ギリシャ神話は面白い(その13)狩猟の女神・貞潔の女神・月の女神のアルテミス

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アルテミス

『ギリシャ神話』はもともと口承文学でしたが、紀元前8世紀に詩人のヘーシオドスが文字にして記録しました。古代ギリシャの哲学、思想、宗教、世界観など多方面に影響を与え、ギリシャでは小学校で教えられる基礎教養として親しまれています。

絵画ではしばしばモチーフとして扱われ、多くの画家が名作を残しています。文学作品や映画などにも引用され、ゲーム作品でも題材になっていることがあります。たとえば、ディズニー映画の『ヘラクレス』はギリシャ神話をモデルにしたお話です。

『ギリシャ神話』(およびその影響を受けた『ローマ神話』)は、現在まで欧米人にとって「自分たちの文化の土台となったかけがえのない財産」と考えられて、大切にされ愛好され続けてきました。

欧米の文化や欧米人の物の考え方を理解するためには、欧米の文化の血肉となって今も生き続けている『ギリシャ神話』の知識が不可欠です。

日本神話」は、天皇の権力天皇制を正当化するための「王権神授説」のような神話なので、比較的単純ですが、『ギリシャ神話』は、多くの神々やそれらの神の子である英雄たちが登場し、しかもそれらの神々の系譜や相互関係も複雑でわかりにくいものです。

前に「ギリシャ神話・ローマ神話が西洋文明に及ぼした大きな影響」という記事や、「オリュンポス12神」およびその他の「ギリシャ神話の女神」「ギリシャ神話の男神」を紹介する記事を書きましたので、今回はシリーズで『ギリシャ神話』の内容について、絵画や彫刻作品とともに具体的にご紹介したいと思います。

原始の神々の系譜

オリュンポス12神

ギリシャ神話・地図

第13回は「狩猟の女神・貞潔の女神・月の女神のアルテミス」です。

1.アルテミスとは

アルテミス

「狩猟の女神」「貞潔の女神」「月の女神」のアルテミスは、ゼウスとレートーとの間に生まれた娘で、アポローンとは双生児です。

オーリーオーン(オリオン)と恋仲になったのを、アポローンに邪魔されるなど、散々な目にあうこともあります。

アルテミスは、アテーナーと同じく処女神です。

2.アルテミスにまつわる神話

(1)オーリーオーン

アルテミスと死せるオーリーオーン ダニエル・シーター画

<アルテミスと死せるオーリーオーン ダニエル・シーター画>

オーリーオーン(オリオン)は、ポセイドーンの息子です。彼は陸でも海でも歩くことができ、そして非常な豪腕の持ち主で、太い棍棒を使って野山の獣を狩るギリシャ一番の猟師でした。

狩猟の女神であるアルテミスとギリシャ随一の狩人であるオーリーオーンは次第に仲良くなっていき、神々の間でも二人は、やがて結婚するだろうと噂されるようになっていきました。しかし、アルテミスの双子の弟(兄)であるアポローンは、乱暴なオーリーオーンが嫌いだったことと、純潔を司る処女神である彼女に恋愛が許されないことから、二人の関係を快く思いませんでした。しかし、アルテミスはアポローンの思惑を気にかけませんでした。

そこでアポローーローンの罠で遠くにいたため、アルテミスはそれがオーリーオーンとは気づきませんでした。

アルテミスは矢を放ち、オーリーオーンは矢に射られて死にました。女神がオーリーオーンの死を知ったのは、翌日にオーリーオーンの遺骸が浜辺に打ち上げられてからでした。アルテミスは後に神となるほどの腕前の医師アスクレーピオスを訪ね、オーリーオーンの復活を依頼しましたが、冥府の王ハーデースがそれに異を唱えました。

アルテミスは父であり神々の長であるゼウスに訴えますが、ゼウスも死者の復活を認めることはできず、代わりに、オーリーオーンを天にあげ、星座とすることでアルテミスを慰めました。

なお、「さそり座」は、アポローンが謀ってオーリーオーンを襲わせ、彼が海に入る原因となったサソリであるとされました。そのため「オリオン座」は今も、さそり座が昇ってくるとそれから逃げて西に沈んでいくということです。

