日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.麒麟/キリン(きりん)
「キリン」とは、キリン科の哺乳類です。首と脚がきわめて長く、頭頂に角を持ちます。栗色・黄褐色で、網目状の斑紋があります。
キリンは、もともと古代中国の伝説上の動物「麒麟」のことを指しました。
顔は竜に似て、鹿の身体に鱗があり、尾は牛、ひづめは馬、角が一本生えているというものです。
中国では聖人が出て良い政治を行うと、麒麟が現れるとされていました。明智光秀を主人公にした2020年NHK大河ドラマ『麒麟がくる』にも、この話が何回となく出て来ましたね。
麒麟の漢字を分けると、「麒」は「雄」、「麟」は「雌」を指しているといわれます。
実在する哺乳類のキリンは、英語名で「ジラフ(giraffe)」と言います。
日本にキリン(ジラフ)が伝わった際、「ジラフ」の呼称も入ってきましたが、初めて見る奇妙な動物に驚き、ジラフに想像上の動物である「麒麟」の名が当てはめられたため、日本では「キリン」と呼ばれるようになりました。
2.麒麟児(きりんじ)
「麒麟児」とは、優れた才能を持ち、将来大物になると期待される少年、神童のことです。
麒麟児は、文字通り「麒麟の子(児)」です。
ただし、ここでの麒麟は中国の伝説上の動物でのことで、首の長い哺乳類のキリンのことではありません。
古く中国では、聖人が出て国が治まると麒麟が現れるという言い伝えがありました。
言い換えれば、麒麟は聖人に値し、麒麟の子は聖人の幼少期です。
そのようなことから、幼い頃から天才的な才知・技芸を発揮し、将来が有望とされる少年を「麒麟児」と持て囃すようになりました。
余談ですが、かつて麒麟児(1953年~2021年)(上の写真)という大相撲力士がいました。得意技は突っ張りで最高位は東関脇でしたが、横綱北の湖や横綱若乃花(2代目)などとともに「花のニッパチ組」(昭和28年生まれ)と呼ばれました。
3.疑心暗鬼(ぎしんあんき)
「疑心暗鬼」とは、疑いの心があると、何でもないものまで恐れたり、怪しく見えることです。
疑心暗鬼の「疑心」は、仏教から出た言葉で、「六根本煩悩」のひとつとされ、仏教の真理に対して疑いの心を持つことを意味しました。
疑心暗鬼の「暗鬼」は、暗闇の中に鬼を見るという意味です。
この二つが合わさった「疑心暗鬼」は、暗闇というだけで疑い、鬼がいるかのように見えるとたとえたものである。
古代中国の思想書『列子』の中で、ある男が鉞(まさかり)を失くした話の注釈に、疑心暗鬼を用いたたとえが見られます。
その話とは、ある男が鉞を失くした際、隣の息子を怪しいと思うようになり、息子の言動全てが疑わしく感じるようになりました。
ところがある日、近くの谷底で失くした鉞を発見し、自分が置き忘れたことに気づいたため、それ以降、隣の息子の言動を怪しく思うことは無くなったというものです。
この話に対し、「これが疑心、暗鬼を生ずというものだ」とたとえられました。
その後「疑心暗鬼を生ず」が略され、「疑心暗鬼」という四字熟語の形で用いられるようになりました。
4.煙管(きせる)
「キセル」とは、刻みタバコを吸う道具のことです。「キセル乗車」のことも指します。
キセルは、「管」を意味するカンボジア語「khsier」に由来し、漢字で「煙管」と書くのは当て字です。
キセルの起源は、15世紀にヨーロッパから東アジアへ鉄砲が伝来した頃、ポルトガル人が使っていたパイプを真似て作られたといわれますが、正確な起源は未詳です。
5.キセル乗車(きせるじょうしゃ)
「キセル乗車」とは、乗降駅付近の乗車券や定期券を使い、中間を無賃乗車する不正行為のことです。不正乗車。
キセル乗車は、喫煙具の「キセル(煙管)」の作りを洒落た言葉です。
キセルは火皿のついた「雁首」と吸い口の両端部分だけ「金(金属)」が使われ、途中は竹で出来ており、素通しになっています。
その作りと乗車区間の両端だけ「金(運賃)」を払うことを掛け、「キセル」や「キセル乗車」と言うようになりました。
元は学生の隠語でしたが、明治以降、一般でも広く使われるようになりました。
6.義理(ぎり)
「義理」とは、物事の正しい道筋。対人関係や社会関係で、守るべき道理。社交上やむを得ずしなければならないことです。
本来、義理は「物事の意味や道理」や「正義の道理」を意味していた言葉です。
「義理堅い」などと使われる場合の「義理」の意味は、儒教(とくに朱子学)の「義」からきたもので、一般には広まったのは近世以後と考えられています。
7.如月(きさらぎ)
「如月」とは、旧暦2月の異称です。「更衣」「衣更着」とも書きます。
如月は、寒さで着物を更に重ねて着ることから、「着更着(きさらぎ)」とする説が有力とされています。
その他、気候が陽気になる季節で「気更来(きさらぎ)」「息更来(きさらぎ)」とする説。
草木が生えはじめる月で「生更木(きさらぎ)」とする説。
草木の芽が張り出す月で「草木張り月(くさきはりづき)」が転じたとする説があります。
漢字の「如月」は、中国最古の字書『爾雅』に「二月を如となす」とあり、中国の2月の異名に由来すると考えられています。
なお、「月の異称」については、「和風月名と二十四節気についてご紹介します。令月は2月の異称です」「和風月名以外の月の異称をご紹介します。」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。