日本語の面白い語源・由来(あ-⑨)相棒・阿漕・痘痕・雨・灰汁・霰

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刑事ドラマ・相棒

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.相棒(あいぼう)

片棒を担ぐ

「相棒」と言えば、水谷豊主演で2000年からテレビ朝日・東映の制作で放送されている刑事ドラマシリーズをまず思い出しますね。

「相棒」とは、「一緒に仕事などをするときの相手、仲間のこと」です。

相棒は、江戸時代の駕籠(かご)や畚(もっこ)の棒に由来します。

駕籠や畚は二人一組で棒の端と端を担ぐことから、その相手を「相棒」と言いました。
そこから、二人で協力して事をする時の相手も「相棒」というようになったのです。

駕籠の前の棒を「先棒(さきぼう)」、後ろの棒を「後棒(あとぼう)」と言います。

ちなみに「御先棒(おさきぼう)を担ぐ」とは、人の手先となって軽はずみな振る舞いをすることです。「先棒を担ぐ」とも言います。

「後棒を担ぐ」とは、主謀者の手助けとなって、よくないことに参加することです。

また「片棒を担ぐ」とは、二人でかつぐ駕籠や畚(もっこ)の片方を担当するという意味で、計画(主に悪事)に荷担(加担)することです。. 似たような言葉に「先棒を担ぐ」「後棒を担ぐ」がありますが、「先棒を担ぐ」は棒の前をかつぐ意で、人の手先として使われる、「後棒を担ぐ」は棒の後をかつぐ意で、主犯格の手助けをする(させられる)場合に使用されます。

2.阿漕(あこぎ)

阿漕

「あこぎ」とは、「強欲でやり方があくどいさまのこと」です。

あこぎは、三重県津市の「阿漕ヶ浦(あこぎがうら)」にまつわる伝説や歌に由来します。
その伝説とは、阿漕ヶ浦は伊勢神宮に供える魚を獲るための禁漁域でしたが、「阿漕の平次」と呼ばれる漁夫が繰り返し密漁を行い捕らえられたというもので、平安時代の類題和歌集『古今和歌六帖』の次の歌が有名です。

逢ふことを阿漕の島に曳網の度重ならば人も知りなむ

この伝説からさまざまな話が創作され、「阿漕ヶ浦」の名は世間に広まりました。

「あこぎ」は能の演目にも取り入れられています。「阿漕」という題名で、室町時代の能役者である世阿弥が作ったものとされます。

伊勢参りに訪れた人物が、年老いた漁師にここがどこかを尋ねます。
すると阿漕ヶ浦という場所だと教えられます。

話の流れで漁師の話を聞くことになるのですが、その話は阿漕ヶ浦という地名の由来に関するものでした。

「昔からこの地は伊勢神宮のお膝元であり、禁漁地であった。
しかし、阿漕という人物は穴場という事で度々密漁を行っていた。
そのため捕らえられ、海に沈められるという罰を受けた。
この逸話から、この地は阿漕ヶ浦となった。」というものでした。

漁師は最後に、阿漕は罪に苦しみ成仏できていないので弔って欲しいといって姿を消します。

室町時代の『源平盛衰記』では「あこぎ」を「度重なること」の比喩として使い、近世以降には「しつこいさま」の意味で使われるようになりました。

この語が民間に広まるにつれ、「あこぎ」は強欲であくどいさまの意味に変化していきました。

3.痘痕(あばた)

あばた

明治天皇夏目漱石に痘痕があったことは有名です。

「あばた」とは、「天然痘が治った後、皮膚に残る小さなくぼみのこと」です。

あばたは、「かさぶた」を意味するサンスクリット語「arbuda(アルブタ)」の音写「あ浮陀(あぶだ)」が訛った語です。

あばた

あぶだは「あぶだ地獄」とも言い、寒さによって苦しめる「八寒地獄(はっかんじごく/はちかんじごく)」(*)の地獄名のひとつで、ここに落ちた者は厳寒のため、体に水疱(すいほう)ができるとされました。

