの哲学者で物理学者・数学者でもあるパスカル(1623年~1662年)の随想録「パンセ」に、「人間は考える葦である」という名言がありましたね。なお「パンセ」には、「人間は気晴らしなしには、喜びはなく、気を紛らすことがあれば、悲しみはない」という言葉もあります。
「思い」や「考え」に由来するのは、パンジーが頭をたれて物思いにふける人の顔のように見えるところからです。
日本には江戸時代末期にオランダから渡来しました。
当初は「遊蝶花(ユウチョウカ)」や「胡蝶菫(コチョウスミレ)」と訳され、のちに「三色菫(サンシキスミレ)」と呼ばれましたが、英語「pansy」から「パンジー」の呼称で定着しました。
「パンジー」「三色菫」は春の季語で、次のような俳句があります。
・パンジーや 園児の朝の 礼揃ひ(阿部胤友)
・むつまじき 吾が老父母に パンジーなど(赤城さかえ)
・三色菫 三界に住む 三姉妹(重翁)
・恋知らぬ 三色菫 子と見やる(風来松)
2.浜茄子(はまなす)
「ハマナス」とは、「本州中部以北の海岸の砂地に群生するバラ科の落葉低木」です。春から夏、紅色の五弁花をつけます。浜梨。玫瑰(まいかい)。
ハマナスの語源には、「ハマナシ(浜梨)」の訛り説と、文字通り「浜辺のナス」の意味とする説があります。
「ハマナシ(浜梨)」の訛り説は、夏から秋にかけて赤く熟す果実を食用とし、その形が梨に似ているところから「浜辺の梨」と呼ばれており、ハマナスは東北地方の海岸に多く、東北では「シ」を「ス」と発音することから、「ハマナシ」が「ハマナス」に変化したというものです。
この説で問題なのは、古くから文献には「ハマナス」の形で現れ、「ハマナシ」の形が見られるようになるのは、この語源が通説となってからという点です。
現在でこそ長いナスが出回っていますが、江戸時代には丸い形のものが好まれており、古くから文献に「ハマナス」として現れること、「トマト」が「赤茄子」と呼ばれていた例もあることから、浜辺のナス説の方が有力に思えます。
しかし、トマトはナス科なのでナスにたとえられても不思議ではありませんが、多くある丸い野菜や果物の中で、ナスにたとえたという点が疑問で、これは浜梨の説にもいえることです。
たとえているとすれば、果実の形が丸いことだけではなく、味も梨に似ていることからではないかと考えられます。
「ハマナシ」が訛って「ハマナス」となった以降に文献に登場するようになったとすれば、「味や形が梨に似た浜辺のもの」の意味と考えられます。
「浜茄子」「玫瑰(はまなす/まいかい)」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・はまなすや 人工浜の 遠浅に(村上辰良)
・はまなすの 砂丘の果を 作る海(稲畑汀子)
・はまなすの 棘が悲しや 美しき(高浜虚子)
・玫瑰や 今も沖には 未来あり(中村草田男)
3.ババロア/bavarois
「ババロア」とは、「牛乳・砂糖・卵黄・ゼラチン・生クリームを混ぜ、型に流し込んで冷やし固めた菓子」です。
ババロアは、フランス語で「バイエルンの」を意味する形容詞「bavarois」からの外来語です。
ババロアがドイツの旧バイエルン王国に由来するのは、18世紀、パリのカフェ「Cafe Procope」で、バイエルン気質の貴族達が流行らせた飲み物が「ババロアーズ」と呼ばれており、そのお菓子版で「ババロア」になったとする説。
19世紀、フランス人のシェフがバイエルンに伝わっていた生クリームを使った飲み物に手を加え、バイエルン王国の貴族のために作ったことから、「ババロア」になったなどの説があります。
4.ハンバーグ/hamburg
「ハンバーグ」とは、「牛の挽き肉にパン粉・卵・炒めた玉ねぎ・調味料などを加えて混ぜ、楕円形にして焼いた料理」です。
