「人生100年時代」における「健康長寿」の秘訣とは?体と頭と心を動かし、よく笑い、よく食べ、よく眠ること。

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石井哲代

浄土真宗本願寺八世蓮如(1415年~1499年)が、親鸞聖人(1173年~1262年)の教えを伝えた「白骨の御文(はっこつのおふみ)」(*)という文章があります。当時は人間が百歳まで生きるとは到底考えられなかったのでしょう。

(*)それ、人間の浮生(ふしょう)なる相をつらつら観ずるに、おおよそ儚(はかな)きものは、この世の始中終(しちゅうじゅう)、まぼろしのごとくなる一期(いちご)なり。

されば、いまだ萬歳(まんざい)の人身をうけたりという事を聞かず。一生すぎやすし。今に至りて誰か百年の形体(ぎょうたい)を保つべきや。我や先、人や先、今日とも知らず、明日とも知らず、遅れ先立つ人は、元のしずく、末の露より繁しと言えり。

されば、朝(あした)には紅顔ありて夕(ゆうべ)には白骨となれる身なり。すでに無常の風きたりぬれば、即ち二つの眼たちまちに閉じ、一つの息ながく絶えぬれば、紅顔むなしく変じて、桃李(とうり)の装いを失いぬるときは、六親眷属(ろくしんけんぞく)あつまりて嘆き悲しめども、さらにその甲斐あるべからず。

さてしもあるべき事ならねばとて、野外に送りて夜半の煙となし果てぬれば、ただ白骨のみぞ残れり。あわれといふも、なかなか疎(おろ)かなり。されば、人間の儚き事は、老少不定(ろうしょうふじょう)のさかいなれば、誰の人も早く後生(ごしょう)の一大事を心にかけて、阿弥陀仏を深くたのみ参らせて、念仏申すべきものなり。 あなかしこ、あなかしこ。

<現代語訳>それ、世間のことがらの浮々(うかうか)として定まりの無いありさまをよくよく考えて見ますと、およそ何がはかないかと言って、人間の生まれてから死ぬまでの間、幻のような人の一生ほどはかないものはありません。

それゆえに、いまだ一万年の寿命を授かった人がいたなどということを聞いた事がありません。人の一生涯は過ぎ去りやすいものです。今までに誰が百年の肉体を保ったでしょうか。(人の死とは、)私が先なのか、人が先なのか、今日かもしれないし、明日かもしれない、遅れて死に、先立ってゆく人は、草木の根元に雫が滴(したた)るよりも、葉先の露が散るよりも数多いといえます。

それゆえに、朝には血色の良い顔をしていても、夕暮れには白骨となる身であります。もはや無常の風が吹いてしまえば、たちどころに眼を閉じ、一つの息が永く絶えてしまえば、血色の良い顔がむなしく変わってしまう、桃やすもものような美しい姿を失ってしまえば、すべての親族・親戚が集まって嘆き悲しんでも、どうする事もできません。

そのままにはしておけないので、野辺に送り荼毘(だび)に付し、夜更けの煙と成り果ててしまえば、ただ白骨だけが残るだけです。哀れと言っただけでは言い足りません。世間のことのはかない事は、老少不定の境遇でありますから、どのような人も後生の一大事を心に留めながら、心から阿弥陀仏を恃(たの)み申上げて、念仏申すべきであります

百歳の双子の可愛いおばあちゃん「きんさんぎんさん」がテレビCM(*)やバラエティー番組で話題になったのは、1990年代で、今から30年以上も前のことです。

金さん銀さん

(*)1992年正月よりダスキンのテレビCMに起用され、「きんは100歳100歳、ぎんも100歳100歳。ダスキン呼ぶなら100番100番」のキャッチコピーと双子姉妹の存在は全国的に知られるようになりました。

その姿は「理想の老後像」と言われ、1990年代の日本において国民的な人気を誇りました。

金さん銀さんCM

成田きんさん(1892年~2000年)と蟹江ぎんさん(1892年~2001年)が百歳を迎えた当時は、まだ百歳の老人、特に「健康長寿」の百歳の老人は珍しかったように思います。

その後、医師の日野原重明さん(1911年~2017年)のように百歳まで元気に現役で働く老人が現れて、「人生100年時代」を実感するようになりました。

日野原重明


日野原重明の世界 人生を色鮮やかに生きるための105の言葉 [ 新老人の会 ]

最近では『102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方』という本を出した石井哲代さんが話題になりましたね。


102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方 [ 石井 哲代 ]

このほか、影絵作家の藤城清治さんも99歳ですが、今でも現役で活躍しておられます。

1.「人生100年時代」とは

私の母も100歳の天寿を全うしましたが、10年以上「車椅子生活」が続き、最後の数カ月は「寝たきり生活」でした。

ところで、「人生100年時代」と言われるようになって久しいですが、そもそも誰が言いだしたのでしょうか?

