日本語の面白い語源・由来(く-①)黒百合・熊・鯨・暮れなずむ・桑・企てる・葛

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黒百合

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.黒百合/クロユリ(くろゆり)

黒百合

クロユリ」とは、北海道から中部地方の高山に生えるユリ科バイモ属の多年草です。夏、茎の先に鐘状の花が一つ下向きに開きます。

クロユリは、黒っぽいユリの形をした花を咲かせることからの名です。
はっきりとした黒色ではなく、実際の花の色は暗赤褐色~暗紫色です。

また、ユリ科ではありますがユリ属ではなくバイモ属なので、ユリの一種というわけでもありません。

高い山や高原に咲く黒百合は、山歩きをする人は馴染みがあるかもしれません。清楚で神聖なイメージの白い百合に比べると、色も黒いしうつむき加減で咲いていています。

黒百合の花言葉は「恋」「愛」「呪い」「復讐」ですなんだか極端すぎるところが、面白い花です。赤や黄色の鮮やかな普通の花に比べて、何となく陰のある情念を感じさせるような花ですね。

そう言えば、織井茂子の110万枚のヒット曲「黒百合の歌」(作詞:菊田一夫、作曲:古関裕而、1953年)や、水原弘の100万枚のヒット曲「黒い花びら」(作詞:永六輔、作曲:中村八大、1959年)という流行歌がありましたね。

「百合の花」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・百合の花 折られぬ先 にうつむきぬ(宝井其角

・飴売の 箱にさいたや 百合の花(服部嵐雪)

・ひだるさを うなづきあひぬ 百合の花(各務支考)

2.熊(くま)

熊

」とは、クマ科に属する哺乳類の総称です。全般にはよく肥え、頑丈。日本にはヒグマとツキノワグマの二種が棲んでいます。また、「劇場で立ち見する観客」のことも「熊」と言います。

本州ではツキノワグが市街地に出没して住民にけがを負わせるニュースがよくあります。北海道のヒグマについては、2022年4月にヒグマを見るための知床半島遊覧船「KAZU1」が沈没し、乗員・乗客合わせて26人全員が死亡・行方不明になる痛ましい事故がありました。

熊の語源には、①穴居することから「クマシシ(隈獣)」「クマ(隈)」の意味暗くて黒い物を「隈(くま)」と言うことから「黒い獣」の意味など、物陰になっている暗がりを表す「隈」に由来する説

穴に籠って暮らしていることから、「こも(籠)」が転じて「クマ」になった説
熊の鳴き声が「クマッ・クマッ」と聞こえることから、鳴き声に由来する説
人に取り付いて組むことから、「クム(組)」が転じて「クマ」になった説
神の古語「クマ」に由来する説など、多くの説があります。
有力視されているのは「隈」と「鳴き声」の説ですが、鳴き声は近寄らなければ分からず、名前になるほど日常的に熊に近寄っていたか疑問です。

劇場で立ち見する人のことも「熊」といいます。
これは、立ち見席の前に鉄柵が設けられており、その鉄柵に寄る姿が檻の中の熊に似ていることに由来します。

「熊」は冬の季語で、次のような俳句があります。

・冱は来ぬ 熊は掌をなめ もの謂はず(前田普羅)

・林道を 熊に聞かせむ 音たてて(堀義志郎)

・口開けて 雪を喜ぶ 園の熊(村瀬初実)

3.鯨/クジラ(くじら)

鯨

クジラ」とは、クジラ目の哺乳類のうち大型の種類の総称です。一般に小形種をイルカと呼びますが明確な区別はありません。

歴史的仮名遣いには「クヂラ」と「クジラ」があり、どちらが先か分かっていないため、クジラの語源には多くの説があります。

元々「クジラ」であった場合は、背が黒く腹は白いことから、「クラシラ(黒白)」が転じたとする説が有力です。
原形が「クヂラ」であった場合は、「クチ(口)」+「ナ(魚)」の「クチナ」に由来する説で、「ナ」が「ラ」に変化することは多く、クジラを「クジナ」と呼ぶ地域もあることから有力です。

その他、「ク」が「大」を意味する古韓語、「シシ」は「獣」、「ラ」は接尾語で、「クシシラ(大獣)」の約とする説
ヒゲクジラ類に見られる鯨鬚(くじらひげ)が、巨大な櫛のように見えることから、「クシナ(櫛魚)」の変化とする説
クジラは口が大きいので、「クチビロ(口広)」の約転とする説などがあります。

漢字の「鯨」が魚偏なのは、古来、哺乳類ではなく魚の一種と思われていたからです。
旁(つくり)の「京」は、数の単位の「京(兆の1万倍、10の16乗)」で、計り知れない大きさを表したとも言われますが、「京」の漢字には「大きい」「高い」「丘」などの意味があり、「高丘のように巨大な魚」を表すために「京」が使われたとする説が妥当です。

鯨と言えば、大阪では鯨肉と水菜を用いた鍋料理の「はりはり鍋」が有名ですが、団塊世代の私は、小学校の給食に出た「鯨の竜田揚げ」を思い出します。

鯨の竜田揚げ

最近は「IWC(国際捕鯨委員会)」(日本は2019年に脱退)によって「商業捕鯨」が禁止され、「調査捕鯨」に限定されていたため、鯨肉はほとんど出回っていませんが、私が小学生の頃は日本は「捕鯨大国」で鯨肉が安価だったため、小学校の給食に使われたのでしょう。私はあまり好きではありませんでしたが・・・

「鯨」は冬の季語で、次のような俳句があります。

・暁や 鯨の吼ゆる 霜の海(久村暁台)

