「九」という漢字の由来は?

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九という漢字の成り立ち

今まで、「漢字の成り立ち」についてたくさんの記事を書いてきました。これまでは「」のような複雑な漢字や、「」という漢字のようにシンプルだがどうしてこの二つの部分が結びついて「すき」という意味になるのか不思議なものなどが主でした。

今回は数字の「九」の由来についてご紹介したいと思います。

1.「九」という漢字の成り立ち

「九」は「象形文字」です。

「屈曲して(折れ曲がって)尽きる」象形(「げんこつを作ってひじを曲げ、ぐっと引き締めた形」とする説もあり)から、数の尽き極まった「ここのつ」を意味する「九」という漢字が成り立ちました。

「一」から「八」までの漢字の成り立ちは「手の指」を使った象形文字(異なる説もあります)なので、「九」も「手の指」を使った象形文字にしても良さそうなものですが、「九」だけは「これでおしまい」ということで「ひじを曲げた象形」にしたようです。

「一」から「九」までの数字のうち、「一」の位の数が窮まる(究極の「究」にも通じる)最後の数字ということで、「数の多いこと」という意味もあります。

しかし数の単位を表す漢字は、「十」「千」「万(萬)」「億」「兆」「京」と続きますので、決して究極ではありません。もっと大きな数字の単位としては「不可思議」「無量大数」などの言葉もあります。

あるいは、最初に数字の漢字を考えた古代中国の人は、「ここのつ」くらいまでが限界で、それより大きい数字の漢字は徐々に考えて行ったのかもしれません。

それにしても、古代インドや古代中国の人々が、今のコンピュータ時代を予想していたのか天文学的に大きな数字の存在を理解し、その単位を表現していたのには驚きます。

2.「九」を含む言葉

(1)九十九髪(つくもがみ)

老女の白髪、またその老女のこと。白髪が水草のツクモに似ているところから言います。

「伊勢物語」六三段に「百年(ももとせ)に一年(ひととせ)たらぬつくもかみ我を恋ふらし面影に見ゆ」という歌が出てきます。

ここに、「百年に一年たらぬ」とあるところから、「つくも」を九十九の意とし、これを「百」の字に一画たりない「白」の字に代用し、白髪を「つくも(九十九)髪」といったとも言われています。

(2)九月尽(くがつじん)

陰暦九月の終わりの日のこと。陰暦ではこの日で秋が終わります。俳句で秋の季語です。

なお、現在では陽暦の9月末日をいい、秋の深まる頃を指します。

(3)九華(きゅうか)

宮室、器物、風物などが色とりどりに飾られて美しいこと。また、その美しい飾り。転じて、建物、器物の美称。九華帳、九華扇など。

「九華帳(きゅうかちょう)」とは、 いろいろな花の模様を織り出した帳(とばり)のこと。寝室などに垂れめぐらすもの。「九華の帳」とも言います。

(4)九地(きゅうち)

きわめて低いところ。また、いくさをするとき、敵に発見されにくい地。地の底。

なお「九地(くじ)」と読む場合は、 仏教用語で、「欲界(よくかい)」「色界(しきかい)」「無色界(むしきかい)」の三界(さんがい)を九つに区分していう総称です。

欲界は五趣(ごしゅ)の区別がありますが合わせて一地とみなし、それに色界の四地と無色界の四地とを加えます。すなわち、「欲界五趣地、離生喜楽地、定生喜楽地、離喜妙楽地、捨念清浄地、空無辺処地、識無辺処地、無所有処地、悲想非非想処地」の九つのことです。

「九土(くど)」とも言います。

(5)九天(きゅうてん/くてん)

①天の最も高い所。九重の天。対義語が「九地」です。

②古代中国で、天を方角により九つに区分したもの。中央を鈞天 (きんてん) 、東方を蒼天 (そうてん) 、西方を昊天 (こうてん) 、南方を炎天、北方を玄天、東北方を変天、西北方を幽天、西南方を朱天、東南方を陽天と言います。

③宮中。九重 (きゅうちょう) 。ここのえ。

④大地を中心に回転する九つの天体。「日天・月天・水星天・金星天・火星天・木星天・土星天・恒星天・宗動天」を言います。

(6)九星(きゅうせい)

