日本語の面白い語源・由来(あ-⑩)紫陽花・あっけらかん・穴子・あべこべ

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紫陽花

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.紫陽花(あじさい)

ガクアジサイ

あじさい」とは、日本原産のアジサイ科アジサイ属の落葉低木です。初夏、淡青紫色・淡紫紅色に変わる小花が球状に群がって咲きます。

あじさいの古名は、「あづさヰ(あぢさヰ)」でした。

あづ(あぢ)」は集まるさまを意味し、特に小さいものが集まることを表す語です。
さヰ」は「真藍(さあい)」の約、もしくは接頭語の「さ」と「藍(あい)」の約で、青い小花が集まって咲くことから、この名前が付けられたとされます。

ただし、あじさいを漢字で「集真藍」と書いたとする説もありますが、それは誤りで、漢字を当てはめるとするならば、語源から考えて「集真藍」の字が妥当であろうというだけです。

漢字の「紫陽花」は中国の招賢寺にあった花の名前で、日本のあじさいとは異なるものであったといわれます。

日本の古い文献では、『万葉集』で「紫陽花」の例が見られます。

あじさいには「七変化(しちへんげ)」や「八仙花(はっせんか)」などの異名があることから、新潟県や佐賀県では七面鳥の皮膚の色が変わることにたとえ、「七面鳥」といった呼び方もされます。

「あじさい」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・紫陽花や 藪を小庭の 別座敷(松尾芭蕉

・北陸は 紫陽花多く 海黝(くろ)し(佐藤春夫)

・花二つ 紫陽花青き 月夜かな(泉鏡花)

・紫陽花や 筧(かけひ)に口を そゝぐ尼(寺田寅彦)

2.あっけらかん

あっけらかん

あっけらかん」とは、何もなかったようにけろっとしているさま、意外なことに呆れてぼんやりしているさまのことです。

あっけらかんの「あけ」は、口をぽかんと開けた状態のことで、中世には「開く」の連用形を撥音化した「あんけ」という副詞がありました。

「あんけ」に状態を表す接尾語「ら」が付いた「あんけら」が生まれ更に接尾語「かん」が付いて「あんけらかん」となり、「人の女房と枯れ木の枝は、あんけらこんけら、登りゃ登るほどあんけらこんけら」と歌いながら飴を売る「あんけらこんけら糖売り」という商売も出てきました。

近世頃から、撥音化されない「あけらかん」が見えはじめ、促音化されて「あっけらかん」となりました

「あっけらかん」のほか、「あけらこん」や「あっけらこん」など、「こん」が使われていた例も見られます。

本来、あっけらかんは口を開けてぼんやりしていたり、意外なことに開いた口が塞がらないさまを意味する言葉でしたが、いつしか意外なことをして呆れさせる側にも使われるようになりました。

また、「呆気に取られる(あっけにとられる)」の「あっけ」も、あっけらかんの「あっけ」と同じで、「取られる」は悪霊に精神を奪われたような意味からと考えられます。

ただし、「あっけにとられる」や「あっけない」などの「あっけ」は漢字で「呆気」と書きますが、あっけらかんを「呆気らかん」と漢字表記することはなく、全てひらがな表記です。

3.穴子(あなご)

穴子

あなご」とは、ウナギ目アナゴ科に属する魚の総称で、普通はアマナゴを指します。

日中は岩穴や砂の中に棲む夜行性の魚であることから、「あなご」と呼ばれるようになったとする説が有力とされます。

この説では、「穴籠り(あなごもり)」が変化して「あなご」になったとの見方もあります

また、あなごの「なご」の語根が、うなぎの「なぎ」と共通し、水中に棲む長い生き物を「nag」の音で表していたとも考えられています。

つまり、近縁種の“ウナギ”の“ナギ”がアナゴに対する名称として使われるようになり、それが変化して“ナゴ”といわれるようになった、という説です。

「nag」の音に関連する説では、「長魚(ながうお)」が転じた説があります。これは、体が長いことから、長い魚を意味する“ナガウオ”と名付けられ、その呼び名が時とともに変化し、現在の“アナゴ”になったという説です。

「あなご」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・山盛りや 頭ついたる 焼穴子(岡井省二)

・観能を 中座して来し 穴子めし(伊藤白潮)

・待ちし甲斐 ありし茶店の 穴子飯(稲畑汀子)

4.あべこべ

あべこべ

あべこべ」とは、物事の順序や位置、関係などがひっくり返っていること、反対ということです。

あべこべ

あべこべは、江戸時代頃から用いられるようになった語です。

『和訓栞』では「彼辺此辺(あべこべ)」の意
『俗語考』では「彼方此方(あべこべ)」の意味
『両京俚言考』では「あちらべこちらべ」の略とされ、いずれも「彼(あ)」と「此(こ)」に通じています。
「彼」や「此」は「あれこれ」や「あちこち」など対で用いられ、「あべこべ」も単独では用いられません。

「べ(辺)」については「水辺」「海辺」などの「べ」と同様であると考えられます。

余談ですが、「写真の顔が気に食わない」の言う人がいますが、その原因をご存知でしょうか?

最大の原因は、自分がよく知っている顔は「鏡に映る自分の顔」で、「写真の顔」(自分の本当の顔)とは「左右あべこべ」だからです。

写真の顔は他人が自分を見るのと同じように見えます。しかし鏡の中に映る顔は、左右が逆転しています。人間の顔は左右対象ではありません。目や眉毛、鼻、口の形など、右と左では微妙に違います(SNS投稿の際にチェック!左から撮った方が美人に写る)。

そのため、鏡と写真の顔を見比べると、左右が逆転して違うニュアンスの顔となるため、写真の顔に違和感を感じてしまうのです。