日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.空豆/そら豆(そらまめ)
「そら豆」とは、北アフリカ・西南アジア原産のマメ科の一・二年生作物です。種子を塩ゆで・煮豆・煎り豆・甘納豆にするほか、餡・味噌・醤油などの原料にします。
そら豆は、長楕円形の莢(サヤ)が空に向かって直立する形でつくことからの名です。
漢字で「蚕豆」とも書くのは、実のふくらんだ形がカイコ(蚕)の繭に似ていることと、豆を食べる時期がカイコを飼う初夏であることに由来します。
「蚕豆」は「カイコマメ」や「サントウ」とも読むみます。
「空豆」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・假名かきうみし 子にそらまめを むかせけり(杉田久女)
・蚕豆の 花の吹き降り 母来てをり(石田波郷)
・そら豆の まだ眠さうな 顔ばかり(長谷川櫂)
・そら豆の 大方莢(さや)の 嵩(かさ)なりし(稲畑汀子)
2.忖度(そんたく)
「忖度」とは、他人の心中をおしはかること、また、おしはかって便宜を図ることです。
忖度は、中国では『詩経』、日本では平安時代の『菅家後集』にもある古い言葉です。
現代では「そんたく」と漢音読みで統一されていますが、古くは「じゅんど」「しゅんと」と呉音読みもされていました。
「忖」も「度」も「はかる」を意味し、忖度には「相手の気持ちを考える」という意味しかありませんでした。
1990年代後半から、報道では「上位者の意向を推し量る」という否定的なニュアンスを含んだ言葉として、「忖度」が用いられ始めました。
2017年の森友学園問題の報道で、「権力者が言葉にしていない私利的意向を推し量って自主的に従う」といったニュアンスを含む言葉として「忖度」が使われたことにより、「相手の心情を推し量って行動する」という、気持ちを察した後の「行動」も意味する言葉として使われるようになりました。
3.齟齬/鉏鋙(そご)
「齟齬」とは、物事が食い違って合わないこと、噛み合わないことです。
齟齬は漢語由来の熟語です。
齟齬の「齟」は、咀嚼の「咀」と同系の語で、噛むこと。噛み砕くことを意味します。
「齬」の声符「吾」は、「互(ご)」や「牙(が)」と近く、不揃いであることを表し、「歯」と「吾」からなる「齬」は、歯が食い違うことを表します。
これらの語を合わせた「齟齬」は、上下の歯がよく噛み合わないことの意味から、物事が食い違う意味となりました。
『書言字考節用集』(1717年)には「齟齬 ソギョ」とありますが、「齬」を漢音読みした例は他になく、それ以前から「そご」と呉音読みされています。
4.素封家(そほうか)
「素封家」とは、大金持ち、財産家のことです。
素封は『史記』に見える語です。
素封の「素」は、「むなしい」や「無い」の意味。「封」は、封土や封禄の「封」で、社会的な地位や領土のことです。
つまり、素封は社会的な地位や領土はないが、諸侯にも等しい財産があることや、そのような人(民間の大金持ち)を指します。
「素封」のみで「大金持ちの”人”」も意味するため、本来「家」を付ける必要はありません。
しかし、「資産家」や「金満家」などに寄せたのか、明治以降、「大金持ちの”人”」を表す際は、「家」を付けて「素封家」と言うようになりました。
5.袖にする(そでにする)
「袖にする」とは、親しくしていた人、特に異性を冷淡にあしらう、おろそかにする、7すげなくすることです。
袖にするには以下の通り多くの説があり、正確な語源は分かっていません。
①袖に手を入れたまま、何もしないという意味から。
②着物の袖は身頃の左右にある付属物で、その袖のように扱うことから。
③袖を振って追い払うことから。
④着物の袖が動くと邪魔になり、邪魔者扱いする意味から。
⑤舞台の左右の端を「袖」といい、客席からは見えず主要な場所ではないことから。
⑥袖は身と分かつもので、「袖を分かつ」「袂を分かつ」というように、人と別れること、関係を断つことを意味することから。
「袖にする」の同意句には、「袖にあしらう」「袖になす(なる)」があります。
6.惣領の甚六(そうりょうのじんろく)
「総領の甚六」とは、長男・長女は大切に育てられるため、弟妹よりもおっとりした世間知らずが多いということです。特に、長男を指していいます。惣領の甚六。
総領の甚六の「総領」は、家名を継ぐべき子のことで、一番初めに生まれた子。特に、長男を指します。
「甚六」は「お人よし」や「愚か者」をいう語で、「甚六」のみでも、のんびりしてお人よしな長男をいいます。
甚六の語源は、「甚だしいろくでなし」を縮め、人名に見立てたものと考えられます。
一説に、甚六は「順禄(じゅんろく)」が転じた語で、元は「総領の順禄」だったともいわれます。
順禄は、順番通りに家禄を受け継ぐという意味で、長男は親が亡くなれば、賢愚に関係なく跡目相続をすることからということです。
しかし、「甚六」が「総領の甚六」以外でも用いられるのに対し、「順禄」はこの言葉の説明にしか現れず、有力な説とはされていません。
7.草履(ぞうり)
「草履」とは、藁・藺草・竹皮などを編んで、鼻緒をすげた履物です。ビニール・ゴム・コルク・ウレタンなどで作ったものがあります。じょうり。
草履は、古代中国で藁の履物を表した語です。
日本で「草履」の語が見られるのは、奈良時代の『西大寺資材流記帳』が古いものです。
平安時代の辞書『和名抄』には「草履 佐宇利」とあり、『日葡辞書』では「ジャウリ」と読ませています。
「サウリ」と呼んでいたものが「ジャウリ(じょうり)」となり、「ザウリ(ぞうり)」に転じました。