「九星」は、古代中国から伝わる民間信仰で、「一白二黒三碧四緑五黄六白七赤八白九紫」の9つのことです。

「九星」は、次の「魔方陣」が起源となっています。

魔方陣

縦・横・斜めのいずれの列についても3つの数字の和が15になるというものであり、1から9までの数を1回ずつ使う3×3個の魔方陣は、回転・対称を除けばこの形しかありません。上図の配置を後天定位盤と言います。これらの数字に白・黒・碧・緑・黄・赤・紫の7色と木・火・土・金・水の五行十干・十二支、易の八卦を配当し、この数字が順次場所を変えた場合を考え、それに解釈を加えて「九星」が作られました。

後天定位盤

伝説では、夏王朝を創始した禹が洛水を通りかかった時、川の中から飛び出た神亀の甲羅に描かれた模様からこの魔方陣を思いついたとされています。そのため、この魔方陣を、洛水の書「洛書」(河図洛書)と言います。

(7)九夷(きゅうい)

古代中国の漢民族が東方にあると考えた九つの野蛮国のこと。「畎夷(けんい)、方夷、黄夷、白夷、赤夷、玄夷、風夷、陽夷、于夷」を言います。

(8)九品(くほん)

「九品」とは、物質や人の性質を3×3で分類したもの。「三三品(さんさんぼん)」。

現在俗にいわれる上品・下品(じょうひん・げひん)の語源とされています。

またしばしば、「九品浄土」(9の等級に分けられた浄土)や「九品蓮台」(同様の蓮台)を単に九品と呼びます。

浄土教で極楽往生の際の九つの階位を表しており、人の往生には上品・中品・下品があり、さらにそれぞれの下位に上生・中生・下生とがあり、合計9ランクの往生があるという考え方です。

「九品仏」はそれを表した9体の阿弥陀仏のこと。

(9)九曜(くよう)

「九曜」とは、インド天文学やインド占星術が扱う9つの天体とそれらを神格化した神のこと。中国へは『宿曜経』などにより漢訳されました。

サンスクリットではナヴァグラハ (नवग्रह, navagraha) で、「9つの惑星」という意味です(実際は惑星以外も含む)。部分的に訳して9グラハとも言います。

繁栄や収穫、健康に大きな影響を与えるとされました。東アジアでは宿曜道や陰陽道などの星による占いで使います。

九曜のうち七曜は実在する天体で、残りの2つも古代インドでは実在すると考えられた天体です。同じ陰陽道の九星は名前は似ていますが実在に拠らない抽象概念で、大きく異なります。

3.「九」を含む四字熟語

(1)九夏三伏(きゅうかさんぷく)

夏のこと。また、夏の最も暑いころを言います。

「九夏」は九旬の夏の意で、夏の九十日間。夏いっぱいを指します。

「三伏」は初伏(夏至げし後の三度目の庚かのえの日)、中伏(四度目の庚の日)、末伏(立秋後の初めての庚の日)のこと。夏の最も暑い時期を言います。

(2)九死一生(きゅうしいっしょう)

助かる見込みがほぼ無い状況で、何とか助かること。
九割の確立で死ぬような危険な状況で何とか生き残るという意味から。
「九死に一生を得る」という形で使うことが多い言葉。

(3)九山八海(くせんはっかい)

仏教の世界観でいう、須弥山 (しゅみせん) を順に取り囲む九つの山と八つの海。一小世界のこと。

(4)九腸寸断(きゅうちょうすんだん)

非常に悲しいことの形容。断腸の思い。

「九腸」の「九」は数の多いことを表す。腸はらわた全体。

「寸断」はずたずたに断ち切られる意。腸がずたずたに断ち切られるような非常なつらさ、悲しさをいう語。

(5)九牛一毛(きゅうぎゅうのいちもう)

多くの中の、きわめてわずかな部分のたとえ。また、きわめて些細ささいで取るに足りないことのたとえ。多くの牛に生えたたくさんの毛の中の一本の意から。

「九牛」は多くの牛。「九」は数が多いことをいう。略して「九牛毛」ともいう。

(6)九年面壁(くねんめんぺき/きゅうねんめんぺき)

