日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.道路(どうろ)
「道路」とは、人や車などが通行するための道のことです。
道路は英語の「ロード(road)」をひっくり返したような言葉ですが、平安時代には見られるため、英語に由来することはなく、中国語の「道路(dàolù)」からの借用です。
日本では、平安時代初期に編纂された『続日本紀』の「役民の労苦に対する処置の詔」にある「諸国役民。還郷之日。食糧絶乏。多饉道路。転填溝壑。其類不少。」の例が最も古いものです。
また、古くは「道路」を「とうろ」と清音で読んだ例も見られます。
2.道具(どうぐ)
「道具」とは、物を作ったり、仕事をはかどらせるために用いる種々の用具のことです。日常使う身の回りの品々。他人に利用される人。
元々、道具は「仏道の具」のことで、仏道修業のための三衣一鉢などの六物、十八物、百一物といった必要品や、密教で修法に用いる法具を指しました。
そこから、武家では槍や刀などの武具を「道具」と言うようになり、芝居などでは「大道具」「小道具」、一般には物を作ったりするための用具などを指すようになりました。
また、他人に利用される人の意味で「道具」が使用された例は、江戸時代から見られます。
3.道楽(どうらく)
「道楽」とは、「本業以外のことに耽り楽しむこと。趣味として楽しむこと。酒色や博打など遊興にふけること(また、その人)」です。道楽者。
仏教語で「道楽」は、仏道修行によって得た悟りの楽しみのことです。
そこから、単なる「楽しみ」に意味が傾いていき、趣味などに没頭して得る楽しみを意味するようになりました。
遊興にふける意味で用いる「道楽」は、「堕落(だらく)」が転じた「どうらく」と、趣味などの「道楽」が合わさったと考えられます。
なお、「道楽」を「どうぎょう」と読む場合は、仏道を求める願いを意味します。
4.トンズラ
「とんずら」とは、逃げることをいう俗語です。
とんずらの「とん」は「遁」、「ずら」は「ずらかる」の略です。
「遁」の漢字は、「遁走」「遁世」「遁辞」などと使われる字で、逃げることを意味します。
「とんずらする」のほか「とんずらこく」「とんずらをかます」などとも言い、逃走することに限らず、面倒なことや嫌なことを回避する意味でも用います。
文献上見られる最も古い例は、梅崎春生の『ボロ家の春秋』(1954年)にある「トンズラしやがったな」で、比較的新しい言葉です。
5.ドーナツ
「ドーナツ」とは、小麦粉に砂糖・卵・牛乳を混ぜてこね、油で揚げた洋菓子です。
ドーナツの起源は16世紀のオランダにあり、パン生地を丸めて油で揚げたもので、オランダ語で「oile koek(油菓子)」と呼ばれていたものです。
これが17世紀前半に、オランダ移住者によってアメリカにもたらされ、ニューイングランド地方で「ドーナツ(doughnut)」と名付けられました。
ドーナツの「ドー(dough)」は、パン生地や練り粉のことです。
「ナツ・ナッツ(nut)」は、形がナッツ(木の実)に似ていることからとされますが、真ん中にクルミをのせていたからともいわれます。
6.鳥居(とりい)
「鳥居」とは、神域を示すために神社の参道入口などに立てる一種の門です。二本の柱の上に笠木を渡し、その下に柱を連結する貫を入れたもの。神仏習合の名残で、仏教寺院に見られることもあります。
鳥居は、古く神に供えた鶏の止まり木といわれ、鳥が居るところの意味が通説となっています。
その他、鳥居の語源には「通り入る(とおりいる)」の意味や、汚れたものをとどめる標であることから「トマリヰ(止処)」の意味とする説もあります。
7.海馬/胡獱(とど)
「トド」とは、食肉目アシカ科の哺乳類です。オスの体重は1トンを超え、アシカ科最大種。太平洋北部で繁殖し、冬に北海道などでも見られます。
アイヌ語でトドを意味する「tondo」や「toda」「toto」に由来するともいわれますが、これらは和名の「トド」から移入した名前と考えられています。
日本ではアシカとトドを区別せず、古くは両方とも「アシカ」と呼んでいました。
トドはアシカ科の中で最大種であることから、ボラの成魚を「トド」と呼ぶのと同じで、大きさの極みの意味から「止め」に由来すると考えられます。
余談ですが、大脳辺縁系の一部で、古皮質に属し、本能的な行動や記憶に関与する働きのある側脳室の近くにある部位のことを「海馬(かいば)」と呼びますね。
この名前の由来は、「海馬」が「トド」や「アシカ」の意味のほかに「タツノオトシゴ(竜の落とし子)」の意味もあり、「海馬(かいば)」の形がタツノオトシゴに似ることから、16世紀にイタリアの解剖学者アランティウスが命名したものです。
8.轟く(とどろく)
「轟く」とは、「鳴り響く。響き渡る。広く世間に知れ渡る。有名になる。鼓動が激しくなる」ことです。
轟くの語源には、「遠く驚く」の意味からとする説もありますが、音が大きく響き渡るさまを表す「とどろ」に、接尾語の「く」が付いて動詞化した語です。
遠くでかみなりが鳴ったり、連続して太鼓が鳴り響く低い音を「どろどろ」や「どどん」と表すように、「とどろ」も擬声語と考えられます。
「轟く」の漢字は、多くの車が往来することを表した会意文字で、多くの車が往来する音から「とどろく」に当てられました。