日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.狂言(きょうげん)
「狂言」とは、室町時代に成立した日本の伝統芸能の一つで、猿楽の滑稽な物真似とせりふ劇の要素を持つものです。「能狂言」とも言います。人を騙すために仕組むたくらみや嘘のことも意味します。
狂言は、本来「道理に外れた言動」を表す漢語で、日本では奈良時代から用いられていました。
中世になると「滑稽な言動」や「冗談」の意味でも用いられ、同じ頃に発展した滑稽な劇も「狂言」と呼ばれるようになりました。
近世には「芝居」も意味するようになり、「狂言強盗」のように「人をだます」といった意味も表すようになりました。
狂言の流派には、「大蔵流」「和泉流」があります。野村萬斎さんや和泉元彌さんが有名ですが、野村萬斎さんの方が本流の「和泉流」です。
現在「和泉流」は、名古屋を本拠とする野村又三郞家(いわゆる野村派)と狂言共同社(いわゆる名古屋派)、そして東京を本拠とする野村萬藏家・野村万作家・三宅右近家(いわゆる三宅派)の3派に大別され、台本もそれぞれ異なっています。
過去に「和泉流」から人間国宝に認定されたのは六世野村萬藏、九世三宅藤九郞、七世野村萬藏(野村萬)、二世野村万作の4名で、野村萬は2008年には文化功労者に選ばれています。
2.脚本(きゃくほん)
「脚本」とは、演劇や映画などの舞台装置・セリフ・演出などを記したものです。映画やドラマ・アニメではシナリオとも言います。「台本」とも言います。
脚本は中国の演劇界で使われていた用語の借用で、「脚本」や「脚色」に「脚」が使われているのは、「脚」の字に全体を支える「根本」の意味があるからと考えられています。
江戸時代の浄瑠璃や歌舞伎では、脚本を「正本(しょうほん)」や「根本(ねほん)」と呼んでおり、「脚本」の語が用いられたのは明治時代からです。
「台本」は「脚本」よりも、さらに新しい言い方です。
3.脚色(きゃくしょく)
「脚色」とは、小説や事件などを芝居や映画で上演できるよう、セリフなどを加え脚本にすることや、事実を面白くするため色付けすることです。
脚色の「脚」は「根本」の意味で、「色」は表に現れることです。
古代中国で「脚色」は、その人物の出処が現れたものの意味から、官(役人)になる時に提出する履歴書や身分証明書をいいました。
のちに、中国の演劇界で、俳優の役柄や筋書きを「脚色」というようになり、日本では明治から使われるようになりました。
事実に色付けして面白くすることを「脚色」と言うようになったのは、脚本にすることの意味からと、「色」からの連想が合わさったものです。
4.切り盛り(きりもり)
「切り盛り」とは、物事をうまく捌(さば)くことです。
切り盛りの本来の意味は切って盛ることで、食べ物を切って器にうまく盛り付けることをいいました。
転じて、料理に限らず、家計や店の経営など物事をうまくさばくことも、「切り盛り」と言うようになりました。
食べ物を切って盛り付ける意味で「切り盛り」が使われたのは平安時代から、物事をうまくさばく意味では江戸時代からです。
5.階(きざはし)
「きざはし」とは、階段・段々のことです。
きざはしの「きざ」は「きざ(刻)」の意味です。
「はし」は「はしご」や「橋」の「はし」と同じく、かけ離れたところに渡すものを表す「はし(階)」です。
きざはしは「きだはし」とも言うことから、長さや面積の単位「きだ(段)」を語源とする説もありますが、「きざはし」が訛って「きだはし」になったと考えるのが妥当です。
漢字の「階」を「かい」と読むのは漢音で、呉音では「け」といいます。
この漢字は、「土盛り」を表す「阜(こざと偏)」に、「きちんと揃う」という意味の「皆」が付いた会意兼形声文字で、段がきちんと揃っていることを表します。
6.脚立(きゃたつ)
「脚立」とは、二台のはしごを両側から八の字に合わせ、上に板を載せた形の踏み台のことです。
「きゃたつ」は、中国語「脚榻子(ターツ)」を唐音読みした語です。「榻」の字は、体を乗せる長い椅子や寝台などを表します。
現在の「きゃたつ」の漢字表記は「脚立」が一般的ですが、かつては「脚榻」とも表記されました。
「脚立」の表記は、「きゃたつ」という音と使用する際の状態から作られた当て字です。
7.漁夫の利(ぎょふのり)
「漁夫の利」とは、二者が争っている隙に、第三者が利益を横取りするたとえです。
漁夫の利は、中国の戦国時代の史書『戦国策(燕策)』の故事に由来します。
その故事は、以下のとおりです。
趙の国が燕の国を攻撃しようとしている時、燕の蘇代が趙の恵文王に会い、次のような話をしました。
ハマグリが殻を開けて日向ぼっこをしていたところ、シギが飛んできてハマグリの肉を食べようとしたが、ハマグリは殻を閉じてシギのくちばしを挟んだ。両者が譲らない争いをしていたところに、たまたま通りかかった漁師が両者を難なく生け捕りにした。
そして、「いま趙と燕が争えば、このハマグリとシギのように秦が漁夫の利を得るだろう」と説いたことにより、趙は燕を攻めることを中止したのです。