(2)カリストー

ユピテルとカリスト フランソワ・ブーシェ作

<ユピテルとカリスト フランソワ・ブーシェ画>

ディアナとカリスト ティツィアーノ・ヴェチェッリオ作

<ディアナとカリスト ティツィアーノ・ヴェチェッリオ画>

アテーナイには、アルテミスのために、少女たちが黄色の衣を着て、熊を真似て踊る祭がありました。また女神に従っていた少女カリストーは、男性(実はアルテミスの父ゼウス)との交わりによって処女性を失ったことでアルテミスの怒りを買い、そのため牝熊に変えられました。

カリストーはアルカディアのニュムペーですが、純潔を誓い、アルテミスに従っていました。ゼウスはアルテミスに姿を変えてカリストーに近づき、彼女を愛しました。こうして二人の間にアルカディアの祖となるアルカスが生まれますが、アルテミスはこれを怒り、彼女を雌熊に変えました(一説では、ヘーラーが、またゼウス自身が、雌熊に変えたとも)。

カリストーはアルテミスによって殺されたとも、息子アルカスがそれと知らず、熊と思い彼女を殺したともされます。

ゼウスはカリストーを憐れんで天に上げ、「おおぐま座」にしたとされます。息子アルカスは「こぐま座」となりました(なお、「うしかい座」もアルカスの姿であるとされます)。

アルテミスはまた、多産をもたらす「出産の守護神」の面も持ち、「妊婦達の守護神」としてエイレイテュイアと同一視されました。地母神であったと考えられ、「子供の守護神」ともされました。

アルテミスは、弓を携え獣を引き連れた森の神として描かれます。「矢をそそぐ女神」という称号を持ち、「遠矢射る神」の称号をもつ弟アポロンと共に疫病と死をもたらす恐ろしい神の側面も持っていました。

また「産褥の女に苦痛を免れる死を恵む神」でもあります。また神話の中ではオレステースがイーピゲネイアと共にもたらしたアルテミスの神像は人身御供を要求する神でした。アルテミスに対する人身御供の痕跡はギリシアの各地に残されていました。

古典時代の神話では、「狩猟と貞潔を司る神」とされます。アルテミスの祭祀は女性を中心とするものでした。神話ではニュムペー(カリストー)を従えてアルカディアの山野を駆け、鹿を射ますが、ときには人にもその矢が向けられました。

通常、アポローンとともにデーロス島で生まれたとされますが、これは後世的な伝承で、母レートーがヘーラーの嫉妬を避けて放浪した際、オルテュギアー島でまずアルテミスが生まれ、さらにデーロス島でアポローンが生まれました。

この時アルテミスは生まれたばかりであるにもかかわらず、母の産褥に立会い、助産婦の務めを果たしました。この神話に彼女が「生殖や出産を司る女神」の側面が見て取れます。さらに、まだ幼いうちにゼウスを探して出会い、「箙(えびら)」(矢筒)や短いチュニック(上着)、狩りの長靴をねだり、そして妊婦の守護神であることなどをゼウスに願い出たとされます。

(3)アクタイオーン

ディアナとアクタイオン ティツィアーノ・ヴェチェッリオ画

<ディアナとアクタイオン ティツィアーノ・ヴェチェッリオ画>

ディアナとアクタイオン ルーカス・クラナッハ画

<ディアナとアクタイオン ルーカス・クラナッハ画>

アルテミスはアポローンと共に行動することがあり、母を侮ったニオベーの子供たちと対決した伝説が伝わります。またアルテミスの怒りに触れて不幸をこうむった者にアクタイオーンの伝説があります。

アクタイオーンは、アポロンの子アリスタイオスと、カドモスの娘アウトノエーとの間に生まれた子で、猟師でした。彼は、キタイローン山中で50頭の犬を連れて猟をしていましたが、たまたまアルテミスが泉で水浴している姿を垣間見、女神の裸身を見ました。

アルテミスは怒り、アクタイオーンを鹿に変え、その連れていた50頭の犬に襲わせました。犬たちによってアクタイオーンは引き裂かれて死にました。

アルテミスの水浴 ジェームズ・ウォード

<アルテミスの水浴 ジェームズ・ウォード画>

アルテミス ジュール・ジョゼフ・ルフェーブル

<アルテミス ジュール・ジョゼフ・ルフェーブル画>

アルテミスの水浴 アレクサンドル・ジャック・シャントロン

<アルテミスの水浴 アレクサンドル・ジャック・シャントロン画>

休息中のアルテミス ポール・ボードリー画

<休息中のアルテミス ポール・ボードリー画>