日本語の面白い語源・由来(た-⑮)端午の節句・単刀直入・魂消る・台風・狸寝入り・だらしない・断トツ

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端午の節句

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.端午の節句(たんごのせっく)

端午の節句

端午の節句」とは、5月5日の節句ことです。国民の祝日「こどもの日」。

端午の節句の「端」は、「初め」という意味。「午」は「五」に通じ、「端午」で「5月初めの5日」という意味になります。

端午の節句の風習の由来は、中国東周時代の政治家 屈原(くつげん)を供養するために始まり、三国志の時代に日本へ伝わったとされます。

古く端午の節句は、邪気を祓うために、ショウブやよもぎを軒にさす風習がありました。

この風習はやや変化し、現代ではちまきや柏餅を食べたり、菖蒲湯をたてたりしています。

江戸時代以降、端午の節句は「男子の節句」とされ、武家で甲冑(かつちゆう)や幟(のぼり)を飾ったことにならい、町人も武者人形や刀などを飾り、こいのぼりを立てるようになりました。

五月五日が「こどもの日」に制定されたのは、祝日法が公布・施行された1948年です。
「子供の日」や「子どもの日」など漢字表記されることも多いですが、法律上は「こどもの日」が正式な表記です。

「端午の節句」「端午」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・孫六が 太刀の銘きる 端午かな(田川鳳朗)

・泥のまま 筍かざる 端午かな(龍岡晋)

・大枝を 下ろして端午の 風の庭(内田百間)

・本船へ 端午帰りを 押す艪かな(中村汀女

2.単刀直入(たんとうちょくにゅう)

単刀直入

単刀直入」とは、前置きなどを省いてすぐに本題に入ることや、問題の核心をつくことです。

単刀直入の出典は、中国宋代の『景得伝灯録』です。

本来、単刀直入は一本の刀を握り締め、たった一人で敵陣にまっしぐらに突入して斬り込むことを意味しました。

まっしぐらに突入する意味から派生し、すぐに本題に入ることを「単刀直入」と言うようになりました。

この語源からわかるとおり、短い刀で突入するわけではないので、「短刀直入」と表記するのは誤りです。

3.魂消る(たまげる)

魂消る

たまげる」とは、非常に驚くことです。

たまげるを漢字では「魂消る」と書き、魂が消えるほどの思いから、驚きを意味する言葉として江戸時代から使われています。

「消る(げる)」は、「消える(きえる)」が縮まった語です。

「たまげる」と同じ意味、同じ漢字「魂消る」が使われる言葉に「たまぎる」がありますが、「たまげる」と「たまぎる」は元々別の意味の言葉で、語源も異なります。

本来、たまぎるは「魂切る」と書き、怯えるという意味で鎌倉時代から使われていました。

室町時代から「驚く」という意味に転じたため、たまぎると同じ漢字が使われるようになりました。

4.台風(たいふう)

台風の雲

台風」とは、北太平洋の南西部に発生し、北上して日本や東アジアなどを襲う暴風雨です。熱帯性低気圧で、最大風速が毎秒17.2メートル以上に発達したものをいいます。

古く日本では、台風を「野分き(のわき)」と呼んでおり、『源氏物語』第28帖の巻名にも使われています。

気象用語としては、風速32.7メートル以上の強風を「颶風(ぐふう)」と呼ぶのが一般的でした。

明治時代末に、当時の中央気象台長「岡田武松」が「颱風(たいふう)」を使い、当用漢字が定められた1946年以降、「台」の字が代用され「台風」となりました。

「台風」の由来は以上ですが、「台風」の元となる「颱風」の語源は以下の通り諸説あります。

①台湾や中国福建省で、激しい風のことを「大風(タイフーン)」といい、それがヨーロッパ諸国で音写され「typhoon」となり、それが再び中国や台湾へ入り、「颱風」という字を当てはめた。
また、中国福建省あたりでは、もともと「台湾付近の風」という意味で、「颱風」が使われていたという説もあります。

②アラビア語で、ぐるぐる回る意味の「tufan」が、「typhoon」となり「颱風」となった。
9~10世紀にはインド経由の西アジアと中国の交易が盛んであったことや、宋や元の時代にはイスラム船が頻繁に中国に来航していたことから、台風の影響を受けたアラブ人の言葉が転じたという説はもっともらしい。

③ギリシャ神話の風の神「typhon(テュフォン)」が「typhoon」となり、「颱風」となった。

「台風」は秋の季語で、次のような俳句があります。

・颱風の 北進し来る 恵那山の月(松本たかし)

・台風の 去つて玄界灘の月(中村吉右衛門)

・颱風に 傾くままや 瓢垣(ひさごがき)(杉田久女

・颱風の 空飛ぶ花や 百日紅(水原秋桜子)

5.狸寝入り(たぬきねいり)

狸寝入り

狸寝入り」とは、都合の悪い時などに、わざと寝たふりをすることです。空寝(そらね)。

狸寝入りという言葉は、江戸時代の文献にも見られます。

タヌキは臆病な動物で、驚いた時には倒れて一時的に気を失い、眠ったようになります。

昔からタヌキは人を騙すと思われており、この姿をタヌキが人を騙すための空寝と考え、「狸寝入り」とたとえられるようになりました。

6.だらしない

だらしない

だらしない」とは、けじめがない、しまりがないことです。だらしがない。

だらしないは、同じ意味の形容詞「しだらない」の音節順序を入れ替えた言葉です。

「しだらない」の「しだら」は、「自堕落(じだらく)」が訛ったとする説や、「ふしだら」の「しだら」とする説がありますが未詳です。

音節順序の入れ替えパターンはいくつか考えられますが、「だらしない」になった理由は、濁音で始まる言葉は悪い印象を与えるためや(一般の和語で濁音が語頭にくるのは例外的で、悪い意味になることが多い)、擬態語「ダラダラ」と近い印象になるためです。

「しだらない」から「だらしない」の音節順序が変わったのは、江戸時代に逆さ言葉が流行していたためとも言われますが、逆さ言葉であれば「らだしない」になります。

「だらしない」の語においては、「あらたし(い)」が「あたらし(い)」に変化したことに似た現象と考える方が自然です。

7.断トツ(だんとつ)

断トツ

「断トツ」の意味は、「他を大きく引き離して先頭にあること」で、語源は「断然トップ」です。

「断トツ」は比較的新しい表現といわれており、初期の使用例として知られているのは石原慎太郎氏の小説「死のヨットレース脱出記」(1963年発表)です。同作内では「断然トップ」の略称として使われています。

よく「断トツ(の)首位」という言い方をしますが、断トツ(の)首位は、トップと首位が重複していますので、日本語としておかしい表現です。

「馬から落馬する」「頭痛が痛い」「牛の牛乳」などと同じ「重言(じゅうげん/じゅうごん)」(重ね言葉)という重複表現になります。「断トツの成績」のように使うのが正しい表現です。

また「断トツの最下位」などとも言いますが、これは「皮肉」を込めた言い方で意味はわかりますが、正しい表現とは言えません。

昔携帯会社のCMでも使われ話題になったことがあります。文字通り言えば「断然トップの最下位」となりますので、何がなんだかわからない表現となってしまいます。