日本語の面白い語源・由来(し-⑭)松竹梅・幸せ・鎬を削る・如雨露・親切・漆喰・七輪・東雲

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松竹梅

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.松竹梅(しょうちくばい)

松竹梅ランク付け

飲食店のメニューで、松竹梅のランク付けが使用されている場合がありますね。ちなみに3つのメニューのうち、一般には値段が高く上等なものは「松」ですが、逆の例(下の画像)もあります。

松竹梅・献立表

松竹梅」とは、松と竹と梅で、めでたいものとして祝い事の景物などに使われます。品物などを三階級に分けた際の等級の呼称。一般的には、松を最高等級とし、竹、梅の順となります。

松竹梅は、中国の「歳寒三友(さいかんさんゆう)」が入ったものといわれます。
「歳寒三友」とは画題の一で、松と竹は冬期に緑を保ち、梅は花を開くことから、こう呼ばれるようになりました。

松竹梅だけでなく、「梅」「水仙」「竹」を配したものも「歳寒三友」と呼ばれます。
この「歳寒三友」が「松竹梅」の元となってはいますが、「歳寒三友」には日本の「松竹梅」のように、めでたいものの象徴といった意味は含まれていません。

日本で松竹梅が吉祥の象徴とされるようになったのは、松が常緑で不老長寿に繋がるとして平安時代から、竹は室町時代から、冬に花を咲かせる梅が江戸時代からです。

松竹梅がめでたいものの象徴となった由来と関係ありませんが、植物学的には、松が裸子植物の代表、竹が単子葉類の代表、梅が双子葉類の代表で、「松竹梅」は植物三界の代表が揃っています。

また、しめ飾りに用いるウラジロは隠花植物の代表であるため、慶事に用いる代表的な植物を揃えると、植物界全体の代表が揃うことになります。

品物などのランクを「松竹梅」で表すことは本来なかったことですが、「並」と注文するよりも「梅」とした方が注文しやすく、植物の名に置き換えた方が美しいため、「松竹梅」は寿司屋などで等級として用いられるようになりました。

ランクの順番は特に決まっているものではなく、本来、松・竹・梅に上下関係はありませんが、特上が松、上が竹、並が梅とされるようになりました。

この順番は、吉祥の象徴となった時代順とも言われますが、松と竹と梅の三種を「松竹梅(しょうちくばい)」と呼ぶところから、その順番と考えた方が無難です。

2.幸せ(しあわせ)

幸せ

幸せ」とは、運が良いことです。また、そのさま。幸運。幸福。

しあわせは、「しあわせる(為る+合わせる)」の名詞形として室町時代に生まれた語です。

本来は「めぐり合わせ」の意味で、「しあわせが良い(めぐり合わせが良い)」、「しあわせが悪い(めぐり合わせが悪い)」と、評価語を伴なって用いられました。

江戸時代以降、「しあわせ」のみで「幸運な事態」を表すようになりました。

更に、事態よりも気持ちの面に意味が移って「幸福」の意味になり、「幸」の字が当てられて「幸せ」と表記するようになりました。

漢字の「幸」は手かせを描いたもので、「手かせ」や「刑罰」を意味しました。
やがて、手かせをはめられる(刑罰にかかる)危険から免れたことを意味するようになり、思いもよらぬ運に恵まれたことから、幸運・幸せの意味へと広がっていきました。

「手のひらのしわとしわを合わせて幸せ」と言われますが、「しわ」を合わせると「しわあわせ」で「幸せ」にはなりません。

これは、手のしわを合わせることが「幸せの語源」ということではなく、手を合わせていることが幸せな状態であることを表した言葉です。

余談ですが、「大阪都構想」に反対する人の言葉に「府市合わせは不幸せ」というのがありました。私は個人的には「大阪都構想」には賛成でしたが・・・

大阪市の人口は約266万人で、全国で2番目の大都市です。そのため、大阪市の権限は非常に大きく、大阪府と同じくらいの権限があります。

そのため、大阪市は大阪府と大阪市の「二極体制」のような形になっており、「二重行政」の無駄があったり、府と市の意見が食い違って足並みがそろわないという弊害もあります。

1956年(昭和31年)に大阪市が政令市に指定され、大阪府と同等の行政権限を持つようになってから、50年以上の長きにわたって「大阪府庁」と「大阪市役所」は「犬猿の仲」でした。

足の引っ張り合いをやって来た長い歴史を揶揄して作られた語呂合わせが「府市合わせは不幸せ」です

3.鎬を削る/しのぎを削る(しのぎをけずる)

しのぎ

しのぎを削る」とは、激しく争うことです。

しのぎを削るの「しのぎ(鎬)」とは、刀の刃と峰(背の部分)の間で稜線を高くした所です。

その鎬が削れ落ちるほど、激しく刀で斬り合うさまを「しのぎを削る」と言いました。

そこから、刀を用いない熱戦についても言うようになりました。

しのぎを削るは、「凌ぎを削る」と誤表記されることがあります。
凌ぎは、苦しみに耐えて何とか切り抜ける意味で、「その場しのぎ」や「当座しのぎ」と使う「しのぎ」です。