(*)「八寒地獄」とは、頞部陀あぶだ尼剌部陀にらぶだ頞唽吒あせった臛臛婆かかば虎虎婆ここば嗢鉢羅うばら鉢特摩はどま摩訶鉢特摩まかはどまのことです。「八熱地獄」のそばにあるということです。

そこから、僧侶の間では、天然痘が治った後に顔に残る傷のようなものを「あばた」呼ぶようになり、それが一般にも広まりました。

1980年、WHOが天然痘の全滅宣言を出しているため、「あばた」も存在しません。
しかし、意味の派生によって、現代では吹き出物の傷跡などを「あばた」と呼ぶようになりました。

4.雨(あめ)

雨降りイラスト

「雨」とは、「上空の水蒸気が冷えて、水滴となって地上に落ちてくる現象、また、その水滴のこと」です。

雨の語源を大別すると、「天(あめ)」の同語説と、「天水(あまみづ)」の約転説になります。

日本の天候は雨が多く、水田や山林など生活に雨が密接に関係していることから、雨を天からの恵みと捉えていました。

そのため、雨は草木を潤す「水神」として考えられており、雨乞いの行事なども古くから存在します。

「天」には「天つ神のいるところ」といった意味もあるため、雨の語源は、上記「天」「天水」のいずれかであると考えられます。

5.灰汁(あく)

灰汁

「灰汁」とは、「洗濯剤や漂白剤に用いられる、灰に水をつけてできた上澄みの水。食品に含まれる、渋み・苦み・不快臭などの元となる不要成分の総称。肉などを煮たとき、表面に浮き出る白く濁ったもののこと」です。

灰汁の語源には、「飽く(飽きる)」の「アク」、「あくどし(あくどい)」の「アク」があります。

「灰汁が強い文章」といった表現や、容姿や性格が洗練される意味で「灰汁が抜ける」とも使うため、「あくどし」が有力との見方もあります。しかし、このような表現が見られるのは、江戸時代以降です。

「灰汁」はもともと、灰を水に溶かした上澄みの水を意味する言葉でしたが、これが転じて植物などを水につけて浸出する液も灰汁と言うようになり、これがえぐみや渋みなどを伴うことから「えぐみ」の意で用いられるようになりました。

強い個性や癖の強い性質などを表す用法は幕末頃に生じたとされています。

灰汁は古くから使われている語で、平安中期の『和妙抄』や、平安末期の『類聚名義抄』にも見られます。

『古今和歌集』では、「アク」が「飽く」の意味で掛詞として使われているため、灰汁の語源は「飽く」とする説が妥当なようです。

6.霰(あられ)

霰

「霰」とは、「雲から降る直径5mm未満の氷粒のこと」です。

「霰」の語源ですが、「あられ」の「あら」は 「粗・散」と同源であり、「細やかでないこと」の意味です。

あられは、降り散って密でない様が語源となって「あられ」と呼ぶようになったとされています。

また、「荒く降る(あらくふる)」の意味で「あられ」とする説や、「荒雨(あらあめ)」の意味で「あられ」とする説などがあります。

このほか、「ありいられ(あり射られ)」で、「り」が脱落したものとする説もあります。「あり」は、「あり通ひ」のそれのように、ある動態が時間的・空間的に一般的であることを表現します。

「いられ(射られ)」は動詞「い(射)」の受身表現。すなわち、「ありいられ(あり射られ)→あられ」は、射られることがどこへ行っても、いつまでも、続くもの・こと、射られ続けるもの・こと、の意。

これは上空で結晶化した氷粒が落下する気象現象や落下するその氷粒を言うものですが、その氷粒が身体に当たること、身体を打つことを、射られ、と表現したわけです。

「あられ降(ふ)りいたも風吹き寒き夜や…」(万葉集2338)

「あられ」は冬の季語で、次のような俳句があります。

・鉄鉢の中へも霰(種田山頭火

・玉霰 雪ゆるやかに 二三片(中村汀女

・ちる霰 立小便の 見事さよ(小林一茶