日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.お袋(おふくろ)
森進一の有名な「おふくろさん」という歌がありましたが、私の故郷の大阪では「おかあちゃん」と呼ぶのが一般的で、「お袋(お袋さん)」とは決して言いません。
「おふくろ」とは、母親を親しんでいう語で、おやじの対儀語です。
おふくろは、室町時代から見られる語です。現代では、「おふくろ」を用いるのは主に男性ですが、1603年『日葡辞書』の説明では、「女性が普通用いる言葉だが男性も用いる言葉」とされています。
おふくろの語源については、以下のとおり諸説ありますが未詳です。
①「お」は接頭語で、母親は金銭や貴重品を袋に入れ全ての管理をしていたことから、「ふくろ(おふくろ)」と呼ぶようになったとする説。
②胎盤や卵膜などの胞衣(えな)や子宮を「ふくろ」と呼んでいたことから、母親そのものも言うようになったとする説。
③子は母親の懐で育つため、「ふところ」が詰まって「ふくろ」となり、「おふくろ」になったとする説。
余談ですが、私の結婚式で、主賓の挨拶に「3つの袋を大切にするように」との話がありました。それは「お袋・胃袋・堪忍袋」で、私はなるほどと思いました。
後で聞いた話では、この「3つの袋」は結婚式のスピーチの鉄板ネタだそうです。
結婚生活において「堪忍袋」「巾着袋(給料袋)」「お袋」という3つの「袋」がもっとも大切であるという、いわゆる教訓話です。ただし、私が聞いた話では「巾着袋(給料袋)」は入っておらず、「胃袋」で「暴飲暴食を慎み、健康に留意するように」ということでした。
2.おなら
「おなら」とは、屁の婉曲な言い方で、「放屁(ほうひ)」とも言います。
おならは「鳴らす」の連用形を名詞化した「鳴らし」に、接頭語の「お」が付いた「お鳴らし(おならし)」を最後まで言わず婉曲に表現したもので、もと女房詞です。
おならは屁を放つ時に音が発するものを指すことが多いのに対し、屁は多くの場合「すかし屁(すかしっぺ)」などのように音を立てないものも指します。
『柳多留』には「屁をひったより気の毒は おなら也」と、その違いが巧く表現されている川柳もあります。
余談ですが、エレキテルや土用の丑の日の宣伝で有名な平賀源内は『放屁論』という面白い戯作を書いています。本編では放屁を見せ物にして人気のあった江戸両国橋の芸人を素材にして、また後編ではエレキテルを発明した浪人貧家銭内(ひんかぜにない)の口を通じて,創造性のない停滞した身分制社会の諸側面を鋭く批判しています。
3.大立者(おおだてもの)
「大立者」とは、一座の中で最も実力のある俳優や、ある分野で大きな権力を持ち、重要な立場にある人物のことです。
大立者は、芝居の一座で中心となる最もすぐれた俳優の意味から転じ、「政界の大立者」など芝居以外でも重要な人物を指すようになりました。
もともと大立者は歌舞伎用語で、一座の中心人物や幹部役者を「立者」と言い、それに最高位を表す「大」が付いて「大立者」となりました。
歌舞伎の世界で中心人物が「立者」と呼ばれた由来は、「中心となるもの」を意味する接頭語「立て」に「者」が付いたと考えられます。
4.大御所(おおごしょ)
「大御所」とは、ある分野で第一人者として権持っているいる人のことです。
御所は天皇・上皇・三后・皇子などの住まいを意味し、大御所は「親王の隠居所」を意味していました。
のちに、隠居した将軍や将軍の隠居所も「大御所」と言うようになり、江戸時代には、徳川家康・家斉のことを指しました。
現在のように、第一人者の意味で「大御所」が使われるようになったのは、昭和に入ってからです。
一般には「大御所」は、芸人や声優などの中でもベテランの大物芸能人などに対して使われる言葉です。 若い頃から人気の高かった芸人や、多くの作品で主役を張ってきた俳優など、大ベテランと呼ばれるような人に対して「大御所」と表現します。
5.お茶を濁す(おちゃをにごす)
「お茶を濁す」とは、いいかげんなその場しのぎで、適当にごまかしたり、取り繕うことです。
お茶を濁すは、茶道の作法をよく知らない者が程よく茶を濁らせ、それらしい抹茶に見えるよう取り繕うことから生まれた言葉です。
昔は抹茶が主流でしたが、茶道に詳しくない人が、濁ったお茶を淹れて、それを抹茶に見せかけたことがあったのです。
出されたお茶の濁り具合を話題にして、その場しのぎで話を逸らすところから「お茶を濁す」と言うようになったとする説もありますが、後から考えられた俗説です。
6.おじゃん
「おじゃん」とは、物事が途中で駄目になることで、「計画がおじゃんになる」などと使われます。
おじゃんの語源は、江戸時代に使われていた、物事が途中で駄目になる意味の動詞「じゃみる」で、その連用名詞形「じゃみ」に接頭語「お」が付き、「おじゃん」になったと言われています。
なお、おじゃんの語源でよく言われるのは、半鐘の説です。
江戸時代、火事が発生した際に半鐘を連打し、鎮火した際は「ジャンジャン」と半鐘を二度鳴らして火事が終わった合図としていました。
そのため、半鐘の「ジャン」という音と「おしまい」の意味から、おじゃんになったというものです。
この説の「おしまい」の意味から、という点は理解できますが、半鐘は火事が終わったという良い意味の合図で、途中で物事が駄目になる「おじゃん」とは正反対の意味となるため矛盾しています。