「鎬」の語源は「凌ぎ」と関係無いとは言えません。
しかし、「しのぎを削る」は「凌ぎ」と直接関係しないため、漢字で書く場合は「鎬を削る」が正しい漢字です。

4.如雨露(じょうろ)

じょうろ

じょうろ」とは、植木などに水をかけるのに使う道具です。水を溜める容器に管をつけ、多くの小穴が開いた管先から細かく水が出るようにしたもの。

じょうろは「水の噴出」を意味するポルトガル語「jorro」、もしくは、同じくポルトガル語で「水差し」を意味する「jarra」からと考えられます。

「じょろ」とも呼ばれていたため、水が出る時の「じょろじょろ」という音が語源とも言われますが、南蛮渡来の物と考えられていることや、「ジョーロ」と発音されることが多かったことから、ポルトガル語に由来すると考えて間違いないようです。

じょうろの漢字「如雨露」は、「雨露(うろ)の如し(ごとし)」の意味と音からの当て字です。

江戸時代には、「上露」「上漏」「如露」などの漢字も当てられています。

「如雨露」は夏の季語です。

5.親切(しんせつ)

親切

親切」とは、人情のあついこと、思いやりがあり、人のために尽くすことです。

親切は、「親を切る」という意味ではありません。

「親しい」「身近に接する」という意味で、は刃物をじかに当てるように「身近である」「行き届く」という意味があります。

つまり、身近に寄り添い、行き届くようにすることが「親切」の意味です。

思い入れが深く、切実であることの意味では「深切」という漢字が用いられます。
漢語では、この意味で用いられることが多かったため、古くは「深切」の字が常用されていました。

「親切」や「深切」のほか、当て字として「心切」の漢字も使われています。

余談ですが、かつて「小さな親切運動」というのがありました。1963年3月 – 東京大学卒業式の告辞で、総長であった茅誠司が「小さな親切」の重要性を訴えました。その後、「小さな親切」の実践例が新聞などで報じられ、社会から幅広い共感が寄せられました。

6.漆喰(しっくい)

漆喰

漆喰」とは、消石灰に麻糸などの繊維、ふのりや角叉(つのまた)などの粘着剤を加え、水で練ったものです。砂や粘土を加えることもあります。壁の上塗りや、石・レンガの隙間をふさぐのに用います。

しっくいの語源は、「石灰(せっかい)」を唐音読みした「しっくい」です。

漢字の「漆喰」は当て字で、江戸時代頃から「漆喰土」「漆喰塗り」などの語が見られます。

ただし、漆喰の起源はそれよりもかなり古く、ほぼ石灰であるが古墳の壁画などにも用いられており、エジプトのピラミッドの壁などにも用いられています。

7.七輪(しちりん)

七輪

七輪」とは、煮炊きなどに用いる土製のコンロです。

七輪は小型かつ燃焼効率が良く、少量の炭で足ります。

そこから、ものを煮るのに炭の価が7厘程度で間に合うという意味で、「七厘」と呼ばれるようになり、円形のものが多かったことから「七輪」と当てられたとする説が有力です。

七輪

現在の七輪と同様のものが江戸時代から作られており、通貨の「厘」は明治時代に入って使われているため疑問も残りますが、江戸以前は別の呼称で呼ばれていたとすれば十分に考えられます。

他の説では、底にある空気穴が7つあることから「七輪」と呼ぶようになったとする説と、七厘ほどの重さの炭で足りることからといった説があり、空気穴の説は、穴が7つとは限らないことや、「穴」を「輪」と捉えている点から考え難い説です。

重さの説は、通貨の説の問題点を解決しているように思えますが、七厘(0.2625g)の炭では少な過ぎるため、この説も考え難いものです。

8.東雲(しののめ)

東雲

東雲」とは、東の空が明るくなる頃のことです。夜明け方。あけぼの。

漢字で「東雲」と書くのは、東の空の意味からの当て字です。

語源は「篠の目(しののめ)」と思われます。
古代の住居では、明かり取りの役目をしていた粗い網目の部分を「目(め)」と言いました。
目の材料には篠竹が使われていたため、それを「篠の目」と呼び、のちに明かり取りそのものを「篠の目」と呼ぶようになりました。

そこから、夜明けの薄明かりを「篠の目」にたとえて「しののめ」と言うようになり、東の空が明るくなる頃や夜明けのことも「しののめ」と言うようになりました。

「東雲」そのものは季語ではありませんが、元日の夜明け方を意味する「初東雲」は新年の季語です。

・水仙に 初しのゝめや 洛の水(松瀬青々)

・人形に 初東雲の 色の髪(鈴木伸一)

・汲みに出て 初東雲の 泉かな(田中兆木)

・初東雲 かがり火浴びて 詣でけり(島田とし子)