音読みがチョウの漢字には「テフ・テウ・チャウ・チョウ」の4種の歴史的仮名遣いがある!

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てふてふ

「昔の『国定教科書』では小学一年生で『蝶々』のことを『てふてふ』と習った」という話を、私は母から何度も聞かされました。

私のような「団塊世代」を含めて戦後の教育を受けた人間には、「歴史的仮名遣い」はややこしくて厄介なものです。

前に小椋佳の有名な「シクラメンのかほり」は、「かをりが正しい」という記事を書きましたが、「歴史的仮名遣い」に慣れない者が使うと、得てして間違いやすいものです。

ところで、「蝶」は「てふ」と書きますが、平塚らいてう(雷鳥)のように「鳥」は「てう」です。ほかにも一丁目の「丁」のように「ちゃう」と書く漢字もあります。

これらはどう区別するのでしょうか?

1.「チョウ」と音読みする漢字の4種類の歴史的仮名遣い

現代仮名遣いで「チョウ」と音読みする漢字の歴史的仮名遣いは「テフ・テウ・チャウ・チョウ」の4種類あります。

漢和辞典によると、次のような例が挙げられています。

「チョウ」と読む漢字を歴史的仮名遣いでどう書くのかを見分けるのは、元の中国語の発音を知らない限り無理なようです。

その理由は、もともと中国から漢字が持ち込まれた時、最初は「中国南方の方言の音」である「呉音」が伝えられ、その後「中国の黄河中流地方の発音に基づく音」である「漢音」が伝えられたため、その中国語の発音に合わせた仮名遣い(字音仮名遣い)ができたためです。その後「唐音」も入って来たため、漢字の音読みは「呉音」「漢音」「唐音」の3種類があるわけです。それぞれの音に特有の「傾向」はあるとしても、体系的な規則性はありません。

これは「チョウ」だけでなく、同じように四通りの歴史的仮名遣いがある「キョウ」「ギョウ」「ショウ」「ヨウ」「リョウ」「オウ」「ホウ」「ボウ」についても同様です。

(1)「テフ」

中国語の発音で、子音の後が「ie」となっている漢字の音読みは「テフ」です。

蝶・牒など

(2)「テウ」

中国語の発音で、子音の後が「ao」となっている漢字の音読みは「テウ」です。

鳥・朝・潮・調・弔・兆・彫・跳・誂・超・凋・鯛・吊など

(3)「チャウ」

中国語の発音で、子音の後が「ang」または「ing」となっている漢字の音読みは「チャウ」です。

丁・庁・町・長・張・帳・頂・腸・聴・停など

(4)「チョウ」

中国語の発音で、子音の後が「eng」または「ong」となっている漢字の音読みは「チョウ」です。

重・徴・澄・懲など

拗長音・歴史的仮名遣い

(参考)「蝶」を歴史的仮名遣いで「テフ」と書く理由

昆虫のは、日本では昔は和語の「カハヒラコ」と呼ばれていましたが、平安時代に、外来語である中国語の呼称「tiep」に取って代わられました。

この発音「tiep」をそのまま文字に書き写したものが「てふ」だったというわけです。

この発音「tiep」は、時代を下るにつれて変化していきます。具体的には、平安中期以降から鎌倉時代にかけて「てう」に変化し、江戸時代までには「ちょお」と発音するようになりました。

ところが「てふ」という表記だけは変わらずに「てふ」のまま残り続けました。このズレのために、「てふ」と書いて「ちょう」と読むようになったというわけです。

2.「音読み」の種類

(1)「呉音」と「漢音」と「唐音」

漢字の読みには「音読み」と「訓読み」があり、「音読み」には、「呉音」「漢音」「唐音」があります。

呉音、漢音、唐音は日本に入ってきた時代が異なります。

最初に入ってきたのは呉音です。7世紀ごろまでに六朝時代(222年~589年)の呉と交流のあった朝鮮の百済から伝わったと言われています。「中国の南方方言に基づく音」とされています。

次に入ってきたのは漢音です。奈良時代から平安初期にかけて、遣唐使や日本に渡来した中国人によって伝えられました。「中国の黄河中流地方の発音に基づく音」です。

桓武天皇は792年に漢音奨励の勅を出して、大学寮で儒学を学ぶ学生には漢音での学習が義務付けられました。その頃は、漢音の発音で正しい中国語を発音することが求められました。