長い間一つのことに忍耐強く専心して成し遂げるたとえ。長い間あることに苦しみ、専心するたとえ。

古来中国で達磨大師が嵩山の少林寺に籠り、九年もの長い間壁に向かって座禅を組み続け、悟りを開いたという事に由来します

「面壁九年」(面壁九年)とも言います。

(7)九損一徳(くそんいっとく)

費用が多くかかり、あまり利益にならないこと。九回損をして、一回得をするという意味から。
「鞠は九損一徳」を略した言葉で、蹴鞠に熱中すると十の中で九は損をするという意味から。
「九損一得」とも書きます。

(8)薬九層倍(くすりくそうばい)

薬は原価の九倍もの値段で売られるという意味で、商品の売価は必ずしも原価や仕入れ値との関係で決まらないというマーケティングの基本的な考え方を例証していることわざ。 「層倍」は「倍」を強めた言い方。

一般には「花八層倍、薬九層倍、お寺の坊主は丸儲け」と言われています。

(9)一言九鼎(いちげんきゅうてい)

「一言九鼎」(範浚『香渓集・一八』など)というのは、将相たるものの一言は国家を象徴する宝器である「九鼎」の重みにも当たるという意味です。それだけの影響力を持つ言葉を常に心底にとどめて発言しなければならないのです。

「鼎」は三足をもつ器で、宗廟への供えものを盛ることから礼器となり、禹王が九州(全土のこと)から集めた青銅によって鋳造したと伝える「九鼎」は、古代王朝の王権の証とされました。

今でも「鼎の軽重を問う」(問鼎軽重)というと、大きなしごとをこなす実力の有無を問う場面で使われています。将相には「一言九鼎」の表現力が求められ、それに値する人物でなければ任に堪えないのです。

(10)一日九回(いちじつきゅうかい)

ひどく心配して、悩み苦しむこと。「九」は何度もということ。
一日に何度も腸がねじれるほどに悩み苦しむということから。

「一日九廻」とも書きます。

(11)一日九遷(いちじつきゅうせん)

あっという間に出世すること。「九遷」は官位が九回上がること。
一日に官位が九回上がるという意味から。皇帝から寵愛を受けていることをいう言葉。

「一日九たび遷る」とも読みます。

(12)一夕九徙(いっせききゅうし)

一晩の間に何度も居場所が変わること。
または、一定の居場所にいないため、どこにいるかわからないこと。

「一夕」は一晩。「九」は数が多いことのたとえ。「徙」は移動すること。

中国の後漢の時代の李暠(りこう)は、暗殺を恐れて夜中に何度も居場所を変えていたために、同居している人ですら居場所が分からなかったという故事から

(13)鶴鳴九皐(かくめいきゅうこう)

世間から離れて暮らしていても、よい名声が自然と知られること。
「九皐」は山の奥深い場所にある沼沢。
山奥にある沼沢で美しい鳴き声の鶴が鳴くという意味から。
山の奥深くに隠居している賢者の名声は、自然と広まるということをたとえた言葉。

「九皐鳴鶴」(きゅうこうのめいかく)とも言います。

(14)九棘三槐(きゅうきょくさんかい)

三公九卿。政界の最高幹部のこと。「九棘」は中国の九卿の別称。「三槐」は中国の三公の別称。

「後漢書」寇栄伝より。中国の周の時代に、君主が朝廷の庭の三公の位置を示す場所に槐(えんじゅ)の木を植え、九郷の場所を示す場所に棘(いばら)の木を植えていたということから。

(15)九仞之功(きゅうじんのこう)

仕事を完遂する間際の、最後のひと踏ん張りのこと。
または、仕事を完成させるために積み重ねる一つ一つの努力と、その大切さのこと。

「九仞(きゅうじん)の功を一簣(いっき)に虧(か)く」によります。
九仞の高さの山を作るにも、最後のもっこ一杯の土を盛らずに止めてしまえば山は完成しないとの意から。

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