日本語の面白い語源・由来(か-④)蛙・葛藤・蟹文字・姓・鸊鷉・華氏・要

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蛙

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.蛙(かえる/かわず)

考えるカエル

カエル」とは、無尾目の両生類の総称で、頭は三角形で、目は上に飛び出しています。昆虫やミミズを舌で捕らえて食べます。幼生はおたまじゃくしです。

カエルの語源には、元のところへ必ず「帰る(かえる)」ところからや、卵から「孵る(かえる)」の意味冬に姿を消しても春になると現れるので「蘇る(よみがえる)」の意味鳴き声の「カヒルカヒル」などの説があります。

どの説も考えられますが、徘徊しても必ず帰巣するカエルの習性から、最初の「帰る」に由来する説が最も有力と見られています。

漢字の「蛙」に「虫」が付くのは、元々「虫」の漢字が昆虫ではなく、ヘビなどの爬虫類やそれに類する生物を表したためです。

これについては「蛸や蛤は虫でないのになぜ虫偏なのか?虫偏の漢字にまつわる面白い話」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。

「蛙」の「圭」には、三角形のカエルを表した象形説と、カエルの鳴き声を表した擬声語説があります。

「蛙」の異体字「鼃」が、全体でカエルの姿を表しているとすれば、「圭」も象形文字となりますが、「鼃」の上部「圭」はカエルの鳴き声を表した文字との見方もあり、「圭」については定かではありません。

殿様蛙や赤蛙、土蛙などは「かわず」として一纏めで春の季語ですが、青蛙、雨蛙、牛蛙、夏蛙、蟇(ひきがえる)などはそれぞれ独立して夏の季語です。

やはり蛙としては夏が本番なのでしょう。「秋の蛙(あきのかわず)」「蛙穴に入る(かわずあなにいる)」という季語もありますが、冬眠するのでさすがに「冬の蛙」という季語はありません。

蛙関連の季語で面白いのは「蛙の目借(り)時(かわずのめかりどき)」という季語です。本当は「蛙の狩り」でメスの蛙を求める時に鳴く姿なのですが、暖かくなり眠くなる時期にあたるので、いつの間にか「蛙に目を借りられて眠くなる時期」となったそうです。

「蛙」は俳句や和歌では「かわず」と読む場合もありますが、昔(奈良時代)の和歌においての「かはづ(蝦)」は、美しい声で鳴く「カジカガエル」のことでした

「かはづ(蝦)」(かわず)は、日本最古の歌集である「万葉集」にも登場(*)します。しかし平安初期ごろからカエル一般を指すようになったとされています。

(*)万葉集には「かはづ」を詠んだ和歌が20首あります。その一部をご紹介します。

・今日もかも 明日香(あすか)の川の 夕さらず かはづ鳴く瀬の さやけくあるらむ

・家人(いへびと)に 恋過ぎめやも かはづ鳴く 泉の里に 年の経(へ)ぬれば

・かはづ鳴く 清き川原(かはら)を 今日(けふ)見ては いつか越え来て 見つつ偲(しの)はむ

・思(おも)ほえず 来ましし君を 佐保川(さほがは)の かはづ聞かせず 帰(かへ)しつるかも

・佐保川(さほがわ)の 清き川原に 鳴く千鳥 かはづと二つ 忘れかねつも

梅雨の季節は「ホタル鑑賞」の絶好の機会でもありますが、「カジカガエル」の美しい鳴き声を聞くこともできます。暗闇に点滅すrホタルの光を見ながら、「カジカガエル」の声を聞くとなぜか心が洗われるような、幽玄の世界にいざなわれるような気がします。

カジカガエル 癒される鳴き声(奈良県 黒滝村)Song of Kajika Frogs

2.葛藤(かっとう)

葛・かずら藤

葛藤」とは、双方が互いに譲らず対立し、いがみ合うことです。心の中で相反する欲求・動機・感情が存在し、どちらをとるか迷う状態です。仏語で、正道を妨げる煩悩のたとえです。