非常にレベルの高い要求であったため、それまでに浸透していた呉音を漢音に塗りかえることはできなかったのです。

その後に入ってきたのが唐音です。宋音とも言います。平安中期から江戸時代までに日本に伝わった発音です。カバーしている時代が長いので、もちろん、中国内での時代も唐の末期から、宋、元、真まで及んでいます。

(2)「唐音」の例

「明」の読み方が唐音では「ミン」である例にもあるように、唐音で読む漢字はそこまで多くありません
行燈(アンドン)、椅子(イス)、和尚(オショウ)、焼売(シュウマイ)、西瓜(スイカ)、箪笥(タンス)等のように日常生活に根付いているものの素直に読めないものがほとんどです。

(3)「呉音」と「漢音」の見分け方

他方、呉音と漢音は「明」を「ミョウ」「メイ」と読むように非常によく使われる音です。
この二つの音の見分け方はあるのでしょうか?
言語学等の難しい話は別として、「だれでもわかる法則」として次の5つが挙げられます。

① ナ行で始まる音読みとザ行で始まる音読みの2つがある場合=ナ行が呉音。ザ行が漢音
例:日=ニチ・ジツ、然=ネン・ゼン、若=ニャク・ジャク、人=ニン・ジン

② ナ行で始まる音読みとダ行で始まる音読みの2つがある場合=ナ行が呉音。ダ行が漢音
例:男=ナン・ダン、女=ニョ・ジョ、怒=ヌ・ド、内=ナイ・ダイ

マ行で始まる音読みとバ行で始まる音読みの2つがある場合=マ行が呉音。バ行が漢音
例:無=ム・ブ、万=マン・バン、美=ミ・ビ、幕=マク・バク

同じ行の濁音(ガ行・ザ行・ダ行・バ行)で始まる音読みと清音(カ行・サ行・タ行・ハ行)で始まる音読みの2つがある場合=濁音が呉音。清音が漢音
例:極=ゴク・キョク、成=ジョウ・セイ、白=ビャク・ハク、分=ブン・フン

チで終わる音読みとツで終わる音読みの2つがある場合=チが呉音。ツが漢音
例:一=イチ・イツ、質=シチ・シツ、吉=キチ・キツ、達=タチ・タツ

こうして比べてみると、呉音の方がまろみを帯びた音ですね。

3.「歴史的仮名遣い」とは

「歴史的仮名遣い」(れきしてきかなづかい)とは、仮名遣いの一種で、「現代仮名遣い」と対比して旧仮名遣(きゅうかなづかい)とも呼ばれ、また、「復古仮名遣い」「古典仮名遣い」とも呼ばれます。

「歴史的仮名遣い」とは一般には、「江戸時代中期の契沖による契沖仮名遣を修正・発展させ、明治から第二次世界大戦終結直後までの公文書や学校教育において用いられた仮名遣い」であり、平安時代初期までの実際の綴りを発掘したものを基としています。第二次世界大戦の後、国語国字改革の流れによって「現代かなづかい」が告示されるまで、公教育の場で正式な仮名遣として教えられていました。現在の公教育では古典文学作品における教育でのみ使用されています。

歴史的仮名遣いの原理」は、「仮名発明当初の表記を、その後の発音習慣の変化(転呼)にかかわらず引き継ごうということ」ですが、現実的には本来の表記を完全に確定できるわけではありません。資料に基づく研究は契沖に始まるため、まだいくらかの誤りが含まれている可能性は充分にあります。

4.「字音仮名遣い」とは

漢字音の古い発音や音韻を表記するためにつくられた仮名遣い」を「字音仮名遣い」と呼びます。歴史的仮名遣いにおける字音仮名遣いの体系的な成立はきわめて遅く、江戸期に入って本居宣長が『字音仮字用格』(じおんかなづかい)を著すまで正しい表記の定められないものが多かったのです。

現代仮名遣いの施行まで行われた明治以降の歴史的仮名遣いでは、字音仮名遣いを踏襲しましたが、本居宣長の研究によっています。従って広義の歴史的仮名遣いにはこれも含みます。

また、字音仮名遣いは時代(表記された年代や、どの時代における音韻を基準とするかなど)によってその乱れが激しく、定見を得ないものも少なくありません。

以上のような成りたちから、歴史的仮名遣い論者にも、「表語(表意)」を重視する立場から見て字音仮名遣いを含めない者(時枝誠記・福田恆存・丸谷才一)と、含める者(三島由紀夫)とがいます。

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