日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.虎の威を借る狐(とらのいをかるきつね)
「虎の威を借る狐」とは、「権力・権勢のある人の力に頼って威張る小人のたとえ」です。
虎の威を借る狐の出典は、中国の『戦国策(楚策)』で、次の故事に由来します。
トラに捕らえられたキツネが、「私は神様から百獣の長になるよう命ぜられた。食べたら罰が当たるぞ。嘘だと思うならついてきなさい」と言った。
トラがキツネの後ろについて行ったところ、他の動物たちはキツネの後ろにいるトラを見て、次から次へと逃げ出した。
それを見たトラは、動物たちがキツネを恐れて逃げたのだと思い込み、彼の話を信じたという。
この故事から、権力や権威のある人に頼って威張る人を「虎の威を借る狐」と言うようになりました。
虎の威を借る狐の「威」は「権力」や「権勢」、「借る」は「利用する」の意味です。
2.途轍もない(とてつもない)
「とてつもない」とは、「途方もない。道理に合わない。とんでもない」ことです。
途轍の「途」は「道」、「轍」は「わだち(車が通った後に残る車輪の跡)」のことです。
転じて、途轍は「筋道」「道理」の意味。
そこから、とてつもないは「筋道から外れている」ことを表し、「常識では考えられない」「並外れている」という意味で使われるようになりました。
3.褞袍(どてら)
「どてら」とは、「防寒や寝具に使う綿を厚く入れた広袖の着物」です。丹前。
江戸時代の方言辞書『物類称呼』に「襦袢、北国及び東奥の所々にて、ててらといふ」とあり、襦袢の異名で「ててら」と呼ばれていたことが分かります。
江戸末期には、丹前とほぼ同じ物を指すようになり、現在では丹前を「どてら」と呼びます。
どてらの対象が襦袢から丹前になった理由は、元々、襦袢が広袖の上着を指していたことに関係すると思われます。
「ててら」の語源や、「ててら」が「どてら」に転じた理由については分かっていません。
「褞袍」は冬の季語で、次のような俳句があります。
・星移り 物変りどてら 古びけり(日野草城)
・平熱と 体温計を 振る褞袍(高澤良一)
・病み坐る 人や褞袍に 顔嶮し(高浜虚子)
・声高に 湯の町をゆく 褞袍かな(渋沢渋亭)
4.峠(とうげ)
「峠」とは、「山道を登りつめたところ。山の上りと下りの境目」のことです。
古く、峠は「たむけ」と呼ばれており、『万葉集』に「多武気」の例が見られます。
室町時代以降、「たむけ」が「たうげ」に転じ、さらに「とうげ」に変化しました。
「たむけ」とは「手向け」のことで、神仏に物を供える意味の言葉です。
これは、峠に道の神がいると信じられており、通行者が旅路の安全を祈って手向けをしたことからと考えられています。
漢字の「峠」は日本で作られた国字で、「山」「上」「下」からなる会意文字です。
5.虎(とら)
「トラ」とは、「背面は黄褐色で黒い横縞がある食肉目ネコ科ヒョウ属の哺乳類」です。シカやイノシシなどを捕食します。
トラは日本に生息しない動物であるにも関わらず、古くから「トラ」と呼ばれており、謎が多い動物です。
トラの語源には、朝鮮語の「ホーラ」からとする説。
朝鮮の古語で、毛の斑を意味する「ツル」が転じたとする説。
「とらえる(捕らえる)」と関連付けた説など多くの説があります。
朝鮮語の「ホーラ」もしくは「ツル」を起源として、「捕らえる」という日本語的解釈が加わり、「トラ」になったと考えるのが妥当です。
漢字の「虎」は、トラの全形を描いた象形文字です。
6.首領/ドン(どん)
「ドン」とは、「首領。親分」のことです。
ドンは、スペインやイタリアなどで、男性の名前の前につける敬称「Don」のことです。
「ドン・キホーテ」のように、元々は貴族の出身を示すために名前の前につける敬称であったことから、「権力者」の意味を持つようになりました。
「首領」や「親分」の意味で「ドン」が日本で使われるようになったのは、1980年代のことで、それ以前からあった「ボス」よりも絶大な権力を振るう者を指す言葉として定着しました。
「ドン」がスケールの大きさを感じさせたのは、「どんと構える」「どんと来い」など力強いさまを表す「どんと」の語や、「ドン」の響きに重厚な印象があることも影響したと考えられます。
なお、日本では「お梅どん」というように、名前の後にを付ける「どん」もありますが、この「どん」は「殿」が変化した軽い敬愛の気持ちを表す接尾語で、「首領」を意味する「ドン」とは関係ありません。
7.酉(とり)
「酉」とは、「干支(十二支)の10番目」です。年・日・時刻などにあてます。方角の名で「西」。旧暦8月の異称。前は申、次は戌。
酉年とは、西暦年を12で割った際、余りが1となる年です。
漢字の「酉」は、口の細い酒壺を描いたもので、「酒」に関する字に用いられ、収穫した作物から酒を抽出する意味や、収穫できる状態であることから「実る」も表します。
つまり、酉は果実が成熟した状態を表していると考えられます。
この「酉」を「ニワトリ」としたのは、無学の庶民に十二支を浸透させるため、動物の名前を当てたものですが、順番や選ばれた理由は定かではありません。
8.寅(とら)
「寅」とは、「干支(十二支)の3番目」です。年・日・時刻などにあてます。方角の名で「東北東(東から北へ30度の方角)」。旧暦1月の異称。前は丑、次は卯。
寅年とは、西暦年を12で割った際、余りが6となる年です。
「寅」は、「引(のばしひく)」「伸(のばす)」と同系の語で、『漢書 律暦志』では草木が伸び始める状態を表すと解釈されています。
この「寅」を「トラ」としたのは、無学の庶民に十二支を浸透させるため、動物の名前を当てたものですが、順番や選ばれた理由は定かではありません。