日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.稽古(けいこ)
「稽古」とは、芸能・武術・技術などを習うこと、練習のことです。
「稽」は「考える」を意味する漢字で、漢語の「稽古」の原義は「古(いにしえ)を考える」「昔のことを調べ、今なすべきことは何かを正しく知る」で、温故知新に似た意味でした。
そこから派生し、古い書物などを読んで学ぶことを意味するようになり、「稽古」は学問する意味で用いられるようになりました。
日本では中世以降、学問に限らず、芸能や武術を学んだり習うことにも「稽古」が用いられました。
現代では、学問を学ぶことよりも、華道や茶道などの芸事や、剣道や弓道などの武芸を習ったり練習する意味で使われることが多くなっています。
2.経済(けいざい)
「経済」とは、人間生活に必要な物資の生産・流通・交換・分配・消費する活動、また、それらの行為を通じて形成される社会関係の総称、金銭のやりくりを意味します。
経済は、古代中国の「経国済民」もしくは「経世済民」の略です。
「経国済民」や「経世済民」は、国(世)を治め民を救済することを意味し、現代でいう「政治」の意味に近い語です。
日本では江戸時代の学者用語に現れ、理念的な政治政策の意味として用いられていましたが、しだいに経済運営の意味で使われるようになりました。
明治時代に入り、経済が「economy(エコノミー)」の訳語として選ばれたことで、現在用いられる意味に定着していきました。
3.毛(け)
「毛」とは、哺乳類の皮膚の表皮の角質化によって生じる糸状のものです。髪の毛。鳥の羽毛。
毛の語源には、生える物の意味で「生(き・け)」からや、「細(こ)」が転じたとする説、「気(き)」の転など10種以上の説がありますが、「生(き・け)」とする説が有力と考えられています。
毛は全身のほとんどを覆うものですが、人間の体毛のうち、頭皮に生えるものは他所のものに比べ濃くて多く生えることから、特に髪の毛を指して「毛」と言うことが多くなっています。
4.玄関(げんかん)
「玄関」とは、建物・住居の主要となる出入り口のことです。
玄関は、中国『老子』の「玄の又玄なる衆の妙なる門」に由来し、日本では鎌倉時代に禅宗で用いられた仏教語です。
「玄」は奥が深い悟りの境地を意味し、「関」は入り口のことで、玄関は玄妙な道に入る関門、つまり奥深い仏道への入り口を意味しました。
そこから、玄関は禅寺の方丈への入り口を意味し、寺の門なども指すようになりました。
玄関が住居の入り口の意味として用いられたのは、江戸時代以降のことです。
5.ケチ(けち)
「ケチ」とは、金品を惜しがって出さないこと、卑しいこと、また、その人のことです。吝嗇(りんしょく)。
ケチは、「けちをつける」や「けちがつく」の語源と同じく、不吉なことを意味する「怪事(けじ)」が訛った語です。
江戸時代以降、ケチは「粗末で貧弱なさま」「いやしい」などの意味を持つようになり、現在の意味で使われるようになっていきました。
ケチの漢字はありませんが、「吝嗇」を当てて書くこともあります。
6.けんちん汁/巻繊汁(けんちんじる)
「けんちん汁」とは、崩した豆腐と千切りにした大根・ごぼう・芋などの野菜を油で炒めたものを入れたすまし汁のことです。
けんちん汁は、中国の普茶料理が日本化したもので、漢字では「巻繊汁」と書きます。
「繊」を「ちん」と読むのは唐音です。
漢字からも分かるとおり、けんちん汁の「けんちん(巻繊)」は繊切り(せんぎり)にした材料を巻いたもののことです。
大根やごぼう、豆腐などを細切りにして油で炒め、湯葉や薄焼き卵で巻いて、揚げたり蒸したりしたものを意味します。
日本では、具だけを取り入れた料理も「けんちん」といいました。
けんちん汁の語源には、鎌倉の建長寺の開山であった蘭渓道隆(らんけいどうりゅう)が、崩れてしまった豆腐を野菜と煮込んで作った汁物に由来するといった説もあります。
この汁物が、「建長寺」の名から「建長寺汁」「建長汁」と呼ばれるようになり、訛って「けんちん汁」になったというものです。
しかし、この説では「建長」よりも難しい「巻繊」の字が当てられた理由など不明な点が多く、有力とは考えられていません。
7.拳骨(げんこつ)
「げんこつ」とは、きつく握りしめたこぶし。げんこ。煮込んでスープなどをとる豚の大腿骨・脛骨を意味します。
げんこつは、「拳固殴ち(げんこうち)」が訛った語です。
拳固は、こぶしを意味する漢語「拳(けん)」に接尾語の「子(こ)」が付いて「拳子」という語ができ、固く握り締めたものなので「拳固」の漢字が当てられ、読みも「げんこ」となったものです。
そのため、「げんこ」のみでも握りこぶしの意味があり、「げんこつ」の略ではありません。
その「拳固」を使って殴ることを「拳固殴ち(げんこうち)」と言い、「げんこうち」が「げんこち」、さらに「げんこつ」と変化して、「こつ」に「骨」が当てられて「拳骨」と書くようになりました。
語源からすれば、げんこで殴ることが「げんこつ」なので、「げんこつで殴る」は重複表現となるが、音変化後の「げんこつ」は「握りこぶし」を意味するため、重複表現にはなりません。
ラーメンのスープなどをとる豚の膝関節部分の骨を「ゲンコツ」と呼ぶのは、骨端の形が人のこぶしの形に似ていることに由来します。