日本語の面白い語源・由来(し-⑤)桎梏・辛抱・自然・陣痛・笑止・心配・芍薬・獅子

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桎梏

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.桎梏(しっこく)

ヒュブリスの桎梏

桎梏」とは、人の自由な行動を束縛するものです。

桎梏は「刑罰」を意味する漢語で、「」は足枷(あしかせ)、「」は手枷(てかせ)のことです。

転じて、桎梏は自由な行動を束縛するものを意味するようになりました。

漢語では、「桎」の漢字が「囚檻」を意味する「桎檻」や、「くさび」を意味する「桎轄」。「梏」が「手枷」を意味する「梏械」や、「拷問」を意味する「梏掠」などにも使われています。

2.辛抱(しんぼう)

辛抱

辛抱」とは、つらいことを耐え忍ぶこと、我慢すること、堪えることです。「辛棒」とも書きます。

辛抱の語源には、「心のはたらき」を意味する仏教語「心法(しんぽう)」に由来する説があります。

江戸時代には、心法が「心を修練する」の意味で使われており、そこから「耐え忍ぶ」の意味に変化し、「辛い」と「抱える」の漢字を当てて「辛抱」の表記になりました。

「しんぼう」と発音するようになったことで、「心棒」の表記もされたと考えられています。

辛抱は江戸の俗語なので、時代的に「心法」の説は有力ですが、音と意味の近い言葉から求めた説で、裏付けとなるものがあるわけではありません。

3.自然(しぜん/じねん)

自然

自然」とは、人為に頼らずに存在する物や現象、本来備わっている性質、言動にわざとらしさのないさま、ありのまま、ひとりでにそうなるさまのことです。

自然の「自」は「おのずから」「みずから」の意味、「然」は「そのとおり」「そうである」の意味で、自然は本来のままであることを意味します。

そこから、海・山・川・雨・風・水・土・石・木・草などの外界や環境、そのものに本来備わっている性質、わざとらしくないさまなどを意味するようになりました。

自然の読みには「しぜん」と「じねん」がありますが、古代、漢籍では「しぜん」、仏典では「じねん」と発音され、中世に入ると「しぜん」は「もしも」、「じねん」は「ひとりでに」の意味というように、発音の違いにより意味が使い分けられていました。

中世に「天然」の類義語としては、「しぜん」が使われていました。

「自然」と「天然」は、昔の方が意味や用法の違いが区別がされておらず、現代では「自然淘汰」としか言いませんが、明治30年代頃までは「天然淘汰」の語も用いられていました。

4.陣痛(じんつう)

陣痛

陣痛」とは、子を分娩する際に起こる規則的な子宮の収縮と、それに伴う痛みや、物事を実現させるための苦労のことです。

「陣」の漢字には、「ひとしきり」や「にわか」の意味があり、陣痛は一時的に起こる痛みを表します。

「陣」を「しきり」と読むと、出産間際の痛み、つまり陣痛を意味します。

「陣」の漢字は、軍隊や戦いで用いられることが多いため、「陣痛は戦場で陣地を失う時の痛みにたとえた語」と言われることもありますが、誰しもが思いつく俗説です。

5.笑止(しょうし)

笑止

笑止」とは、ばかばかしいこと、おかしいことです。

笑止は「勝事」に由来する語で、「事」は漢音で「し」と読み、「しょうし」と言いました。

勝事は世にも稀な素晴らしいことを意味した語ですが、珍しいの意味から普通ではないことを表すようになり、良い意味にも悪い意味にも用いられました。

さらに、不吉なことや奇怪なことを意味するようになり、大変なことや困ったことの意味が生じたことから、原義の優れたことの意味では「しょうじ」、悪い意味では「しょうし」と区別されるようになったと見られます。

「しょうし」は、困ったことの意味から、同情すべき相手に対して気の毒に思う気持ちや、恥ずかしく思うことを表すようになり、気の毒でもありおかしくもあるという意味でも使われるようになりました。

この頃から漢字に「笑止」の字が当てられるようになり、おかしいことの意味が強くなっていきました。

現代のように、ばかばかしいことやおかしことの意味で「笑止」が用いられ始めたのは、遅くとも室町中期と見られます。

6.心配(しんぱい)

心配

心配」とは、事の成り行きなどが気になり、思いわずらうこと、気がかり、気にかけて世話することです。

心配は「心配り」を音読して作られた和製漢語で、江戸時代から使われ始めました。

心を配る意味から、気にかける意味となり、気がかりで思い煩うことも意味するようになりました。

気がかりで「心を支配される」の意味から、「心配」になった訳ではありません。

7.芍薬(しゃくやく)

芍薬

女性の美しい立ち振る舞いや容姿を、花にたとえて表現する言葉に「立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花」というのがあります。

芍薬」とは、アジア大陸北東部の原産のボタン科の多年草です。初夏、大形のボタンに似た花を開きます。

芍薬の「」は「鮮やか」「はっきり目立つ」「抜きん出て美しい」という意味です。
」は文字通り、薬草として用いたことに由来します。

つまり、芍薬は「抜きん出て美しい薬草」の意味からついた名前です。

日本には古く中国から渡来し、消炎薬や鎮痛薬などの薬草として利用され、のちに観賞用としても栽培されるようになりました。

「芍薬」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・芍薬の 蕊(しべ)の湧き立つ 日南(ひなた)かな(炭 太祇)

・芍薬の つんとさきけり 禅宗寺(小林一茶

・芍薬を 剪(き)るしろがねの 鋏かな(日野草城

・芍薬を ぶつきらぼうに 提げて来し(長谷川櫂)

8.獅子(しし)

唐獅子図屏風・狩野永徳

獅子」とは、ライオンのことです。百獣の王と呼ばれます。また、ライオンに似た想像上の獣。唐獅子。師子。

獅子は、サンスクリット語の「simha(シンハ)」の首音を音訳した「師」に「子」を付して「師子(シーツィ)」となり、のちに獣偏をつけて「獅」になったといわれます。

日本では、獣を「しし」と呼び、イノシシやシカが「しし」と表現されていたこともあり、これらと区別するため、中国から伝わった想像上の動物としての獅子は、「唐獅子(からしし・からじし)」とも呼ばれます。