日本語の面白い語源・由来(わ-③)山葵・割り下・割れ鍋に綴じ蓋・若いツバメ・脇役・腕白・わくわく

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山葵

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.山葵(わさび)

山葵

わさび」とは、「日本特産で渓流のほとりに生えるアブラナ科の多年草」です。根茎は特有の香気と辛味があり、香辛料として用いられます。

わさびの語源は、「悪障疼(わるさわりひびく)」の略、「悪舌響(わるしたひびき)」の意味、「鼻迫(はなせめ)」の意味が転じたとするなど、わさびの特長である「鼻につんとくる辛さ」を語源としていますが、いずれもこじつけの感が強いものです。

その他、わさびの「わさ」は鼻に走る辛さを表現したもので、「走る」を意味する古語「わしる」と関連づけ、わさびの「び」を「実(み)」の転といった説があり、他の説よりは自然です。

辛さに関連づけない説では、「早葵(わさあふひ)」の転とする説があり、わさびの葉が葵に似ているからといわれますが、「わさ」の説明が成り立っていません。

また、「山葵」の漢字が見られるのは、平安時代の本草書『本草和名』からで、奈良時代の地誌『播磨国風土記』では「山薑」と書いて「わさび」と読ませており、「葵」を語源とすると時代が前後してしまいます。

そのため、わさびの漢字に「山葵」を当てた由来としては、葵の葉に似ていることが考えられますが、「わさび」という音に「葵」を関連づけることは困難です。

「山葵」は春の季語で、次のような俳句があります。

・おもしろうて わさびに咽(むせ)ぶ 泪(なみだ)かな(黒柳召波)

・雪いくたび 降りし山葵ぞ 抜かれたる(渡辺水巴)

・沢水は 春も澄みつつ 山葵生ふ(松本たかし)

・山葵の芽 砂に暦日 ありやなしや(川端茅舎)

2.割り下/割下(わりした)

割り下

割り下」とは、「だし汁に醤油・みりん・砂糖・酒などの調味料を加え煮立てた汁」です。主にすき焼きのタレのことを言います。

割り下は、「割り下地」の略です。
「下地」は基礎となるものを意味し、料理用語としては味付けの元となるもので、特に醤油を指す語です。
「割り」はそのまま「割る」という意味で、みりんなど他の調味料やだし汁で割った下地(醤油)なので「割り下地」といいます。

割り下は、すき焼きに用いるものを指すことが多いですが、他には柳川鍋・牛鍋・鶏鍋などの鍋物や、親子丼などの丼に使われる汁についても言います。

上記の料理を見て分かるとおり、割り下は比較的味の濃いものに使う言葉です。

淡白な味の魚すきや寄せ鍋などの汁は、一般的に「つゆ」や「だし」と呼びます。

3.割れ鍋に綴じ蓋(われなべにとじぶた)

割れ鍋に綴じ蓋

割れ鍋に綴じ蓋」とは、「どんな人にもぴったり合う相手があること。似たもの同士がよいことのたとえ」です。江戸いろはかるたのひとつ。「破れ鍋に綴じ蓋」とも書きます。

割れ鍋に綴じ蓋の「割れ鍋(破れ鍋)」とは、割れて壊れた鍋のこと。
「綴じ蓋」の「綴じ」は縫い合わせるの意味で、「綴じ蓋」は繕って修繕した蓋のこと。

割れて壊れた鍋にも、うまく合う修繕した蓋があるという意味から、割れ鍋に綴じ蓋は、誰にでもぴったり合う相手がいることや、似たもの同士が一緒になればうまくいくことのたとえとなりました。

修繕の意味の「綴じる」で成立する言葉なので、「綴じ蓋」を「閉じ蓋」と書くのは間違いです。

4.若いツバメ/若い燕(わかいつばめ)

若いツバメ

若いツバメ」とは、「年上の女性の愛人となっている若い男をいう俗語」です。

若いツバメは、明治時代の婦人運動・女性解放運動の先駆者 平塚雷鳥と、年下の青年画家 奥村博史の恋に由来します。

平塚が年下の男と恋に落ちたことで、平塚を慕う人々の間で大騒ぎとなり、奥村は身を引くことにしました。

その時、奥村から平塚に宛てた手紙の中で、「若い燕は池の平和のために飛び去っていく」と書いたことから流行語となり、女性から見て年下の愛人を「若いツバメ」いうようになりました。

5.脇役(わきやく)

脇役

脇役」とは、「映画・ドラマ・演劇などで主役を引き立て、物語の展開に必要な役割をつとめる役。物事の補佐的な役割」のことです。

脇役は、能楽から生まれた言葉です。
能では、主役のことを「シテ(仕手)」と呼びます。
その「シテ」の特性を引き出す相手を演じる役を「ワキ(脇)」と呼んだことから、主役を引き立てる役を「脇役」と呼ぶようになりました。

能楽では、普通「ワキ」とカタカナ表記されます。「ワキ」は原則として面をつけず、現実の男性の役を演じます。

6.腕白(わんぱく)

腕白

腕白」とは、「活発に動き回るさま。わがままを言ったり、いたずらや悪さをすること。また、そのような子供」です。

漢字の「腕白」は当て字です。

わんぱくの語源は諸説ありますが、次の二説が有力とされています。

ひとつは、江戸末期の国語辞典『俚言集覧』に「関白の訛音と云へり」とあり、権力者を意味する「関白」が変化し、「腕白」になったとする説。

もうひとつは、昭和初期の国語辞典『大言海』の説で、「不正」や「無道」を意味する漢語「枉惑(わうわく)」が「わやく」や「わわく」と訛り、「わんぱく」になったとする説。
江戸後期の風俗百科事典『嬉遊笑覧』には、「小児の頑要(わるさ)するわんぱくとは、わやくの転り(うつり)たることと聞ゆ」とあります。

どちらか一方の説が正しいということではなく、「関白」と「枉惑」の混交により、「腕白」になった可能性もあると考えられています。

7.わくわく/ワクワク

ワクワク

わくわく」とは、「期待や喜びで心が落ち着かないさま」です。

わくわくは、水などが地中から出てくるさまや、物事が急に現れるさまを意味する「湧く(わく)」から生まれた言葉と考えられます。

「湧く」と同源の「沸く」は、「勝利に沸く」など感情が高ぶる意味で使われ、心の中から外へ激しく現れる感情やその様子を「わくわく」と表現したものです。

江戸時代には「わくつく」という語があり、「わくわくする」の意味で使われていました。

中国の東(東シナ海)には「ワクワク島」という島があり、その位置から日本という説もあります。

中国や朝鮮では日本を「倭(わ)」と呼んでおり、「倭国(わこく)」が「わくわく」の語源とも言われます。

「ワクワク島」が「倭国」に由来することは考えられるが、他国からの呼び名が、喜びで心が落ち着かないさまを意味する「わくわく」の語源であるとは到底考えられません。

その「ワクワク島」には、「ワクワクの木」という樹木のアラビア伝説があります。
ワクワクの木とは、春になるとヤシやいちじくの実に似た果実がなり、その実から若い娘の足が生え、初夏になると可愛らしい女の子が髪の毛で枝からぶら下がり、熟し切ると「ワクワク」と悲しげな叫び声をあげながら枝から落ちて死んでしまうというものです。