日本語の面白い語源・由来(お-⑥)乙・おべんちゃら・おべっか・落ち度・可笑しい

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乙

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.乙(おつ)

おつ

」とは、しゃれて気が利いているさま、趣のあるさま、粋なさまのことです。

乙は、十干の一つで甲に次いで二番目。「甲乙つけがたい」の「乙」は、「甲」を第一位としたときの二番目にあたることから言います。

邦楽では、「甲」に対して一段低い音を「乙」と言いました
江戸時代、この低い音が通常とは異なる調子であることから普通とは違って「変なさまだ」「妙だ」という意味で、邦楽以外のことについても使われ始めました

この頃には、マイナスの意味での使用がほとんどでしたが、明治時代に入ると、変わっていて「しゃれている」「趣がある」といったプラスの意味で用いられることが多くなりました。

一説には、まっすぐな「一」に対して、「乙」は字が曲がっていることからとも言われます邦楽の「甲」に対して「乙」の説が有力です。

インターネット掲示板などで見られる「乙」は、「おつかれさま(お疲れ様)」を略した「おつ」を漢字変換して「乙」としただけであり、気が利いている意味からの派生ではなく、乙なものでもありません。

2.おべんちゃら/べんちゃら

おべんちゃら

おべんちゃら」とは、口先だけで相手の機嫌を取ろうとすることまたその時のお世辞やそれを言う人のことです。

おべんちゃらは、「べんちゃら」に接頭語の「お(御)」が付いた語です。

べんちゃらの「べん」は、「ものの言いよう」「話しぶり」を表す「弁(べん)」
ちゃら」は、「でまかせを言うこと」「でたらめ」を意味する「ちゃら」です。
「べんちゃら」は江戸時代、「おべんちゃら」は明治以降に見られます。

サラリーマンでも、上司におべんちゃらを言う人が気に入られて出世するようです。「人間は感情の動物である」という言葉もありますが、上司にお世辞も言わず、黙々と仕事に励んでいるだけではなかなか認められないのが世の中です。

ただし、社内で派閥抗争があると、敗れた方の上司に追従しておべんちゃらを言っていた人は、その争いに巻き込まれて左遷の憂き目にあうことになります。

3.おべっか

おべっか

おべっか」とは、人の機嫌を取ろうとして、へつらったり、軽薄なお世辞を言うこと(また、その言葉のこと)です。

おべっかの語源は、口のきき方・言い方のほか、口のきき方がうまいことを意味する「弁口(べんこう)」に、接頭語の「御(お)」が付いた「御弁口(おべんこう)」が変化した言葉と考えられます。

北海道の方言で、おべっかを「べんこ」というのも、「弁口」からと思われます。

その他、おべっかの語源には、神事・祭事の際に炊事の火を別にすることをいう「別火(べっか)」に由来し、別火を知らない人が調子よく「おべっか」と言ったことからとする説もあります

4.落ち度/落度(おちど)

落ち度

落ち度」とは、あやまち、手落ち、失敗、過失のことです。

落ち度は、本来「越度」と書いて「ヲツド」と言いました。「」は「」を意味し、「越度」は法を越えることで、主に関所の法を破ることを表しました

中世頃に「ヲチド」とも読むようになり、その頃から法以外にも一般的な過ちを表す言葉として用いられるようになりました。

その後、「手落ち」などの類推から「落ち度(落度)」と表記されるようになりました。

5.可笑しい(おかしい)

可笑しい

おかしい」とは、滑稽である、普通ではなく変だ、妙だ、疑わしい、納得がいかないことです。

おかしいの語源には、好意的に興味を持って迎えることから、「招き寄せる」意味の動詞「をく(招く)」の形容詞形とする説と、「愚かなこと」「馬鹿げていること」を意味する名詞「をこ(痴・烏滸)」の形容詞形とする説があります。

おかしいの古形は「をかし」で、『枕草子』や『更級日記』などに見られる「いとをかし」は、「風情がある」「趣がある」といった意味で訳されるように、対象を好意的に捉えており、「招く」の説が当てはまります。

「滑稽だ」「普通と違って疑わしい」という意味では、愚かなことを意味する「をこ」の説が当てはまり、おもしろさを表す「滑稽」の意味から「ほほえましく魅力的である」という意味が生じたとすれば、「心をひきつける」「趣深い」という意味にも通じます。

ただし、「滑稽」という意味の「をかし(おかしい)」は、平安中期頃から多く見られるため、「趣がある」を意味する「おかしい」と、「滑稽」を意味する「おかしい」は、別々の語であったとも考えられます。

おかしいの漢字は当て字で「可笑しい」と書くきますが、「疑わしい」の意味の場合は「奇怪しい」が当てられます。