日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.鍾乳洞(しょうにゅうどう)
「鍾乳洞」とは、カルスト地形(*)の一種で、石灰岩が地下水や雨水などの溶解作用によってできた洞窟のことです。石灰洞。
山口県秋吉台(あきよしだい)の「秋芳洞(あきよしどう)」(上の画像)が有名ですね。
(*)カルスト地形(ドイツ語: Karst)とは、石灰岩などの水に溶解しやすい岩石で構成された大地が雨水、地表水、土壌水、地下水などによって侵食(主として溶食)されてできた地形(鍾乳洞などの地下地形を含む)のこと。化学的には、空気中の二酸化炭素を消費する自然現象です。
鍾乳洞の「鍾」は、「鐘」と同じで「釣鐘」のこと。
釣鐘(梵鐘)には、規則正しく配列された突起物があり、その突起物は「乳」と呼ばれます。
その釣り鐘の乳と似ていることから、天井からつらら状に下がった石灰岩を「鍾乳石(石鍾乳)」と言い、鍾乳石がある洞窟なので「鍾乳洞」と呼ばれるようになりました。
鍾乳洞の床に立ち並んでいる岩石は、たけのこが生えたように見えることから「石筍(せきじゅん)」といいます。
2.消息(しょうそく)
「消息」とは、人や物事の動静、手紙を書くこと、また、その手紙のことです。音信。音沙汰。
消息の「消」は「消える」「死ぬ」、「息」は「生じる」「生きる」を意味します。
本来、消息は盛衰(衰えることと盛んになること)、変化や移り変わりを表し、そこから、人や物事の動静などを意味するようになりました。
さらに、そのような様子を人に知らせることから、手紙を書くことや連絡も意味するようになりました。
「消息を絶つ」「消息不明」と言えば、連絡が途絶えて行方や現状が分からない状況を表します。
現代では使われませんが、古くは他家を訪れて来意を告げることや案内を乞うこと、考えていることを口で表現することの意味でも、「消息」が使われていました。
3.しゃぶしゃぶ
「しゃぶしゃぶ」とは、鍋料理の一種で、薄切りにした肉を熱湯にくぐらせ、色が変わったら引き上げ、ポン酢やごまだれをつけて食べるものです。
しゃぶしゃぶは、大阪の高級肉料理店スエヒロが、昭和27年(1952年)に店に出したのが始まりです。
この料理を開発した当時の社長 三宅忠一が、仲居さんがおしぼりをすすいでいる「ジャブジャブ」という音と、湯の中で肉を揺らす様子を重ね合わせ、「しゃぶしゃぶ」と命名したもので、昭和33年(1958年)には商標登録もされています。
ただし、スエヒロが登録したのは、「スエヒロのしゃぶしゃぶ」と「肉のしゃぶしゃぶ」です。
野坂昭如の『エロ事師たち』(1963年)にも、「末広のしゃぶしゃぶ拾いながら重役がいう」と出てきます。
しゃぶしゃぶに使用する肉は牛肉が基本ですが、現在では豚や鶏などの肉に限らず、魚介類を用いたしゃぶしゃぶもあります。
4.ジーンズ(じーんず)
「ジーンズ」とは、綾織の綿布。また、デニム地または他の綿生地で作られた衣服のことです。特に、ズボン。
ジーンズ(jeans)は、イタリア北西部のジェノバ(ジェノヴァ)に由来します。
ジェノバの船乗りたちが履いていたズボンの素材がジーンズで、フランス語でジェノバを「Gêne(ジェーヌ)」といいます。
これが英語に入って「jean」となり、複数形で「jeans」となりました。
「jean」が「jeans」と複数形となるのは、「pants(パンツ)」「socks(ソックス)」「shoes(シューズ)」などと同じで、英語では左右の脚がそれぞれ別のもので2本と考えるため、脚に着用するものは複数形にするのです。
私の少年時代は、デニム生地や綿生地の「Gパン」(ジーンズ)をはいている人が多かったように思います。しかし最近若い男性には、足のラインにぴったりフィットした「スキニーパンツ」が人気のようです。
5.しんどい
「しんどい」とは、つらい、苦しい、面倒が多い、骨が折れることです。主に関西で使われます。私も「風邪でしんどい」や「ああ、しんど」などとよく言います。
しんどいの語源は、「しんろう(「心労」もしくは「辛労」)」が音変化した語と考えられていますが、音変化の過程には二つの説があります。
ひとつは、「しんろう」の「う」が省略されて「しんろ」となり、音変化して「くたびれること、だるいこと」を意味する名詞および形容動詞の「しんど」が生じ、形容詞化して「しんどい」になった説。
もうひとつは、「しんろう」から変化した「しんどう」が、「しんどく」のウ音便と解釈され、形容詞で「しんどい」となり、「しんど」が生じた説。
「しんどい」よりも「しんど」の方が古くから見られ、「しんど」と同じ意味で「しんろ」といった例もあるため、「しんろう」が「しんろ」「しんど」と変化し、形容詞化して「しんどい」になった説の方がやや有力です。
6.春秋に富む(しゅんじゅうにとむ)
「春秋に富む」とは、年が若く、将来が長いこと、将来性があることです。
春秋は、春と秋という季節のほか、「一年」の意味もあり、「年月」や「年齢」も表します。
春秋に富むの「富む」が表すのは、年齢を重ねて経験豊富という意味ではなく、残っている年月が豊富にあるということで、年が若くて、将来が長いという意味になります。
年が若ければ将来に期待できることから、春秋に富むは「将来性がある」という意味を表します。
対義語に「春秋高し」や「春秋長ず」があるが、こちらは「高齢である」「年老いている」のみで、「将来性がない」という意味では用いられません。
7.次郎柿/治郎柿(じろうがき)
「次郎柿」とは、柿の一品種で静岡県周智郡森町原産です。実は四角張った円形で、果肉はやや硬めで甘い柿です。
次郎柿は、江戸末期の弘化年代(1844〜48年)に、農家の松本治郎という人物が太田川の洪水で流れ着いた柿の幼木見つけ、自宅に持ち帰って栽培したのが起源で、この品種名は松本治郎の名前に由来します。
当初は「治郎さの柿」「じんろうさの柿」「じん郎柿」などとも呼ばれていましたが、戦後、現在の「次郎柿(治郎柿)」に定着しました。
次郎柿の原木は、明治2年(1869年)に火災によって消失してしまいましたが、翌年には新しい芽を出し、数年後には実をつけるようになりました。
「柿」は秋の季語で、次のような俳句があります。
・里古りて 柿の木持たぬ 家もなし(松尾芭蕉)
・蔕(へた)おちの 柿のおときく 深山(みやま)かな(山口素堂)
・渋かろか 知らねど柿の 初ちぎり(加賀千代女)
・渋いとこ 母が喰ひけり 山の柿(小林一茶)