日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.仙人掌/サボテン(さぼてん)
「サボテン」とは、サボテン科の多肉植物の総称です。葉は棘状。アメリカ大陸の乾燥地に生育し、約2,000種以上あります。
サボテンは江戸時代に観賞用として日本に渡来しました。
語源は諸説ありますが、サボテンの「サボ」は「石鹸(シャボン)」を意味するポルトガル語「sabão」で、この植物の茎の切り口で油などの汚れを拭き取っていたことに由来するというのが定説となっています。
サボテンの「テン」は、様子を表す「体(てい)」で、「石鹸のようなもの」の意味で「石鹸体(サボンてい)」が変化したとする説と、「テン」は「手」を意味し、その形を手に見立てたとする説があります。
1970年頃までは「シャボテン」とも呼ばれていたため有力な説に思えますが、「サボンてい」や「サボン手」という語は存在しておらず、意味を推測したものです。
「サボテン」の名が初めて見られるのは1769年の『中山伝信録物産考』で、それ以前は「サッホウサチラ」や「三布袋(サンホテイ)」「サンポテ」などと呼ばれていました。
メキシコの果物のサポテの愛称である「サポチラ(zapotilla)」と「サッホウサチラ」は似ており、サポテとウチワサボテンの果実の混同によって、この植物が「サッホウサチラ」と呼ばれていたとすれば、「サポテ」から「サンホテイ」や「サンポテ」、「サボテン」へ変化したと考えられます。
サボテンを漢字では「仙人掌」や「覇王樹」と表記しますが、いずれも中国名からの借用です。
「仙人掌」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・仙人掌の 奇峰を愛す 座右哉(村上鬼城)
・サボテンの 指のさきざき 花垂れぬ(篠原鳳作)
・仙人掌の 花が噴き出す 梅雨晴間(丸田余志子)
2.薩摩守(さつまのかみ)
「薩摩守」とは、乗り物に無賃で乗ることです。無賃乗車。
薩摩守は、現在の鹿児島県西部にあたる薩摩国の長官を表した言葉で、特に、平忠度(たいらのただのり)(1144年~1184年)を指します。
その「忠度(ただのり)」と「ただ乗り」を掛けて、無賃乗車を「薩摩守」と言うようになりました。
これは、狂言『薩摩守』の中で、秀句好きの船頭に秀句を言えば、ただで渡し舟に乗れることを知った僧侶が、いざ舟銭代わりに秀句を言う段になって、肝心の「舟銭は薩摩守、つまり平忠度(ただのり)」というオチを忘れてしまい、恥をかくという話に由来します。
ただ乗りを「薩摩守」で表した例は、中世末から近世にかけて多く見られますが、現代ではほぼ使われず死語となっています。
3.三昧(さんまい/ざんまい)
「三昧」とは、名詞や形容動詞の語幹に付いて「ざんまい」の形で用い、そのことに熱中すること、心のおもむくままにすること、ともすればその傾向になることの意を表します。
三昧は、サンスクリット語「samādhi」の音写で、元は仏教語です。
「三摩提」や「三摩地」とも音写し、「定」「正定」「正受」「等持」などとも訳されます。
仏教語では、心を一つの対象に集中して動揺しない状態をいいますが、一般には「一つに集中する」という意味に重点が置かれ、多くは良くないことや罵りの気持ちを込めて使われます。
熱中する意味では「読書三昧」、心のままにする意味では「贅沢三昧」、その傾向になる意味では「刃物三昧」などの使い方をします。
マグロの高値セリ落としで有名な名物社長がいる「すしざんまい」という会社もありますね。
4.朱欒(ざぼん)
「ザボン」とは、アジア南部原産のミカン科の常緑小高木です。果皮は厚く、砂糖漬けにします。果肉は淡黄色で、やや苦味があります。文旦(ぶんたん)。
ザボンは、ポルトガル語の「zamboa」に由来します。
当初は、「ザンボア」や「ザンボ」と原語に近い呼称でしたが、転じて「ジャボン」となり、「ザボン」になりました。
これには、ザボンの粘液が水に溶けた石鹸のように泡が立つことから、「シャボン」との混同で「ジャボン」になったとする説と、単に発音のしやすさから転じたとする説があります。
ザボンの漢字「朱欒(しゅらん)」は、漢名に由来します。
江戸時代には、ザボンに「座梵」という当て字も使われていました。
終戦直後の1948年に小畑実が歌った「長崎のザボン売り」という流行歌がありました。この曲が出た時には長崎に「ザボン売り」はいませんでしたが、この曲のヒットで長崎にザボン売りが現れるようになったそうです。
「朱欒の花」「花朱欒」は夏の季語で、「朱欒」は秋の季語です。
・天草の 海は平に 花朱欒(有馬朗人)
・南国の 五月はたのし 花朱欒(杉田久女)
・朱欒割くや 歓喜の如き 色と香と(石田波郷)
5.細君(さいくん)
「細君」とは、他人に対して自分の妻を謙遜していう語、また同輩以下の者の妻を指していう語です。当て字で「妻君」とも書きます。
細君の「細」は、「小」「つまらないもの」の意味で、中国語からの借用です。
自分をへりくだっていう「小生」や、自分が勤めている会社を「小社」というのと同じく、細君は他人に対し自分の妻をへりくだっていう語です。
転じて、他人の妻をいうようになりましたが、ごく軽い敬意をもって同輩以下の人の妻をいう語なので、目上の人の妻を「細君」と言うのは失礼にあたります。
6.遮る(さえぎる)
「遮る」とは、行動や進行の邪魔をして止める、妨げる、防ぎ止める、間を隔てて見えないようにすることです。
遮るの語源は、「先切る(さききる)」です。
「さききる」が平安時代に音便化して「さいきる」や「さいぎる」となり、鎌倉時代頃から「さえぎる」の例が見られるようになりました。
従来は「さえぎる」の語構成が「障へ切る」と考えられ、歴史的仮名遣いを「さへぎる」とする説が多かったですが、現在では妥当とされていません。
7.三拍子揃う(さんびょうしそろう)
「三拍子揃う」とは、三つの必要な条件、また、すべての条件が備わっていることです。
三拍子は、能楽の囃子で大鼓・小鼓・太鼓(もしくは笛)の三種の楽器でとる拍子のことです。
ぴたりと三拍子が揃うことで調和がとれることから、必要な三つの大切な要素、また、すべての条件が整っている意味となりました。
当初は良い条件のみに用いられた言葉ですが、江戸後期頃から「飲む・打つ・買う(飲酒・博打・女郎買い)」など、悪い条件が揃っていることも「三拍子揃う」と言うようになりました。