(1)「人生100年時代」の提唱者

「人生100年時代」とは、ロンドン・ビジネス・スクール教授のリンダ・グラットンアンドリュー・スコットが『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)100年時代の人生戦略』(2016年 東洋経済新報社)で提唱した言葉と言われています

世界で長寿化が急激に進み、先進国では2007年生まれの2人に1人が100歳を超えて生きる「人生100年時代」が到来すると予測し、これまでとは異なる新しい人生設計の必要性を説いています。

日本では、本の発売と同時期に小泉進次郎が使用したことで広く浸透しました。

2017年9月には首相官邸に首相安倍晋三を議長とする「人生100年時代構想会議」が設置され、2018年6月には「人づくり革命 基本構想」が発表されるなど政策への反映が進められていましたが、2021年11月、第2次岸田内閣によって両方とも廃止されました。

なお、「人生100年時代」という言葉は、日野原重明さんが2002年頃から使用しています。

(2)『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)100年時代の人生戦略』とは

これまでの人生設計は「20年学び、40年働き、20年休む」という「教育・仕事・老後」の3段階が一般的でした。

古代インドでも、人生を大きく四つに分けて、それぞれの時期(段階)ごとに、異なる目標や準則を定めていました。これは、ヒンズー教のマヌの法典の「四住期」(*)という考え方です。

(*)「四住期」とは、解脱(げだつ)を最終目標として、「学生(がくしょう)期」(0~25歳)「家住(かじゅう)期」(25~50歳)「林住(りんじゅう)期」(50~75歳)「遊行(ゆぎょう)期」(75~100歳)の四つに、人生を分けて考えるものです。

「学生期」には学び、「家住期」には働き、家庭を作り、子供を育てます。その次の「林住期」(「臨終期ではありません。念のため)は、決して「隠退」とか「老後」というようなマイナスイメージの時期ではありません。

70代以降は「林住期」(老年を迎えて森や林に入り住んで静かに、人間とは何か、人生とは何かを考える時期)を経て「遊行期」(一切のしがらみから離れられる一番自由な時期で、一度きりの人生をしがらみや執着から離れて好きなことをやってよい時期)に入ります。

しかし、この本を書いたリンダ・グラットンとアンドリュー・スコットは、「100歳まで生きることが一般化する社会では、年齢による区切りがなくなり学び直しや転職、長期休暇の取得など人生の選択肢が多様化する」と予想しています。

(3)日本への浸透

日本では『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)発売以降、各種報道機関で取り上げられはじめ、本の発売と同時期に小泉進次郎が使用したことで広く浸透しました。

2016年2月には小泉進次郎・村井英樹・小林史明・鈴木憲和ら自民党の若手議員によって立ち上げられた「2020年以降の経済財政構想小委員会」が、「人生100年時代」に向けた社会の実現を謳っています

小泉らは「レールからの解放 – 22世紀へ。人口減少を強みに変える、新たな社会モデルを目指して -」という政策提言を行い、その中で「人生100年時代」の働き方・生き方・教育の位置づけ、社会保障の見直しの必要性を訴えました。

2017年4月、「2020年以降の経済財政構想小委員会」は「人生100年時代の制度設計特命委員会」を経て、2017年9月に「人生100年時代戦略本部」へと格上げされました。

2017年11月には自民党政務調査会より「人生100年時代・全世代型社会保障への転換〜2020年以降を見据えて〜」が発表されました。

首相官邸でも2017年9月に、安倍首相議長とする「人生100年時代構想会議」が発足し、以下の4つを主なテーマに超長寿社会における経済・社会システムに関する議論が進められました。

  1. 全ての人に開かれた教育機会の確保、負担軽減、無償化、そして、何歳になっても学び直しができるリカレント教育
  2. これらの課題に対応した高等教育改革
  3. 新卒一括採用だけでない企業の人材採用の多元化、そして多様な形の高齢者雇用
  4. これまでの若年者・学生、成人・勤労者、退職した高齢者という3つのステージを前提に、高齢者向け給付が中心となっている社会保障制度を全世代型社会保障へ改革していく

人生100年時代構想推進室

2018年6月には「人生100年時代構想会議」より、幼児教育無償化の加速、待機児童問題の解消、介護職員の処遇改善、学び直しの支援、高齢者雇用の促進などからなる「人づくり革命基本構想」が発表されました。

安倍首相は「人生100年時代を見据えた経済社会システムの大改革に挑戦するのが人づくり革命」と述べました

2021年(令和3年)11月12日に、岸田内閣は内閣官房の「人生100年時代構想推進室」を廃止しました。岸田首相は、安倍元首相の色を消すのに必死なようですね。

しかし「人生100年時代構想会議」は人生100年時代を見据えてよく考えていたと思います。

厚生労働省のホームページには「人生100年時代に向けて」というタイトルの記事があります。

そこでのテーマの一つである「何歳になっても学び直しができるリカレント教育」によく似た「リスキリング」(学び直し)という言葉を、岸田首相は最近盛んに使っていますが、パクリのような気がします。

