日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.佃煮(つくだに)
「佃煮」とは、小魚・貝・海藻などを醤油・味醂・砂糖などで濃く煮つめた食品です。
佃煮の「佃」は、江戸佃島(東京都中央区隅田川河口の島)のことです。
「佃島」は、徳川家康が摂津国西成郡佃村(現在の大阪市西淀川区佃町)の漁民33名を住まわせたことからこの名があります。
この佃島の漁民が、江戸幕府に献上して残った雑魚などを塩や醤油に煮込み、保存食としていたものが、「佃煮」と名付けて江戸市中で売り出されるようになり、全国へと広まっていきました。
やがて、佃煮は材料の種類も増え、佃島以外でも作られるようになり、現在では材料や産地を問わず、このような食品を総称して「佃煮」と呼ぶようになりました。
2.月(つき)
「月」とは、「太陽の光を受けて輝く地球の衛星。一年を12で分けた区分。一ヶ月」のことです。
月の語源には、太陽に次いで光り輝くことから「つぎ・つく(次)」の意味とする説や、月に一度輝きが尽きるところから「つき(尽き)」とする説があります。
月は信仰の対象で、特に満月が信仰されていたことから、「尽き」の説は考え難いものです。
語源は未詳ですが、古くから太陽と対をなすものとされており、夜に光り輝き、生活面にも大きな影響があったことから、「つぎ・つく(次)」の説が有力です。
3.釣瓶鮨/釣瓶寿司(つるべずし)
「釣瓶鮨」とは、奈良県吉野川のアユを下市町で鮨にし、桶に入れて押したものです。弥助鮨。吉野鮨。
釣瓶鮨は、酢でしめたアユの腹にすし飯を詰め、桶に入れたものです。
その桶の形が、井戸水を汲み上げる「釣瓶」に似ていることから「釣瓶鮨」と呼ばれるようになりました。
「釣瓶鮨」の名は室町時代から見られますが、日本中に知れ渡ったのは、竹田出雲の歌舞伎狂言『義経千本桜』からです。
現在の釣瓶鮨は押し鮨ですが、本来は馴れ鮨でした。
4.壺(つぼ)
「壺」とは、「胴が丸くふくらみ、口と底が狭くなった形の容器。博打で采(さい)を入れて伏せる器。壺皿」のことです。
壺は丸くふくらんでいるので、「つぶら」「粒」など丸いものを表す「つぶ」に通じます。
しかし、古形は「つほ」なので、濁音の「つぶら」から清音の「つほ」が生じ、濁音に戻ったという点に疑問が残り、同語系と考えるにとどまります。
口と底がつぼまっていることから、「つぼむ(窄む・蕾む)」に由来するという説もありますが、「つぼむ」は「つぼ」の動詞化と考えられているため、この説は採用しがたい。
5.突っ慳貪(つっけんどん)
「つっけんどん」とは、「言葉や態度がとげとげしいさま。不親切なさま。冷淡なさま」のことです。
つっけんどんは、「慳貪」に接頭語「突っ」が付いた語です。
「慳貪」の「慳」は「物惜しみする」、「貪」は「むさぼり欲する」といった意味があり、「慳貪」は「むさぼり物惜しみする」という意味でした。
そこから、「慳貪」は情けの無いことや、むごいこと、他人を思いやる気持ちが無いことも表すようになり、「つっけんどん」と同様の意味を持つようになりました。
つっけんどんの「つっ(突っ)」は、「突っ走る」「突っ込む」などの「突っ」などと同じく、下の語を強調したものです。
6.机(つくえ)
「机」とは、「本を読んだり、字を書いたりするための台(デスク)。飲食物を盛った器や供物をのせる台。食卓(テーブル)」のことです。
つくえは、突き出した四本の枝で台を支えていることから、「ツキエ(突き枝)」が転じた語と考えられます。
漢字の「机」の「几」も脚付きの台を描いた象形文字で、「つくえ」の語源と通じます。
平安時代の『和名抄』に「机 都久恵」とあることから、机の歴史的仮名遣いは「ツクヱ(わ行の「ゑ」)」とされていましたが、それ以前の文献に「ツクエ」「ツ支江」の表記が見られるため、現在では「ツクエ(や行の「え」)」が有力な歴史的仮名遣いとされています。
机の語源には、「衝据(ツキスヱ)」や「坏据(ツキスヱ)」「坏居(ツキヰ)」の転といった説もありますが、上記のように歴史的仮名遣いが異なるため考え難いものです。
現代では主に、読み書きに用いるものを言うようになりましたが、古くは「文机(ふみづくえ)」と言って区別されていたように、読み書きに使う台を言ったのではなく、床に直接置けない物(神への供物、客人へ差し上げる飲食物や衣類)を載せる台を言いました。
7.爪楊枝(つまようじ)
「爪楊枝」とは、歯の間にはさまった物を取ったり、食べ物を突き刺したりするための小さな楊枝です。
楊枝は、元は歯の垢を取り除き、清潔にするために用いられた仏家の具で、「総楊枝・房楊枝(ふさようじ)」と呼ばれました。
「楊枝」の名は主に「楊柳」が素材として用いられたためで、総楊枝は先を叩いて「ふさ」のようにしたためです。
爪楊枝の「爪」は「爪先の代わりに使うもの」の意味で、「爪先」や着物の「褄」、動詞「つまむ」などと同源で「物の先端」が原義です。
奈良時代に仏教が日本へ伝わった際、楊枝も伝来したと言われるほど、仏教と楊枝との関係は深く、お釈迦様も木の枝で歯を磨くことを弟子達に教えたということです。
爪楊枝を「黒文字」と呼ぶのは、クロモジの木で作られた楊枝を指して言ったものが、他の材で作られた爪楊枝も指すようになったものです。
鎮痛解熱薬として用いられる「アスピリン」という物質が、ヤナギ科の植物に含まれていることから、爪楊枝を噛むことは虫歯の痛み止めに効くといわれますが、現在の多くは樺の木が使用されているため、その効果はないと思われます。
爪楊枝の先端の反対側にある溝は、滑り止めとして便利なものですが、元々は、製造過程で焦げて黒くなってしまうため、それをごまかす目的で焦げた部分を削って溝を作り、こけしに似せたものでした。
8.美人局(つつもたせ)
「美人局」とは、男が妻や情婦に他の男を誘惑させ、それを言いがかりにして、その男から金銭をゆすり取ることです。なれあい間男。
美人局は、本来「筒持たせ」と書き、「詐欺」や「インチキ」の意味で用いられました。
「筒持たせ」の「筒」は、男性器もしくは女性器を表す隠語といった説もありますが、元々「つつもたせ」に、女性が誘惑して金銭をゆすり取るという意味はなく、博打用語から出た言葉です。
そのため、筒はサイコロ博打で使う筒のことで、「細工した筒を使う」という意味から、「詐欺」や「インチキ」の意味に派生したと考えられます。
漢字の「美人局」は、近世後期頃からの当て字で、中国の『武林旧事』に見られる犯罪「美人局」のことです。
この犯罪は、元の頃の中国で、娼婦が少年や青年を誘い、後から出てきた男がその娼婦を自分の妻や妾と偽って、少年から金品を巻き上げたものです。
これが日本の「つつもたせ」に通じることから、「美人局」と書いて「つつもたせ」と読むようになりました。