日本語の面白い語源・由来(あ-②)麻・豈図らんや・あんぽ柿・信天翁・鮑・あどけない

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麻

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続いき「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.麻(あさ)

麻の葉文様

現在でも衣料品の材料として重宝されている「麻」。

「麻」と言えば、夏の涼しい着物を思い浮かべますが、最近では「麻薬」「大麻」などマイナスイメージもありますね。

「麻の葉文様(あさのはもんよう)」(麻の葉模様)という美しい言葉もあります。

」は、中央アジア原産のアサ科の一年草です。茎は高くまっすぐに伸び、葉は手のひら状です。茎の皮から繊維、種子からは油をとります。また、麻糸で織った布類やそれで作った衣類の総称です。

麻は遠い古代に渡来した植物のため多くの語源説がありますが、「アヲソ(青麻)」の約転とする説が有力です。

草木の皮や筋から繊維をとり、糸のようにしたものを「ソ(麻)」や「オ(緒)」といい、この植物自体も「ソ(麻)」や「オ・ヲ(麻・苧)」といいます。

生活必需品として栽培される「ソ(麻)」は、青さが特に印象強いことから、「青」を冠して「アヲソ(青麻)」となり、「アソ」「アサ」へと変化したと考えられます。

「麻」は夏の季語で、次のようは俳句があります。

・しののめや 露の近江の 麻畠(与謝蕪村

・夕暮や かならず麻の 一嵐(正岡子規

2.豈図らんや(あにはからんや)

あにはからんや

あにはからんや」とは、多く文末を「とは」で結び、全く思いがけないことが起こった気持ちを表す言葉です。「意外にも」という意味です。

「あにはからんや」の語構成は、反語の副詞「あに(豈)」に、動詞「図る」、助動詞「む」、助詞の「や」。

」は「どうして」「何として」を意味する語で、「なに(何)」の異形と考えられています。「図らんや」は、「考えられるだろうか」「予想できるだろうか」という意味です。

これらが組み合わさった「あにはからんや」は、「どうして予測できただろうか」「意外にも」という気持ちを表す語となります。

「豈図らんや彼が犯人であったとは」のように使います。

最近よく使われる「想定外」にあたる言葉ですね。

3.あんぽ柿(あんぽがき)

あんぽ柿

あんぽ柿」とは、渋柿を硫黄で燻蒸してつくる羊羹のように柔らかい干し柿です。

「あんぽ柿」は、現在の福島県伊達市梁川町五十沢(いさざわ)で製造されたのが始まりです。

宝暦年間(1751年~1763年)に、五十沢の七右衛門がどこからか「蜂屋柿」を五十沢に持ち込んだのが、五十沢の柿栽培の始まりと伝えられています。

あんぽ柿を干す施設・柿ばせ

そのため、江戸時代の五十沢では「蜂屋柿」を「七右衛門柿」と呼びました。「蜂屋柿」(渋柿)の皮を剥(む)いて、連(れん:柿を干すための縄)に下げて天日で乾燥した干し柿を、江戸時代には「天干し柿(あまぼしがき)」と呼んでいたため、これが「あんぽ柿」という名称の由来とされています。

江戸時代の「天干し柿」は、一般的な干し柿と同様に黒ずんだ色をしているため、現在の「あんぽ柿」と区別して「黒あんぽ」と呼ばれます。

4.信天翁/阿房鳥(あほうどり)

アホウドリ

アホウドリ」とは、ミズナギドリ目アホウドリ科の鳥です。全長約90センチで、翼を広げると2メートルを超え、大きなくちばしを持っています。また、アホウドリ科の鳥の総称。

「アホウドリ」は別名を「馬鹿鳥(ばかどり)」というように、阿呆な鳥の意味で名付けられました。

この鳥が「阿呆」と呼ばれるのは、無人島を繁殖地にしているため、人を恐れず、容易に捕まえられる愚鈍なところからや、陸上での歩き方が下手なところからと言われます。

アホウドリの漢字「信天翁」は、天を信じて運を天に任せている翁(おきな)という意味。
自分では魚を捕らえられないため、他の鳥が落とした魚を待つ鳥と思われていたことに由来し、これも阿呆に通じる名です。

「信天翁」は漢名の借用で、日本では江戸初期から見られ「阿呆鳥」よりも古いものです。

5.鮑/鰒/蚫/石決明(あわび)

アワビ

アワビ」とは、ミミガイ科の大型巻き貝の総称です。貝殻は平たい楕円形で、二枚貝の片側だけのように見え、肉は食用とします。

「アワビ」は二枚貝の片方だけが岩にへばりついているような形に見えることから、「合」を語源とするが多く、「あはぬみ(不合肉)」や「あはすみ(合肉)」「あひ(合・間)」などが転じたとする説があります。

また、アワビの岩にへばりつく姿から、「イハフ(岩触)」の転や「イハハヒミ(岩這身)」の意味という説もあります。

しかし、いずれの説も想像の範囲であり、歴史的仮名遣いが「アハビ」ということ以外、正確な語源は分かっていません。

「合」に通じる説には、他に「合わないで開く」や「逢わないで侘しい」などの説もありますが、説明のような命名の仕方をするか疑問で、特に「逢わないでわびしい」については、ことわざの「磯の鮑の片思い」を元に考えられた説のようです。

「鮑」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・真中に 鮑が坐る 夏料理(鈴木真砂女)

・腰縄の 刀いかつくて 鮑取(飯田蛇笏)

・太陽へ 海女の太腕 鮑さげ(西東三鬼)

6.あどけない

あどけない

あどけない」とは、邪心がなくかわいい、無邪気なことです。

あどけないは、中世頃から「無邪気だ」や「子どもっぽい」という意味で用いられた「あどなし(あどない)」に、「け(気)」が加わったものと考えられます。

「け」が加わったのには、「いとけなし(いとけない)」「いわけなし(いわけない)」など、意味の関連する言葉との類推か混同によるものと思われます。
「あどない」の「あど」は、「アトド(足跡処)」の約で、幼児の足もとの不安定さからといわれます。

語源が正しければ、あどけないの漢字は「足処気ない」となりますが、語源は未詳であり、そのような漢字表記をした例も見られません。