葛藤の「」は、植物の「葛(カズラ)」のことで、蔓草(つるくさ)の総称です。
」は、マメ科の蔓性落葉低木「藤(フジ)」のことです。

葛や藤の蔓がもつれ絡むところから、物事がもつれて解決が付かないことや、心の中の相反する欲求のいずれをとるか迷うことを「葛藤」と言うようになりました。

また仏教では、葛や藤が樹木にまとわりついて枯らしてしまうことにたとえ、正道の理解を妨げ、修行の邪魔になる煩悩の意味で「葛藤」が用いられています。

3.蟹文字(かにもじ)

蟹文字

蟹文字」とは、欧文、特に英文をさしていう語です。「横文字」のことです。

蟹文字は、カニが横に這うように書く文字であることに由来し、「蟹行文字(かいこうもじ)」とも呼ばれました。

外国語を多く目にするようになった明治初期に使われた語です。

4.姓(かばね)

姓・かばね

かばね」とは、古代豪族が氏の下に付けて政治的・社会的地位を示した称号のことです。臣(おみ)・連(むらじ)・造(みやつこ)・君(きみ)・直(あたい)・史(ふびと)・県主(あがたぬし)・村主(すぐり)など数十種類あります。

かばねの語源には、「株根(かぶね)」や「株名(かぶな)」があり、「血統」の意味からと思われますが未詳です。

新羅で導入されていた社会制度で、氏族の序列をつける「骨品制」があることから、「死体」や「死体の骨」の意味の「屍(かばね)」を語源とする説もあります。

漢字の「姓」は、「女」と「生」で生まれた血筋を表しています。

5.鸊鷉/鳰(かいつぶり)

カイツブリ

カイツブリ」とは、カイツブリ科の水鳥です。夏羽は頭と背が黒褐色、頬・喉・首は栗色で、冬羽は灰褐色です。湖や沼に棲みます。

カイツブリの語源には、以下のように多くの説があります。

水を掻いたり水に潜ったりの意味で「掻きつ潜り(カキツムグリ)」が転じたとする説
水を掻いてひょっこり頭を出すことから、「掻き頭潜り(カキツムグリ)」が転じたとする説
カイツブリの頭が円くて貝に似ていることから、カイは「貝」、ツブリは「頭(つむり)」とする説
カイが「たちまち」の意味で、ツブリが水に没する音の「ツブリ」の意味とする説

カイツブリは潜水が得意な鳥なので、カイは「掻き」、ツブリは頭の「つむり」や「頭潜り」、水音の「ツブリ」あたりが妥当で、別名に「ムグリ(潜り)」もあることから「掻きつ潜り」の説も考えられます。

漢字の「鸊鷉」は、音読で「へきてい」とも読みます。

「かいつぶり」は冬の季語で、次のような俳句があります。

・かくれけり 師走の海の かいつぶり(松尾芭蕉

・湖や 渺々として 鳰(にお)一つ(正岡子規

・かいつぶり さびしくなれば くゞりけり(日野草城

6.華氏(かし)

華氏

華氏」とは、「華氏温度」の略語で、一気圧で水の凝固点を32度、沸点を212度とする温度目盛りです。アメリカやカナダで普通に用います。記号°F。

ちなみに日本では「摂氏(せっし)」を採用しています。摂氏とは、「摂氏温度」の略語で、一気圧で水の凝固点を零度、沸点を100度とし、その間を100等分して定めた温度目盛りです。記号℃。

華氏の「」は人名の頭文字です。
華氏温度は、1724年にドイツの物理学者ファーレンハイトが考案したもので、「ファーレンハイト度」と呼ばれます。
ファーレンハイトの中国音訳「華倫海」から、「華氏(温度)」となりました
カタカナでは、「カ氏(温度)」と表記します。

7.要(かなめ)

要・扇子の部分名称

」とは、「最も大切な部分、要点のこと」です。

「かなめ」は扇の骨を閉じるための穴があいた「くぎ(釘)」(金具)です、

かなめの漢字「要」は当て字で、元々は、扇の末端にある骨を留めるための金具を指しました。
この金具は、蟹(かに)の目のようであるところから、「かにのめ」と呼ばれ、「かのめ」「かなめ」と変化しました。

「かにのめ(かのめ)」が「かなめ」に変化したのは、金具なので「金目」という意味解釈が加わったと考えられます。

かなめ(金具)が無いと扇がバラバラになるため、かなめは「物事をまとめる中心」「要点」を意味するようになりました。