ハンバーグは「ハンバーグ・ステーキ(hamburg steak)」の略で、「ハンバーグ」はドイツの都市「ハンブルク(Hamburg)」の英語読みです。
アメリカ英語では「hamburger steak(ハンバーガー・ステーキ)」「hamburger(ハンバーガー)」とも言い、イギリスでは「Salisbury steak(ソールズベリー・ステーキ)」と呼ばれます。
ハンバーグの起源となる料理は、ドイツで「Deutsches beefsteak(ドイッチェス・ビーフシュテーキ)」と呼ばれるタルタルステーキを火に通したものでした。
これがアメリカで「ハンバーグ・ステーキ」と呼ばれるようになったのは、ドイツ移民が持ち込んだことからや、ハンブルクとアメリカ間の航路で、固い細切れ肉を食べさせられたドイツ移民が、ドイッチェス・ビーフシュテーキを懐かしんで「ハンブルク・ステーキ」と呼んだことからといわれます。
イギリスにドイッチェス・ビーフシュテーキが渡った頃、ソールズベリーという名の医師が、食物を細かく切って食べることが体に良いと提唱しており、ハンバーグがこの主張に合っていたことから、イギリス名は医師の名をとり「ソールズベリー・ステーキ」と呼ばれるようになりました。
5.鰰/鱩/ハタハタ(はたはた)
「ハタハタ」とは、「全長約20センチのスズキ目ハタハタ科の魚」です。体形はやや細長く側扁。秋田・山形沿岸で産卵のために押し寄せたものを漁獲します。食用。「ブリコ」と呼ばれる卵も食用。カミナリウオ。
ハタハタは雷の鳴る音を表した擬音語で、「ゴロゴロ」のようなものです。
古語で雷が鳴ることは、「はたたく」といいました。
ハタハタが雷に由来するのは、晩秋から初冬の雷が多く鳴る季節に、この魚が海岸へやってくることからです。別名を「カミナリウオ(雷魚)」というのも、そのためです。
ハタハタの漢字「鰰」は、雷のことを神にたとえて「はたがみ」といったことに由来します。
また、魚偏に雷の「鱩」で「ハタハタ」を表すこともあります。
「鰰/鱩」は冬の季語です。
6.発条/撥条/バネ(ばね)
「バネ」とは、「鋼などの金属素材を巻いたり曲げたりし、その弾力性を利用して衝撃や振動を緩和したり、エネルギーを吸収・蓄積するのに用いるものの総称」です。スプリング。弾力性。跳ねる力。行動を起こすきっかけ。
バネは、「はねる(跳ねる)」の名詞形「はね(跳ね)」が変化したか、「はねる(跳ねる)」が「ばねる」と音変化して名詞化した語です。
「はねる」は「放す」「離れる」などと関係する語で、バネは「元々あった場所から急に移動するもの」というのが原義と考えられています。
「失敗をバネにする」など、比喩的に何かの行動を起こすきっかけの意味でも、バネは用いられます。
バネの漢字は「発条」や「撥条」のほか、「弾機」も用いられます。
7.花咲蟹/花咲ガニ(はなさきがに)
「花咲ガニ」とは、「エビ目ヤドカリ下目タラバガニ科の甲殻類」です。タラバガニよりも体表のとげが大きく、歩脚は太く短いカニです。
花咲ガニは、北海道の東南部の根室半島近海で多く獲れることから、根室半島の旧称「花咲半島」に由来する名前といわれます。
また、茹でると体中が赤くなり、花が咲いたように見えることからという説もあります。
8.破廉恥(はれんち)
「ハレンチ」とは、「恥を恥とも思わず平気でいること。恥知らず。不正・不徳の行いをすること」です。
ハレンチは、漢字で「破廉恥」と表記するとおり、廉恥を破ることです。
廉恥の「廉」は「潔い」「けじめ」といった意味を持つ言葉で、「廉恥」はいさぎよく恥じる心が強いことを意味します。
「廉恥」に「破」がついた「破廉恥」は明治初期から見られ、明治後期に一般化しました。
現代では「ハレンチ」とカタカナ表記されることが多くなっています。