日本語の面白い語源・由来(こ-⑬)言葉・御託を並べる・金輪際・沽券に関わる・コツ・蜚蠊・乞食

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言葉

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.言葉/詞/辞(ことば)

言葉

言葉」とは、感情や思想を伝える手段として用いられ、社会に認められた意味をもつ音声や文字のことです。言語。

言葉の語源は、「言(こと)」+「端(は)」の複合語です。
古く、言語を表す語は「言(こと)」が一般的で、「ことば」という語は少なかったのです。
「言(こと)」には「事」と同じ意味があり、「言(こと)」は事実にもなり得る重い意味を持つようになりました。

そこから、「言(こと)」に事実を伴なわない口先だけの軽い意味を持たせようとし、「端(は)」を加えて「ことば」になったと考えられます。

奈良時代の『万葉集』では「言葉」「言羽」「辞」の三種類の文字が使われ、「言羽」も軽い物言いを表現しているといえます。

平安時代の『古今和歌集』や『土佐日記』ではひらがなの「ことば」、『枕草子』では「詞」が使われ、室町時代の『徒然草』では「言葉」が使われています。

複数ある「ことば」の漢字の中で「言葉」が残った理由として、『古今和歌集』仮名序の「やまとうたは ひとのこころをたねとして よろづのことの葉とぞなりける」でうまく表現されている通り、「葉」はたくさんの意味で、豊かさを表すためと考えられます。

「言の葉」が多く用いられていくのに並行し、「ことば」にも「言の葉」の意味が含まれるようになり、「言葉」は言語を意味する最も一般的な語として定着しました。

2.御託を並べる(ごたくをならべる)

御託を並べる

御託を並べる」とは、自分勝手な言い分をくどくどと言いたてることです。

御託を並べるの「御託」は、「御託宣」の「宣」を略した語です。

「御託宣」とは、神の意思を告げ知らせることや、神に祈って受けたお告げのことです。
神のお告げの話をする者は偉そうな態度にも見え、その話はもったいぶって長々と続くことから、「御託(御託宣)」は傲慢でくどくどと言う意味になりました。

御託を並べるの「並べる」は、「文句を並べる」のように「次々に言う」「述べたてる」といった意味で、しきりなさまを強調したものです。

3.金輪際(こんりんざい)

金輪際

金輪際」とは、決して、絶対に、二度とという意味です。後に打ち消しの語を伴なって用います。

金輪際は、仏教用語に由来します。
金輪」は三輪と呼ばれるものの一つで、大地の世界を意味し、その下に水輪、風輪と続き、さらに虚空があるとされます。

金輪際は、金輪と水輪の接する部分で、金輪の最も奥底にある場所を意味しました。

金輪際の図解
その意味から、金輪際は「底の底まで」「とことんまで」という意味で用いられるようになりました。
江戸時代の滑稽本『東海道中膝栗毛』に「聞きかけた事は金輪際聞いてしまはねば気がすまぬ」とあるように、打ち消しを伴なわない表現がされていました。

現代では、「金輪際◯◯しない」など下に打ち消しの語を伴なって、「決して」「断じて」の意味として用いられるようになっています。

4.沽券に関わる(こけんにかかわる)

沽券にかかわる

沽券に関わる」とは、面目・プライドに差し障りがあることです。

沽券に関わるの「沽券」とは、土地や家屋など売り渡し証文のことで、「売券」や「沽却状(こきゃくじょう)」とも呼ばれます。

江戸時代頃から、沽券は「売値」の意味で用いられるようになり、さらに「人の値打ち」「品位」などを意味するようになりました。

そこから、プライドにかかわることを「沽券に関わる」、人の値打ちが下がることを「沽券が下がる」と言うようになりました。

5.コツ(こつ)

コツ

コツ」とは、物事をするための大切なポイント要領勘所のことです。

コツの語源は、漢語「骨(こつ)」です。
骨は体の中心にあり、体を支える役目を果たしていることから、人間の本質や素質などを意味します。

そこから、コツは勘所や要領も意味するようになり、物事の本質を見抜き、自分のものにすることを「コツをつかむ」と言うようになりました。

6.蜚蠊/ゴキブリ(ごきぶり)

ゴキブリ

最近はあまり聞かなくなりましたが、「ゴキブリ亭主」という嫌な言葉がありました。

「ゴキブリ亭主」とは、台所に出没する旦那のことで、少し蔑(さげす)む言い方です。夜な夜な台所に出て、残り物をつまんで食べたりお酒を飲んだり。さらには、男が台所に立ち家事をすることをたしなめるための言葉でもありました。

ゴキブリ」とは、ゴキブリ目に属する昆虫の総称です。アブラムシ。

ゴキブリは、「御器噛り(ごきかぶり)」が転じた語です。

御器とは食物を盛るための椀のことで、噛りは「かぶりつく」など「かじる」意味です。
ゴキブリは残飯だけでなく、椀までかじってしまうことから、このような命名がされました。

「ごきかぶり」から「ゴキブリ」への変化は自然変化ではなく、誤記によるものです。
岩川友太郎氏の『生物学語彙』(1884年刊)で、誤って「ゴキブリ」の振り仮名が付けられました。

松村松年の『日本昆虫学』(1898年刊)でも先例を受けて「ゴキブリ」としたため、誤った名称が標準和名として定着しました。

そのようなゴキブリ変化の誤記ぶりが、小西正泰の『虫の博物館誌』(1993年刊)で紹介されています。

古く、ゴキブリはゴミを意味する「芥(あくた)」から、「芥虫(アクタムシ)」と呼ばれていました。

「角虫(つのむし)」とも呼ばれていましたが、この名は角が触覚を意味したのか、カブトムシクワガタムシと混同されていたのかは定かでありません。

「ごきぶり」「油虫(あぶらむし)」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・電灯を 傾け探す 油虫(右城暮石)

・食堂車 にも足早の 油虫(品川鈴子)

・一家族 初ごきぶりに 動顛す(林 翔)

7.乞食(こじき)

乞食

乞食」とは、人から金銭・食べ物などをもらって生きていくこと。また、それをする者のことです。

乞食は、中国から仏教用語として入った語です。

本来、乞食は修行僧が家の門前に立ち、施しのや金銭を受けて回ることを意味しましたが、物もらいの意味ばかりが強調されるようになり、修行僧以外の金品を乞う者をさすことが多くなりました。

乞食の読みは「こつじき」でしたが、しだいに「こじき」となりました。

「こつじき」の「こつ」は「乞」の慣用音、「じき」は「食」の慣用音です。

余談ですが、松尾芭蕉の門人の一人に「乞食路通」と呼ばれた風狂の俳諧師 八十村路通(1649年~1738年)がいます。

路通は「乞食井月(こじきせいげつ)」と呼ばれた幕末から明治の俳人・井上井月(いのうえせいげつ)(1822年~1887年)や、自由律俳句を詠んだ「放浪の俳人」種田山頭火(たねださんとうか)(1882年~1940年)に相通じるところがあるようです。

実際、種田山頭火は、昭和14年9月16日の「日記」に、「私は芭蕉や一茶のことはあまり考へない。いつも考へるのは路通や井月のことである。彼等の酒好や最後のことである」と書いています。山頭火は、路通と井月を「自分の先達なり」と定めていたようです。