日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.ちゃんこ鍋(ちゃんこなべ)
「ちゃんこ鍋」とは、大鍋に魚介類や・肉・野菜などを入れ、水炊きのようにして、つけ汁やポン酢で食べる力士料理のことです。
ちゃんこの語源は、以下の通り二説あります。
ひとつは、江戸時代に長崎巡業へ行った際、中国から長崎に伝わった板金製の鍋「チャンクオ」の料理法を取り入れたため、「チャンクオ」が訛ったとする説。
もうひとつは、若い力士が料理番を「おやじさん」の意味で「ちゃん」と呼び、親しみを表す接尾語「こ」が付いたとする説。
力士社会では、鍋以外の料理全般を「ちゃんこ」と呼ぶことから、料理番の「ちゃん」が語源と断定するものもあります。
しかし、鍋料理を「ちゃんこ」と呼んでいたことから、料理全般を意味するようになったと考えられるため、どちらの説が正しいとは断定できません。
2.茶寿(ちゃじゅ)
「茶寿」とは、数え年で108歳、またその祝いのことです。
茶寿は、「茶」の字の草冠を二つの「十」に分解して「二十」、下が「八十八」に分解でき、20と88を足すと108になることから、108歳を呼ぶようになりました。
茶寿の祝い方は、基本的に還暦と同じですが、百歳を超えた祝いには基調色が決まっていないため、茶寿だから茶色というわけではなく、緑茶のような緑でもありません。
3.茶碗(ちゃわん)
「茶碗」とは、飯を盛る陶磁器の器、湯茶を飲むための陶磁器の器のことです。
茶碗は、奈良時代から平安時代にかけ、茶を喫するための器として、茶と共に伝来したということです。
当初、貴重な茶を楽しむための良質な器を「茶碗」と言いましたが、鎌倉時代、喫茶の風習が広まるにつれ、碗形の陶磁器の総称となりました。
「茶碗」が陶磁器の総称となったため、ご飯を盛る器を「飯茶碗」、お茶を飲むための器を「煎茶碗」などと呼ぶようになりました。
やがて、使用頻度の高さから、主にご飯を盛る器を指して「茶碗」、お茶を飲む器を「湯呑み茶碗」や「湯呑み」などと言うようになり、本来の「茶碗」の意味が薄れていきました。
4.千鳥足(ちどりあし)
「千鳥足」とは、左右の足踏みがジグザグになるような歩き方のことです。特に、酔っ払った人のよろめいた歩き方。
千鳥足は、千鳥の歩き方に由来します。
通常、鳥の足には後ろにも支える指がありますが、千鳥の指は前三本で後ろに指がないため、左右のバランスを取るため、左右の足が交差するように内股で歩きます。
その左右ジグザグに歩く姿にたとえて、「千鳥足」と言うようになりました。
中世には馬の足並みが乱れることも「千鳥足」と言いましたが、これは千鳥の足運びではなく、飛ぶ姿に似ていることから、もしくは馬の足音が千鳥の羽音が似ていることからといわれます。
5.チクる(ちくる)
「ちくる」とは、告げ口する意味の俗語です。
ちくるは、「ちくん」「ちくちく」「ちくり」などの擬態語(オノマトペ)から生まれた動詞です。
これらの擬態語は、先のとがった針などで物を刺す様子を表すほか、皮肉や批判などを言って刺激を与える意味があります。
その中でも、「ちくりと嫌味を言う」など副詞として使われる「ちくり」が、ラ行五段活用として用いられ、「ちくる」になったと考えられます。
「ちくり」は「僅かな様子」を意味し、針などを刺す「ちくり」は「しくり」と表現されていました。
現代のような表現は、明治以降になって現れたものです。
6.知音(ちいん)
「知音」とは、自分の心をよくわかっている人のことです。親友。知人。
知音は、『列子(湯問)』などの故事に由来します。
中国春秋時代、伯牙(はくが)という琴の名手がいた。
友人の鐘子期(しょうしき)が死に、伯牙は自分の琴の音をよく理解してくれる者がいなくなったと嘆き、琴の弦を切って二度と弾かなかった。
そこから、自分を知ってくれる人や親友を「知音」というようになり、よく知る人の意味から、恋人、女房、知人などにも「知音」が用いられるようになりました。
7.丁髷(ちょんまげ)
「ちょんまげ」とは、額髪を剃り上げ、後頭部で髻(もとどり)を作り、前面に向けた髷のことです。江戸時代の男子の髪型。
ちょんまげの「ちょん」は、前面に折り返した髷の形が踊り字の「ゝ(ちょん)」に似ていることからで、「丁髷」の「丁」は当て字とされます。
一説には、「ちょん」が「小さい」「少ない」など意味で、髷が小さいため「ちょんまげ」になったとする説もありますが、「ゝ」の説が有力とされます。
ちょんまげは額髪を広く剃り上げ、小さな髷を結うものをいいましたが、明治以降、男性が結う髷のある髪型の総称となりました。
現在では、幕下以下の相撲取り、また十両以上の普段の髪型として残ります。
8.粽(ちまき)
「ちまき」とは、もち米や粳米の粉で作った餅を笹の葉や竹の皮などで、円錐形や三角形に巻き上げて蒸したものです。
ちまきは中国から伝来したもので、古くは「茅(ちがや)」の葉で包んでいたため、「茅巻き(ちがやまき)」と呼ばれました。
「茅」は「ち」とも言い、主に「ち」が用いられるようになったため、この食べ物も「ちがやまき」から「ちまき」と呼ばれるように変化しました。
端午の節句にちまき食べる習慣は、中国の屈原の故事から邪鬼を祓うものとされます。
なお関東では、ちまきではなく柏餅が一般的です。
余談ですが、京都の祇園祭で売られている縁起物の粽(ちまき)は食べられません。
この祇園祭の粽は、食べ物ではなく、「厄除けのお守り」なのです。なお、京都の各和菓子店では、食べられる粽も販売されていますので、ご安心ください。
「粽」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・あすは粽 難波の枯葉 夢なれや(松尾芭蕉)
・賑に 粽解くなり 座敷中(八十村路通)
・がさがさと 粽をかじる 美人かな(小林一茶)
・草の戸の 粽に蛍 来る夜かな(正岡子規)