日本語の面白い語源・由来(け-⑤)蛍雪の功・けじめ・逆鱗に触れる・源氏名・毛嫌い

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蛍雪の功

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.蛍雪の功(けいせつのこう)

蛍雪時代

私が高校生の頃、大学受験する高校三年生向けの学習雑誌に旺文社の「螢雪時代」というのがありました。

蛍雪の功」とは、苦労して勉学に励むことや苦学した成果のことです。

蛍雪の功の「蛍雪」は、苦労して勉学に励むことを意味し、「」は成し遂げた仕事や功績を意味します。

「蛍雪」が苦労して勉学に励む意味となった由来は、晋の時代の歴史を記した中国の史書『晋書(車胤伝)』にある以下の故事によります。

中国の晋の時代に、車胤(しゃいん)と孫康(そんこう)という二人の青年がいた。
二人は官吏を志望していたが、夜に本を読むための灯火の油を買うこともできないほど、共に家が貧しかった。
そこで車胤は、夏の夜にを数十匹つかまえて絹の袋に入れ、蛍の光で本を読んで勉強し、孫康は冬の夜に窓辺に雪を積み上げて、雪の明かりで勉強し続けた。
二人の努力は報われて、のちに高級官吏に出世した。

この故事にある「蛍」と「雪」から、「蛍雪」という言葉が生まれました。

この故事に由来する四字熟語や慣用句には、「蛍雪の功」以外にも「蛍窓(けいそう)」「蛍窓雪案(けいそうせつあん)」「雪案蛍窓(せつあんけいそう)」「雪窓蛍机(せっそうけいき)」「車胤聚蛍(しゃいんしゅうけい)」「孫康映雪(そんこうえいせつ)」などがあります。

卒業式によく歌われ、パチンコ屋などの閉店の音楽として使われる『蛍の光(螢の光)』の歌詞「蛍の光 窓の雪」も、この故事に基づくものです。

なお『蛍の光』の歌詞については、「蛍の光には3番・4番の歌詞がある!戦後、歌詞が抹消・改作・改変された唱歌」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。

2.けじめ

けじめ

けじめ」とは、物と物の相違・区別・差別、道徳や規範に従って言動・態度に表す区別、節度ある態度のことです。

けじめの語源は諸説ありますが、囲碁用語の「けち(結・闕)」からとする説「けちえん(掲焉)」の説「わかちめ(分目)」の説のいずれかと思われます。

囲碁用語の「けち(結・闕)」は、対局の終盤で決まらない目を詰め寄せることで、いわゆる「駄目」のことです。

「けちえん(掲焉)」は、「くっきりと際立つさま」「明らかなさま」を意味する語で、「掲」を「けち」と読むのは呉音です。

「けぢめ(けじめ)」の語が見られるのは平安時代で、時代的には問題なく囲碁用語からとも考えられますが、「区別」という意味になったという点で説得力に欠けます。

「掲焉」は意味の面では通じますが、「けちえん」から「けぢめ」への変化は考え難いものです。

平安末期の辞書『類聚名義抄』の「分」の訓に「ケヂメ」とあり、「わかちめ(分目)」の意味から生じた語と考えるのが妥当です。

ただし、『源氏物語』では「けぢめ見えず」「けぢめ見ず」など、見ることに関わる動詞を伴なった表現がされており、元々、けじめは視覚的な区別を表す語であったと考えられることから、「掲焉」の説も間違いとは言い切れません。

「けぢめ(けじめ)をとる」、「けぢめ(けじめ)を食う」といった表現が見られるようになるのは江戸時代以降で、現代では主に「けじめをつける」の形で用いられます。

3.逆鱗に触れる(げきりんにふれる)

逆鱗に触れる

逆鱗に触れる」とは、天子の激しい怒りを受けること、目上の人を激しく怒らせることです。

出典『韓非子(説難)』です。

逆鱗に触れるの「逆鱗」とは、竜のあごの下にある一枚の逆さまに生えた鱗のことです。
この鱗に触れると、普段はおとなしい竜が怒り、必ず殺されるという伝説から、天子の怒りを買うことを「逆鱗に触れる」と言うようになった。

転じて、上司や先生など、目上の人に逆らって激しい怒りを買う意味でも、「逆鱗に触れる」は用いられるようになりました。

竜の怒りが天子の怒りとなるのは、天子が竜にたとえられるためです。ちなみに天子の顔は「竜顔(りゅうがん/りょうがん)」と言います。

4.源氏名(げんじな)

源氏名

源氏名」とは、水商売で働く女性の店での呼び名のことです。

元は『源氏物語五四帖』の巻名にちなんでつけられた宮中の女官の名を「源氏名」と言いました。

他にも、京都の小路の名を与える「小路名」といった命名法があり、「源氏名」はそのような命名法のひとつでした。

江戸時代に入り、この命名法は武家の奥女中に受け継がれ、芸者や遊女にも用いられるようになりました。

ただし、この当時、吉原などの高級遊女には『源氏物語』の巻名に基づいた「源氏名」が用いられ、私娼街の遊女には「おゆき」や「おしま」など、仮名二文字に「お」をつけた「おの字名」が用いられました。

のちに、遊女や芸者の呼び名としての位置づけが強くなり、命名法や職業的な地位に関わらず、風俗産業(性風俗とは限らない)で働く女性の仮名は「源氏名」と呼ばれるようになり、『源氏物語』の巻名に関係ない名前についても「源氏名」と言うようになりました。

5.毛嫌い(けぎらい)

毛嫌い

毛嫌い」とは、はっきりした理由もなく、感情的に嫌うことです。

毛嫌いの語源は、鳥獣が相手の毛並みによって好き嫌いをすることからといわれます。
また、闘鶏で相手の鶏の毛並みを嫌って戦わないことから出たとする説や、雌馬が雄馬の毛並みを嫌っての種付けがうまくいかないことから出た言葉など、「毛嫌い」の出所を細かく示す説もあります。
ただし、「毛嫌い」の細かな出所は定かではないため、鳥獣が毛並みによって相手を嫌うことを元に、後から付け加えられたものと考えられます。