2.「人生100年時代」における「健康長寿」の秘訣

実際に100歳まで健康に生きてきた人たちには、言葉や文章に表さないまでも、きっとそれぞれの「人生哲学」があると思います。

今回は、まだ74歳の私が、今まで生きてきた体験を踏まえて、個人的に勝手に考えている「100歳まで健康長寿でいられる(と思う)秘訣」をご紹介したいと思います。

(1)体を動かすこと

アンデシュ・ハンセンの「運動脳」という本でも強調されていますが、とにかく体を動かすことは必要不可欠なことだと思います。じっとしていると、血液の流れが滞って、頭の働きも悪くなり、心(精神)にもマイナスの影響を及ぼすように思います。

①手を動かす(使う)

職人さんは毎日手を動かし続けているので、高齢になっても元気なように感じます。画家や彫刻家のような芸術家もそうだと思います。

美容師の草分け的存在だった吉行あぐりさん(1907年~2015年)も、90歳を過ぎても、2005年(平成17年)に閉店するまで、馴染み客限定で美容師として仕事を続けました。日本の美容師免許所持者最高齢でした。

あぐり流夫婦関係・親子関係 しなやかに生きて96歳 [ 吉行あぐり ]

私は、このブログを続けることで、毎日パソコンのキーボードをブラインドタッチで叩いています。

また、自宅の庭の草むしりや、自宅周辺の落葉や道路のゴミを拾って町内の環境美化に努めています。

家庭菜園や花壇をお持ちの方は、野菜や花の手入れをすることによって、手も使いますし、「心の癒し」も得られるので一石二鳥です。

②足を動かす(使う)

高齢者にとって、マラソンやジョギングは負荷が大きすぎる激しい運動だと思います。

私は、自転車(サイクリング)と散歩が最適だと思います。

また、全身運動としては、スポーツジムに通うよりも、市民プールなどで軽めの水泳(速さを競うような全力水泳ではなく、リラックスして流すような水泳)を行うのが良いと思います。

スクワットやストレッチなどのゆったりした柔軟体操も効果的です。

(2)頭を動かす(働かす)

何も考えずにぼーっとテレビだけを見ていては、「チコちゃんに叱られる」だけでなく、「思考停止」状態に陥り、認知症になるのも早いのではないかと思います。

テレビのニュース報道や、識者のコメントを無批判に聞いているだけでは、大宅壮一の言うように「一億総白痴化」になりかねません。

新聞も「不偏不党」ではありえません。

読書もそうですが、やはり批判的に読み、「自分の頭で考えること」が必要だと思います。

それには、GHQによる「日本人洗脳プログラム」である「WGIP」のようなバイアスに惑わされずに、歴史を振り返り、自分の頭で把握し直すことが一番だと思います。

新しく高校で導入された「歴史総合」という科目もそういう視点からやってほしいものです。

(3)心を動かす(心の健康を保つ)

高杉晋作の辞世とされる歌に、「おもしろきこともなき世おもしろく(または「おもしろきこともなき世おもしろく」)すみなすものは心なりけり」というのがあります。(下の句「すみなすものは心なりけり」は、晋作を看病していた野村望東尼が付けたと言われています)

「体」の健康と同様に、あるいはそれ以上に「心(精神)」の健康が重要です。

大谷翔平が愛読したという中村天風の本『運命を拓く』では、心の態度を積極的にし、体の状態を健全に保つことで、健康で幸福な人生を堂々と歩むことができると書いてあったように思います。

ただし「欲張り過ぎ」「高望み」や「憎しみ」「恨み」「妬み」などの感情は、心の健康にとって大敵です。

「感激」や「感動」のような心の動かし方も、精神衛生上大切なことだと思います。そのためには、良質な音楽を聴いたり、映画・演劇を見たりすることが最適です。

このほか、プロ野球(大リーグを含む)やオリンピック、プロゴルフなどの各種スポーツ観戦でも、「感激」や「感動」を得られることもあるでしょう。

(4)よく笑い、よく食べ、よく眠る

笑いは緊張の緩和」というカントの有名な言葉があります。(落語家の桂枝雀の言葉と勘違いしている方も多いと思いますが)

私は「落語」や「講談」が好きですが、「漫才」や「コメディー(喜劇)」でもよいと思います。

そして、好き嫌いなく何でも食べることです。高齢だからといって、あっさりしたものばかり食べて肉食を避けるのは良くないとおもいます。むしろ積極的に牛肉・豚肉・鶏肉を食べるべきです。

また、良質な眠りを伴う8時間睡眠も大切だと思います。睡眠によって「記憶の整理」や「頭の中の不要なゴミの除去」が行われてスッキリするからです。

高齢になると、なかなか熟睡できないもので、夜中に何度も目を覚まします。しかし、「体を横にしているだけでもよい」と開き直れば、また寝られるものです。

ただし、いくら健康に留意していた人でも、若くして亡くなる場合もあり、その一方でヘビースモーカーや大酒飲みでも長寿を保つ人もいます。こればかりは「天寿」としか言いようがありません。

ですから、上に述べた「100歳まで健康長寿でいられる(と思う)秘訣」を実践したからといって、100歳まで健康長寿で生きられるという保証はありません。