・凩に 鯨潮吹く 平戸かな(夏目漱石

・珍しき 高知の雪や 鯨鍋(西武比古)

4.暮れなずむ/暮れ泥む(くれなずむ)

暮れなずむ

暮れなずむ」とは、日が暮れそうで、なかなか暮れないでいることです。

暮れなずむの「なずむ(泥む)」は、物事がなかなか進行しないことを意味します。
そこから、日が暮れそうでいて、なかなか暮れない状態を「暮れなずむ」と言うようになりました。

日が暮れかかってから、すっかり暗くなるまでに時間がかかるのは、日足の長い春の日で、「暮れかぬる」など春の季語と意味が近く、『3年B組金八先生』の主題歌『贈る言葉』(海援隊)は、季節もぴったりの歌詞です。

この歌で、「暮れなずむ」という言葉を覚えた方も多いのではないでしょうか?

現代では、「暮れなずむ」以外は滅多に使われない「なずむ」ですが、『古事記』にも見られる古い言葉です。

もともと、「なずむ」は馬が前へ進もうとしても、障害があってなかなか進めないでいる状態を意味し、主に歩行の様子に用いられた言葉でした。

平安時代には心理的な停滞も表すようになり、「執着する」「思いを寄せる」といった意味も生じました。

また、「なじむ(馴染む)」と音が類似することから、幕末には「なずむ」が「慣れ親しむ」の意味でも使われていました。

5.桑(くわ)

桑の葉

」とは、クワ科クワ属の総称です。本来は落葉高木ですが、葉を蚕(カイコ)の飼料にするため、幹を切って低木に仕立てます。

童謡「赤とんぼ」(作詞:三木露風、作曲:山田耕筰)にも「桑の実」が出て来ますね。

桑の実

昔は養蚕業が盛んだったため、桑の木や桑の葉、桑の実も身近だったのでしょうが、今では私も含めてほとんどの人が見たこともないと思います。

桑の歴史的仮名は「クハ」です。
桑の語源には、「コハ(蚕葉)」の転「コクフハ(蚕食葉)」の意味「クフハ(食葉)」の約転「クハ(飼葉)」の意味など諸説ありますが、いずれの説も、蚕が食べる葉の意味に由来します。

これは、古来より日本の重要産業として養蚕が行われており、蚕の餌として桑が各地に植えられていたためです。

「桑」は春の季語で、次のような俳句があります。

・千曲川 心あてなる 桑のみち(鈴木花蓑)

・納屋の窓 やすみの牛に 桑の雨(長谷川素逝)

・桑畑や 女蓑着て 頬被り(高浜虚子

6.企てる

企てる

企てる」とは、もくろむ、計画を立てる、計画して実行しようとすることです。

企てるの古形は「クハタツ」で、平安中期の『源氏物語』にも見られる語です。
「クハタツ」の語構成は、「クハ」+「タツ」です。
クハ」は「くるぶしから先の部分」や「足の裏」を表し、「タツ」は「立つ」で、「クハタツ」は足を爪立てる(つま先で立つ)ことを意味する語でした。

つま先立ちすることは、遠くを見る、先を見通すなどの意味を含むことから、もくろむの意味が生じました。

「クハタツ」が「もくろむ」の意味で定着すると、「つま先で立つ」の意味は、やや遅れて現れた「爪立つ」に譲る形となりました。

企てるの語源には、田畑を耕す農具の「鍬」+「立つ」に由来する説もある。
田畑を開くためには、まず鍬を打ち始めるところから、もくろむ意味が生じたというものです。

しかし、古形の「クハタツ」が「爪先立つ」の意味で用いられた例はあるが、開墾の意味で用いられた例が見られないことから考えがたい説です。

企てるの由来と直接関係するものではありませんが、漢字の「企」も「爪先立つ」を意味します。

「企」は「人」と「止」を合わせた字で、「止」は「足」のこと。特に、つま先をいい、人がつま先立ちしている形を表しています。

背伸びして遠くを見ようとするところから、「企」は「くわだてる」の意味も表すようになりました。

漢字の「企」には、「爪先立つ」や「くわだてる」の意味のほか、「切望する」「待ち望む」といった意味もあります。

7.葛/クズ(くず)

葛の花

クズ」とは、マメ科のつる性の多年草です。根から葛粉や漢方薬が作られます。「秋の七草」のひとつです。

クズの語源は、現在の奈良県吉野川の川上にあった古代の地名「国栖(くず)」に由来し、国栖が産地であったからか、同地のものを改良したことからという説が有名ですが、特に根拠となるものはありません。

他には、「筋(すじ)」を意味する語に由来するという説もあります。

クズは古名を「クズカズラ(クズカヅラ)」、漢字の「葛」は訓読みで「かずら(かづら)」、葛根は「かずね(かづね)」とも呼ぶことから、クズは「カズ(カヅ)」と呼ばれていた可能性があります。

「カジ」「キジ」「クジ」など、「カズ」に近い音で「筋」を意味した方言が全国にあり、沖縄県の八重山では線条の意味から葛類を「クジ」と言うため、クズが筋の意味に由来する説は考えられます。

ただし、「かずら」はつる草の総称なので、クズを表す語に「カズ」が多いのは、つる性の植物であることからとも言え、特定は困難です。

その他、根を粉にして用いることから「屑」に由来する説スイカズラの上下略の転など多くの説があります。

「葛」は秋の季語で、次のような俳句があります。

・葛の葉の うらみ貎(がほ)なる 細雨(こさめ)かな(与謝蕪村

・相よりて 葛の雨きく 傘ふれし(杉田久女)

・吹き渡る 葛の嵐の 山幾重(松本たかし)