日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.弟(おとうと)
「弟」とは、兄弟のうち年下の男、妹の夫・夫や妻の弟(義弟)のことです。
おとうとは、「おとひと(弟人)」の「ひ」がウ音便化した語です。
「おと」は性別に関係なく、兄弟のうち年下を指したので「劣る」の意味と考えられます。
「おとうと」の語は平安時代から見られるようになりますが、男に限定して用いられるようになったのは江戸時代以降です。
「おとこ(男)」や「おとめ(乙女)」の「おと」には「若い」の意味があることから、「若い」の意味の「おと」とする説もありますが、「おとこ」や「おとめ」の「おと(旧かな「をと」)」と、おとうとの「おと」とは音が異なるので誤りです。
余談ですが、笑福亭鶴瓶が吉永小百合の弟役を演じた山田洋次監督の映画『おとうと』は、私も見ましたが感銘を受けました。
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2.大人しい(おとなしい)
「おとなしい」とは、性質や態度が穏やかで素直なさま、静かなさま、色や柄などが派手でなく、落ち着いているさまのことです。
おとなしいは、「成人」を意味する「大人」を形容詞化した語です。
その言葉通り、おとなしいは元々「成熟しているさま」を表しましたが、「思慮分別が備わっていて年長者らしい」といった意味が含まれるようになったことで、「大人びている」「大人っぽい」など実際の年齢を問わない表現となりました。
「大人のような」の意味から「穏やか」「落ち着いている」「静か」という意味が含まれるようになり、「素直なさま」「従順なさま」も表すようになりました。
更に「おとなしいデザイン」というように、人間以外のものに対しても落ち着いた性質を表現するようになりました。
3.扇(おうぎ)
「扇」とは、あおいで風を起こす道具で、儀式・祭事、舞踏の具にも用いられます。うちわを指すこともありますが、一般には畳めるものを指します。「末広(すえひろ)」「扇子(せんす)」とも言います。
動詞「あふぐ(煽ぐ)」の連用形「あふぎ」が名詞化した語で、「おうぎ」はその現代仮名遣いです。
漢字の「扇」は「戸」+「羽」で、戸や羽のように平らな面が動いてあおぐことを表しています。
4.おつむ
「おつむ」とは、頭のことで、主に幼児に対して用います。
おつむは「おつむり」の略で、宮中の女官が用いた女房詞でした。「おつむり」の「お」は接頭語、「つむり」は頭のことです。
「つむり」は「つぶり」が転じた語で、丸くて小さいものを表す「粒」と同源です。「かたつむり」の「つむり」など、渦巻状の貝にも用いられます。
それが「頭」の意味で用いられ、女房詞で「おつむり」となり、「り」が略されて「おつむ」となりました。
5.思う壺(おもうつぼ)
「思う壺」とは、意図したとおり、期待した通りになることです。
思う壺の「壺」は、博打でサイコロを入れて振る籐や竹で編んだ「壺皿」のことです。
熟練の壺振り師は、思ったとおりの目を出せることから、意図したとおりになることを「思う壺」と言うようになりました。
「思う壺にはまる」という表現は、狙った通りになる意味の「壺にはまる」に合わせたものですが、壺にはまるの「壺」は博打で用いる壺皿のことではありません。
6.大童(おおわらわ)
「大童」とは、一生懸命になること、夢中になってすること、なりふりかまわず一心にすること(または、そのさまのこと)です。
大童は、髪の乱れの形容から生まれた言葉です。
「童(わらわ)」は元服前の子供(3歳から10歳くらい)のことですが、子供が髪を束ねないで垂らしているその髪型も言います。
大人はきちんと髪を結っていますが、戦場で兜を脱ぎ捨てると髪が乱れ、童のようになることから、髪を乱して奮戦するさまを「大きな童」で「大童」と言うようになり、一生懸命になって行うさまも「大童」と言うようになりました。
「童」の語は「乱れる」の意味に由来するため、髪型に関係なく、取り乱して大慌てすることから「大童」になったとも考えられますが、『平治物語』の「冑も落ちて、おほわらわになり給ふ」など、髪の乱れをいったものが多いことから、子供のように乱れた髪に由来すると考えた方が良いようです。