1.パナソニックが「指定価格商品」を本格導入
先日、家の近くの家電量販店「ケーズデンキ」でパナソニックのエアコンを買い替えしたとき、驚いたことがあります。
「家電量販店」と言えば、値引き競争の代表のような業種で、「値引きが当たり前」と思っていたのですが、店員から「パナソニックの製品は去年から『指定価格商品』になっているので、ケーズデンキ会員の5%割引以外の値引きはできません」と言われたのです。
昔の家電小売店では「定価販売」が当たり前でした。しかし、家電量販店などの業態が出現すると「オープン価格」が一般的になり、「定価」や「メーカー希望小売価格」は有名無実となりました。
私は家電製品については、「松下電器産業」(ブランド名:ナショナル)の時代から、同社製品を愛用しており、製品の品質も高いと思っているので、値引き販売のある他社製品ではなく、迷わずパナソニックのエアコンを再購入することにしました。
しかし、『指定価格商品』という言葉にはちょっと引っかかりを覚えましたので、ご紹介する記事を書くことにしました。
2.「指定価格商品」について
(1)「指定価格商品」とは
家電の販売価格を「販売店」ではなく「メーカー」が指定できる制度です。
2020年からパナソニックが導入しました。パナソニックによると、「指定価格」の製品の売り上げ額は、2020年度は全体の2%、2021年度は8%を占めるまでになっており、2022年度は20%まで高めたいとしています。
「メーカー指定価格」という呼び名はあくまでも代表例で、他にも「値引き不可商品」や「条件付き販売」といった呼び名もあります。
この「条件付き」というのがミソで、商品の売れ残りのリスクをメーカーが負う(委託販売)など、メーカーが直接販売するのと同等の条件が定められているため、メーカーが小売価格を指定しても独占禁止法違反にはなりません。
こういった条件のもと「メーカー指定価格」ルールにサインした商品のみ、販売店で取り扱いができる制度です。
通常の取引では、家電量販店がメーカーから仕入れた段階で商品は基本的に家電量販店の所有物となるいわゆる「買い取り」です。
量販店は他社との競争や、発売から時間が経過した製品の価格を下げたり相対接客で値引きをしたり、ショップポイントを付与したりしますが、その原資はメーカーから「販促奨励金」や「在庫処分費」などの名目で引き出すいわゆるリベートです。
指定価格の対象となる製品はこのリベートがないため、値下げもポイントの付与もできません。ポイントを付与したとしても、その分の価格が上乗せされ、より高額となるだけです。
ただ、指定価格製品は一切値下がりしないかというと、そうではありません。時間経過とともにパナソニック自身が段階的に価格を下げる製品もあります。特に、新製品発売前には現行モデルの価格を下げています。
(2)「指定価格商品」のメリット・デメリット
<顧客>
<販売店>
<メーカー>
(3)「指定価格商品」の他メーカーへの影響
パナソニックと競合する他メーカーは、今後どのように反応していくのでしょうか?
「高くても売れる製品をパナソニックはたくさん持っている。その製品が店頭にないとお客は他店に流れることも多いので、量販店側としてもパナソニックのやり方に文句はいえない。同じことをウチがやったら、競合製品に取って代わられるだけなので、とてもじゃないけど真似できない」と国内の他メーカー関係者は話しています。
「パナソニックだからできること」と、今のところ追随する動きはないようです。
また量販店関係者によれば、ブランド力のある他メーカーもパナソニックの真似はできないと言います。「長い時間をかけて信頼関係を築いてきた。ブランド力があるといえ、その信頼関係を壊すのは怖い」と、パナソニックの施策を静観する構えです。
(4)「指定価格商品」の家電量販店やネット通販への影響
「指定価格商品」は、「ネット通販の排除を狙ったものではないか」という見方もあります。ネット通販は価格下落の急先鋒であり、それに引っ張られて量販店のネット通販価格、店頭価格がドミノ式に崩れていきます。
また、正規に卸ルートを持っていないにもかかわらず、パナソニック製品を取り扱っているネット通販業者もいます。メーカー側が在庫を管理することで、こうした非正規ルートを撲滅できるのではないか、という見方です。
実際、指定価格製品の多くは、低価格がウリのネット通販から姿を消しています。こうしたことも、家電量販店が同制度を好意的に捉えている一因になっています。
(5)「指定価格商品」のパナソニックの業績への影響
導入から2年半が経った今、パナソニックの施策は成功しているのでしょうか?
どうやら、家電量販市場でパナソニックの金額シェアは落ちているようです。突出した製品力・ブランド力のある一部の小型家電分野は影響を受けていませんが、大型家電分野の中にはシェアが大きく後退した製品もある模様です。
その原因には、指定価格ではない下位モデルに流れて単価が下落していることも影響がありそうです。
また、パナソニックのフラグシップモデルが値引きできないことをこれ幸いにと、競合メーカーが販促費を投入して値引き額を拡大したり、年度末決算・半期決算キャンペーンでショップポイントを拡大したりと、シェア獲得に攻勢をかけているのも目立ちます。
「単価が上がると、どうしても販売数量が落ちて金額シェアも落ちる。だが、マーケティングコストが下がっているので利益が上がっているようだ。今はまだ、指定価格の導入期だからシェアが下がってしまうが、この施策が定着し、競争力のある唯一無二の製品が出てくれば、パナソニックの狙いは成功するだろう」と家電量販店関係者は話しています。
現状ではパナソニック以外のメーカーに拡大する兆しはありませんが、この施策の導入で危機感を抱く家電量販店関係者も多いようです。
単なる場所貸しビジネスとなり、店舗としても競争力も魅力も失われてしまうからです。どこに行っても同じ価格ならば、自宅近くの店、在庫があってすぐに届けてくれる店が有利になるし、それこそネット通販でよいことになります。
これを機に、メーカーのダイレクト通販が一気に拡大するではないかという危惧もあります。
3.「指定価格商品」は「独占禁止法」に抵触しないのか?
「メーカーによる小売業者への販売価格の指示」についての公正取引委員会の見解は次の通りで、「独占禁止法上問題となるものではない。」との判断です。
メーカーが、商品売れ残りのリスク等を自ら負うことを前提として、小売業者に対して家電製品Aの販売価格を指示することは、独占禁止法上問題となるものではない。