日本語の面白い語源・由来(せ-②)栴檀・蝉・世界・責任転嫁・摂氏・前門の虎後門の狼・先鞭をつける・女衒

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栴檀

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.栴檀(せんだん)

栴檀

センダン」とは、暖地に自生するセンダン科の落葉高木です。果実・樹皮・葉は薬用にし、材は建築・家具・下駄などに用いました。古くは獄門のさらし首の木として使用しました。ビャクダンの別名。

「栴檀は双葉より芳し」ということわざの「栴檀」はビャクダンのことで、その語源は、サンスクリット語「candana」の音訳「栴檀那」に由来します。

センダン科の木の語源は未詳ですが、樹皮の灰汁で一時に千段を染められるところからとする説が、やや有力と考えられています。

その他、センダンの実が枝一面に付くことから、「千珠(せんだま)」の意味とする説。
滋賀県大津市の園城寺(通称三井寺)で行われる法会「千団子」に由来し、センダンの果実を法会で供えられる千個の団子に見立てたとする説があります。

千団子の説は、同音の漢字を当てて、別名を「栴檀講」というところからヒントを得たもので、俗説と考えられています。

「栴檀の花」は夏の季語で、「栴檀の実」は秋の季語です。

・栴檀の ありあまる花 こぼさざる(鷹羽狩行)

・栴檀の 花散るや桶の 心太(ところてん)(寺田寅彦)

・栴檀の 実がよごしたる 石畳(石橋秀野)

・栴檀の 実を喰いこぼす 鴉(からす)かな(河東碧梧桐

2.蝉(せみ)

蝉

セミ」とは、半翅目セミ科の昆虫の総称です。

セミの語源には、その鳴き声を「セミセミ」や「センセン」と聞き取った説や、それらの「セ」に虫の意味で「ミ」を付けたとする説。
「蝉」の漢音「セン」が音変化した説。
「蝉」の韓国語「매미(メミ)」に由来するなど諸説あります。

セミは小さな身から大きな鳴き声を発するところが最も特徴的ことから、鳴き声の説が有力と考えられていますが断定は困難です。

「蝉」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・やがて死ぬ けしきは見えず 蝉の声(松尾芭蕉

・蝉の音(ね)を こぼす梢の あらしかな(各務支考)

・耳底に 蝉はまだ啼く 枕かな(大島蓼太)

・人病むや ひたと来て鳴く 壁の蝉(高浜虚子

3.世界(せかい)

世界一周クルーズ

世界」とは、地球上のすべての国家や地域。人間社会の全体。世間。同類の集まり。ある特定の活動範囲・領域のことです。

世界は仏教語で、サンスクリット語「lokadhātu」の訳です。
「世」は過去・現在・未来の三世のことで、すべての時間を表し、「界」は東西南北上下のことで、すべての空間を意味します。

つまり世界は、すべての時間と空間に及ぶ全体をいった語で、現在使われている意味よりも広範囲です。

世界が表す範囲は時代によって異なりますが、「地球」や「万国」の意味での使用は、マテオ・リッチの『坤輿万国全図(世界地図)』をもとに『世界図屏風』が多く製作された江戸時代に広まりました。

4.責任転嫁(せきにんてんか)

責任転嫁

責任転嫁」とは、自分が負うべき責任を他人になすりつけることです。

責任転嫁の「転嫁」は、「嫁を転がす(転がる)」といった意味ではなく、「二回目の嫁入り(再嫁)」という意味です。

転じて、「転嫁」は他に移すことを表すようになりました。

「転嫁」のみでも、自分の罪や責任を他の者になすりつける意味があります。

5.摂氏(せっし)

摂氏温度計

摂氏」とは、「摂氏温度」の略です。一気圧で水の凝固点を零度、沸点を100度とし、その間を100等分して定めた温度目盛り。記号℃。

摂氏の「摂」は人名の頭文字です。
摂氏温度は、1742年にスウェーデンの天文学者アンデルス・セルシウスが考案したもので、「セルシウス度」や「セルシウス温度」とも呼ばれています。

セルシウスの中国音訳「摂爾思」から、「摂氏(温度)」となりました。
カタカナでは、「セ氏(温度)」と表記します。

6.前門の虎後門の狼(ぜんもんのとらこうもんのおおかみ)

前門の虎後門の狼

前門の虎後門の狼」とは、一つの災いを逃れても、また別の災いに遭うことのたとえです。一難去ってまた一難。

中国で昔から使われていることわざで、表門で虎の侵入を防いだが、今度は裏門から狼が侵入してきたという意味に由来します。

趙弼の『評史』には、「前門に虎を拒ふせぎ、後門に狼を進める」とあります。

福沢諭吉の『文明論之概略』(1875年)では「前門の虎を逐て後門の狼に逢ふが如きのみ」、坪内逍遙の『当世書生気質』(1885〜86年)では「前門に虎をごまかせば後門に狼婆ア」というように、日本でも本来は、さまざまな動詞を含んだ形で用いられていました。

やがて、動詞部分を省略した形がことわざとして定着し、現在では「前門の虎、後門の狼」が省略形であることが認識されなくなっています。

また、最初の災難という意味で、「前門の虎」だけを用いる形も生まれました。

7.先鞭をつける/先鞭を着ける(せんべんをつける)

先鞭をつける

先鞭をつける」とは、他より先に物事に着手することです。

先鞭をつけるの「先鞭」は、先に鞭を打つことを意味します。

出典は中国の『晋書(劉琨伝)』で、劉琨はライバル関係にあった祖逖が、自分より先に馬に鞭を打って戦場に行き、功名をあげはしないかと心配していたという話から、他に先じて物事に着手することを「先鞭をつける」と言うようになりました。

8.女衒(ぜげん)

女衒

女衒」とは、江戸時代、女を遊女屋、旅籠屋などに売ることを業とした者のことです。

遊女奉公で、遊女屋と女の親元との仲介に当たりますが、女を誘拐し売り飛ばすことなどもあり、悪徳な商売とされました。

遊女奉公の証文に印判を押すため、「判人(はんにん)」とも言います。

近世から、主として江戸で用いられた言葉で、上方では「人置き」と言いました。もとは「女見(じょけん)」であったと思われます。

「じょ」から「ぜ」への変化は特殊ですが、口語での使用が多いため、言葉が訛ったものです。

「衒」という漢字は、みせびらかす、ひけらかす、売るという意味があります。

「女衒」の表記がなされた背景には、「法華経・安楽行品」の「衒売女色(げんまいにょしき)」(女色を衒売する)が由来ともされます。