日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.竜の落とし子(たつのおとしご)
「タツノオトシゴ」とは、トゲウオ目ヨウジウオ科タツノオトシゴ属の海水魚の総称です。沿岸の藻場に多く、尾を海藻に巻き付けて休んだり、体を直立させ浮遊します。
タツノオトシゴの「タツ」は、想像上の動物である「竜(たつ)」のことです。
一見、魚に見えないその姿は、天上の竜が海に産み落とした子のようであることから、「タツノオトシゴ」の名が付きました。
顔が馬に似ていることから、「海馬(かいば・うみうま)」「馬魚」「馬の子」「馬の顔」などの別名もあり、英名でも「シーホース」と呼ばれますが、全体の様子は竜であり、「タツノオトシゴ」の方がふさわしい名前です。
2.七夕月(たなばたづき)
「七夕月」とは、旧暦7月の異称です。文月。
七夕月は、文字通り、七夕のある月の意味から。
「七夕」の読みには「たなばた」と「しちせき」がありますが、七夕月を「しちせきづき」と読んだ例は見られません。
なお、「月の異称」については、「和風月名以外の月の異称をご紹介します。」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
3.襷/手繦(たすき)
「たすき」とは、和服の袖をたくし上げるために、両肩から両脇へ斜め十文字に掛けて結ぶ紐。駅伝競走の選手や選挙の候補者が、肩から斜めに掛ける帯状の布のことです。「襷」は国字です。
たすきは「手(た)+繦(すき)」で、「繦」は小児を背負うための帯のことといわれます。
しかし、古代の「たすき」は、神を祀る際、お供物に袖が触れないようにするため、袖を束ねて肩にかける紐を指しており、労働用ではなく、神に奉仕する者の礼装の一部でした。
また、「繦」の語源は、「すけ(助)」の転と考えられています。
これらのことから、たすきは、袖をたくし上げ、手を助けることに由来する名と思われます。
平安時代には、幼児の着物の袖上げを「たすき」と呼ぶようになり、室町時代から和服の袖上げも表すようになりました。
紐や線を斜めに交差させることも「たすき」と呼ぶようになったため、駅伝選手や立候補者が肩から掛ける布のことも指す言葉となりました。
4.狸(たぬき)
「タヌキ」とは、イヌ科の哺乳類です。体はずんぐりし、尾は太く脚は短く、体色は灰褐色か茶褐色です。
タヌキの語源には、田の怪しい動物の意味で「タノケ(田之怪)」や、田の猫で「タネコ(田猫)」に由来する説。
タヌキの皮は、手や腕を保護する「手貫(たぬき)」に利用することからという説。
死んだふりをして人を騙すところから、「ダシヌキ(出し抜き)」に由来する説。
人の魂を抜き取るところから、「タマヌキ(魂抜き)」に由来する説などありますが、有力な説は「狸寝入り」の語源ともなったタヌキの習性です。
タヌキが人を化かすという俗信は古くからありますが、これはタヌキが死んだふりをする動物と見たことによるもので、寝たふりを「狸寝入り」と言うのも、その習性に由来します。
しかし、タヌキは人を騙すために死んだふりをするのではなく、驚くと神経が異常になって仮死状態になるのです。
その状態をたまげる動物と見て、「タマヌキ(魂抜き)」の意味で「タヌキ」となったと考えられます。
「狸」は冬の季語で、次のような俳句があります。
・鞠のごとく 狸おちけり 射とめたる(原石鼎)
・かりくらの 月に腹うつ 狸 かな (飯田蛇笏)
・セルとネル 著たる狐と 狸 かな (久保田万太郎)
・戸を叩く 狸と秋を 惜みけり(与謝蕪村)
5.団欒(だんらん)
「団欒」とは、親しい者たちが寄り集まって楽しい時間を過ごすことです。「一家団欒」「家族団欒」「団欒のひととき」などと用いられます。
団欒の「団」も「欒」も「丸い」を意味し、漢語で「団欒」は、月などが丸いことや、丸いものを表します。
日本では、車座になって座ることや、親しい者が集まって楽しいひと時を過ごす「団居(まどい)」の意味で用いられるようになりました。
単に「丸い」の意味から「丸くなって座り、楽しく過ごす」となっただけでなく、「団」に「同じ目的を持った人々」の意味もあるためと考えられます。
「欒」の字には「なごやか」の意味もありますが、それが「団欒」の意味に影響を与えたのではなく、楽しい時間を過ごすことの意味で「団欒」が使われたことによります。
6.駄菓子(だがし)
「駄菓子」とは、麦、ひえ、あわ、豆などの安価な材料で作った庶民的な菓子のことです。かりんとう、ふ菓子、豆板、金平糖などの類。
駄菓子の「駄」は、本来、荷物を運ぶ馬を意味する語です。
駄馬は乗馬用にならない劣った馬とされたことから、「駄」は名詞に付いて、値打ちのないもの、粗悪なものも意味するようになりました。
駄菓子は、上等な材料で作った菓子の「上菓子」に対し、安い材料で作ることから「駄」が冠された名です。
江戸時代には、駄菓子一個の単価がおよそ一文であったことから「一文菓子」ともいい、貨幣価値の変遷とともに「一厘菓子」「一銭菓子」などとも呼ばれました。
7.丹頂(たんちょう)
「タンチョウ」とは、ツル科の鳥です。全身白色で、頭頂は赤く、眼からくびと翼の次列風切・三列風切は黒い鶴です、北海道の湿地に周年生息します。特別天然記念物。
丹頂の「丹」は「赤」の意味で、頭頂部の皮膚が露出し、鶏冠のように赤いところからの命名です。
この種が「タンチョウ」と呼ばれるようになったのは、江戸時代に入ってからです。
奈良時代には、他のツルと区別されておらず、単に「たづ(鶴の古名)」や「つる」と呼ばれていました。
特に「しろたづ」や「しろつる」と呼ばれたのはタンチョウでしたが、ソデグロヅルも含まれていたと考えられています。