日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.為替(かわせ)
「為替」とは、手形や小切手などで金銭を決済する方法、またその手形などの総称です。遠隔地に直接現金を送付する際のリスクを避けるために行われます。
為替は、現金と手形を交替させることから、動詞「かわす(交わす)」の連用形が名詞化された語です。
中世には「かわし(かはし)」と言い、江戸時代に「かはせ(かわせ)」と言うようになりました。
漢字の「為替」は当て字ですが、「かえる(替える)」と「する(為る)」で、文字通り「替えることを行う」意味です。
為替の起源は、鎌倉時代、遠隔地の年貢を取り立てる商人が代行した「かはし(為替)」や「かへせん(替銭)」にあり、銭以外に米などもその対象でした。
現在用いられる為替手形の起源は、江戸時代、商品経済の発展に伴ない、大坂(大阪)を中心に取引が行われるようになったものです。
2.鞄(かばん)
「かばん」とは、革やズックなどで作った、物を入れる携帯用具。バッグのことです。
かばんは外来語に由来する言葉と思われますが語源は諸説あり、中国語で「文挟み(ふみばさみ)」を意味する「夾板」を日本語読みした「キャバン」が転じたとする説。
同じく中国語で、「お櫃(おひつ)」を意味する「夾槾」を日本語読みした「キャバン・キャマン」が転じたとする説。
その他、オランダ語の「kabas(カバス)」が転じたとする説があります。
「夾板(キャバン)」が転じた説が有力とされていますが、「かばん」に変化する過程の文献が見当たらないため、正確な語源は未詳です。
明治10年代頃までは、主に「胴乱(どうらん)」が「かばん」の意味で使われていました。
漢字の「鞄(ほう)」は、本来、なめし皮、また、それを作る職人を意味する文字で、「かばん」の漢字として「鞄」が当てられたのは、明治22年の国語辞書「言海」です。
それ以前は、「革手提」「革袋」「革包」が、「かばん」の当て字として使われていました。
余談ですが、「かばん屋がカバンの将来性不安からミニマルホテルを開業した逆転の発想」という面白い記事も書いていますので、ぜひご覧ください。
3.懐石料理(かいせきりょうり)
「懐石料理」とは、本来は茶席で、茶の前に出す簡単な料理のことです。
懐石料理の「懐石」は、禅宗の僧が一時的に空腹をしのぐために懐へ入れていた「温石(おんじゃく)」のことです。
温石とは、蛇紋岩や軽石などを火で焼き、布に包んだものです。
懐石が空腹をしのぐものであったことから、簡単な料理・質素な食事を意味するようになり、茶道では献立・食作法・食器などにも一定の決まりが定められるようになりました。
「懐石」のみで「料理」の意味が含まれているため、「頭痛が痛い」「車に乗車する」などと同じく、「料理」を加えることは重言ですが、同じ発音の「会席料理」の影響により、現在では「懐石料理」が一般的に用いられています。
また、懐石は一汁三菜が一般的ですが、茶席に関係なく料理店でも供されるようになり、品数も増し趣向も凝らされるようになりました。
余談ですが、私がよく行く懐石料理の店は京都の美濃吉本店「竹茂楼(たけしげろう)」です。私が常連の店については「私の馴染みの美味しい店をご紹介。ささやかな私の美味礼賛!」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
4.ガセ
「ガセ」とは、偽物、まやかし物、嘘のことです。
ガセは、元々テキ屋の「隠語」として使われていた言葉で、1915年の『隠語輯覧』に見られます。
ガセの語源は「お騒がせ」の「がせ」で、本物ではないのに人騒がせな物ということから、「偽物」の意味となりました。
でたらめな情報を意味する「ガセネタ(がせねた)」は、1929年の隠語の集成『香具師奥義書』に見られ、「ガセ」と同じく古くはテキ屋の隠語でした。
1990年代後半には、パットなどで大きく見せた胸の意味で「ガセぱい(「ぱい」は「おっぱいの略」)」が若者用語として使われるなど、「ガセ◯◯」と合成語を作って用いることも多いようです。
5.牡蠣(かき)
「牡蠣」とは、イタボガキ科の二枚貝の総称で、海中の岩などに付着します。栄養が豊富で「海のミルク」と言われます。
牡蠣の語源には、掻き落として取ることから「かき」になったとする説。
殻を欠き砕いて取ることから、「かき」になったとする説。
「掻貝(かきかい)」の意味など、牡蠣の殻を取るための動作に由来する説が多く、語源は殻に由来すると考えて良いようです。
その他、「か」は「貝」、「き」は「着」の意味からとする説もありますが、説得力に乏しいものです。
漢字の「牡蠣」は、「蠣」の一字で「かき」を意味します。
しかし、中国ではカキが全てオスと考えられていたため、「牡」の字が付けられ、「牡蠣」になったと言われます。
これは、牡蠣が同一固体に雌雄性が交替に現れる卵生か卵胎生の雌雄同体で、外見上の生殖腺が同じであるため、全てオスに見えたものと考えられます。
「牡蠣」は冬の季語で、次のような俳句があります。
・牡蠣よりは 海苔をば老の 売りもせで(松尾芭蕉)
・妹がりや 荒れし垣根の 蠣の殻(正岡子規)
・牡蠣の口 もし開かば月 さし入らむ(加藤楸邨)
余談ですが、お馴染みのキャラメル菓子の「グリコ」は、水あめや砂糖などの原料に牡蠣エキスを投入してキャラメルを作っています。
実は「江崎グリコ」という社名は、牡蠣の栄養素である“グリコーゲン”が由来です。グリコーゲンには体を動かすエネルギー源が含まれているため、「グリコ」のキャッチフレーズである“ひとつぶ300メートル”が生まれたのだそうです。