日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.Z世代(ぜっとせだい)
「Z世代」とは、1990年代半ばから2000年代前半生まれの世代のことです。生まれたときからデジタル環境が当たり前の世代。
Z世代は「Generation Z(ジェネレーションZ)」の訳語で、「ジェネレーションY(Y世代)」に続く世代であることから「Z」が付きます。
「ジェネレーションY」は「ジェネレーションX(X世代)」に続く世代であることからの名で、アルファベット(ローマ字)で世代を表すようになったのは「ジェネレーションX」からです。
「X」が世代を表す最初のアルアファベットとなったのは、カナダの小説家 ダグラス・クープランドの処女作『ジェネレーションX -加速された文化のための物語たち』(1991年)に由来します。
この作品が世界的なベストセラーとなったことで、1965年から1979年頃に生まれた世代を表す言葉として、「ジェネレーションX」の新語も流行語となり定着しました。
その流れで、次の1980年から1990年代半ばに生まれた世代は「ジェネレーションY」、その次は「ジェネレーションZ」と名付けられたのです。
ローマ字で表現できるのは「Z」までになるため、Z世代に続く世代はギリシャ文字の最初に当たる「α」を採用し、「ジェネレーションα(アルファ世代)」と呼ばれます。
なお、X世代・Y世代・Z世代については、「X世代・Y世代・Z世代とは誰のこと?他の世代の特徴や価値観も紹介!」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください
2.忙しない(せわしない)
「せわしない」とは、忙しくて休む暇もない、多忙である、気が急いて落ち着かないことです。
せわしないの「ない」は否定形ではなく、その状態にあることを強調し、形容詞を作る接尾語の「ない」です。
そのため、せわしないは「せわし(忙し)」の状態にあることを表し、「せわしい」と同じ意味になります。
形容詞を作る接尾語の「ない」を使った言葉には、「あどけない」「おぼつかない」「はしたない」「切ない」などがあります。
「せわし(せわしい)」を打ち消しの助動詞「ない」で否定する場合は、連用形の「せわしく」に付いて「せわしくない」となります。
3.蝉の羽月(せみのはづき)
「蝉の羽月」とは、旧暦6月の異称です。水無月。
「蝉の羽」とは、セミの翅のような軽くて薄い着物や布のことで、「蝉の羽衣(はごろも)」ともいいます。
旧暦の6月は薄い着物を着始める時季であることから、「蝉の羽月」というようになりました。
なお、「月の異称」については、「和風月名以外の月の異称をご紹介します。」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
4.せこい
「せこい」とは、細かいことに執着して、みみっちいことです。ずるい。
せこいは「せこ+い」ではなく「せ+こい」で、「窮屈である」「狭い」を意味する「せし(狭し)」の肥大型形容詞と考えられます。
「こい」は「狭っこい」「すばしっこい」などと言うのと同じです。
古くは、役者や寄席芸人の間で「悪い」「下手である」、盗人仲間の隠語で「困難である」「苦しい」の意味でも、「せこい」は使われていました。
また、方言では「息苦しい」「つらい」「許しがたい」「忙しい」「間隔が狭い」など、さまざまな意味で使われているが、いずれも「度量が小さい」「余裕がない」など「狭い」の意味に通じます。
せこいの語源には、世間の風俗や習慣を意味する「世故(せこ)」に由来を求める説もあります。
この説は「世故」の意味から、世渡りの上手な人を「世故い(せこい)」と呼ぶようになり、金銭に細かいという意味にも広がったというものですが、せこいの「せこ」は何かと考えた際に「世故」の語があったことから、意味に合わせて作られた俗説です。
5.雪隠(せっちん)
「雪隠」とは、便所のことです。「せちん」「せついん」「せんち」とも。
「せっちん」は「せついん」の促音化です。
雪隠の語源は諸説あり、特定は難しいですが、便所を意味する「西浄」に由来する説が有力です。
禅宗では、法要儀礼の際に法堂・仏殿の西側に並ぶ者を「西序(せいじょ)」といい、西序が使う便所を「西浄(せいじょう・せいちん)」といいます。
これと対になるのが、東序の使用する「東浄(とうじょう・とうちん)」です。
「西浄」の説は、西浄の宋音「せいちん」が転じて「せついん」となり、「雪隠」の字が当てられたというものです。
その他、雪隠の語源には、雪竇禅師が霊隠寺の浄頭(便所の掃除をする役)をつとめたことに由来する説や、雪峰義存禅師が浄頭をつとめたことに由来する説があり、「隠」は隠れ潜むことを意味するということです。
また、かつて中国では、ツバキを便所のそばに植えて覆い隠したことから、ツバキをいう「青椿(セイチン)」が便所を意味するようになり、「せついん」「せっちん」と変化した説もあります。
6.絶体絶命(ぜったいぜつめい)
「絶体絶命」とは、どうしても逃れようのない、切羽詰まった状態や立場にあること(また、そのさま)です。「絶対絶命」と書くのは誤りです。
絶体絶命の「絶体」と「絶命」は、ともに九星占いでいう凶星の名前です。
この星があらわれると運はきわまり、破滅を招くといわれます。
ここから、どうすることもできない苦境にあることを「絶体絶命」というようになりました。
7.西施乳(せいしにゅう)
「西施乳」とは、フグの別名です。
「西施」とは、中国春秋時代末期の越の国の美女のことです。
「美しい薔薇には棘がある」と言うように、甘くておいしいフグも毒を持っていて怖いところから、フグの白子を美しい西施の乳にたとえて「西施乳」と呼ぶようになり、フグの別名となりました。
美味を西施の美しさにたとえたものには、他に「タイラギ」をいう「西施舌」があり、美女として有名な楊貴妃の乳にたとえたものには、「牡蠣」をいう「太真乳(「太真」は「楊貴妃」のこと)」もあります。
ただし、「西施乳」は日本でもフグの別名として使われていますが、「西施舌」や「太真乳」の使用例は見られません。
8.雪隠詰め(せっちんづめ)
「雪隠詰め」とは、将棋で相手の王将を盤の隅に追い込んで詰めることです。また、逃げ場のない所へ追い詰めること。
昔の家の雪隠(トイレ)は、家屋の隅にあることが多かったことから、将棋盤の隅を「雪隠」にたとえ、王将を隅に追い込んで詰めることを「雪隠詰め」と言うようになりました。
この将棋用語が転じて、相手を窮地に追い込むことの意味でも使われるようになりました。