日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.玉蜀黍(とうもろこし)
「とうもろこし」とは、「アメリカ大陸原産のイネ科の一年草」です。コーン。
とうもろこしは、ポルトガル人によって16世紀に日本に伝えられました。
それ以前に中国から渡来した「モロコシ」という植物によく似ていたことから、「唐のモロコシ(「唐」は舶来)」という意味で「トウモロコシ」となりました。
しかし、「モロコシ」の漢字は「蜀黍」か「唐黍」が用いられており、とうもろこしを漢字で書くと「唐蜀黍」や「唐唐黍」で意味が重複してしまうため、「唐」の代わりに「玉」を用いて「玉蜀黍」としました。
「玉」が用いられた由来は、とうもろこしの別名に「玉黍(たまきび)」があったためで、「玉黍」という名前は、とうもろこしの実が黄金色に美しく並んでいることに由来します。
その他、とうもろこしの別名には、「南蛮」や「唐」など「舶来」を意味する言葉が冠された「南蛮黍(なんばんきび)」や「唐黍(とうきび)」があります。
「玉蜀黍」は秋の季語で、次のような俳句があります。
・古寺に 唐黍を焚く 暮日かな(与謝蕪村)
・唐黍や ほどろと枯るる 日のにほひ(芥川龍之介)
・唐黍焼く 母子我が亡き 後の如し(石田波郷)
・盆礼に 玉蜀黍を 持たせけり(野沢しの武)
2.ドス
「ドス」とは、「短刀・合口などの小型の刀」です。
ドスは、人を脅すために懐に隠し持つことから、「おどす(脅す)」の「お」が省略された語です。
ドスをチラつかせることから、すごみを利かすことを「ドスを利かす」と言います。
また、脅す時の声は太く低い声であることが多いため、太くて低いすごみのある声を「ドスの利いた声」と言います。
3.団栗(どんぐり)
「どんぐり」と言えば、「どんぐりころころ」という童謡でおなじみですね。
「どんぐり」とは、「ブナ科ナラ属のカシ・クヌギ・ナラ・シイなどの果実の俗称」です。楕円形や卵形で堅く、下部が椀形または皿形の殻斗(かくと)で包まれます。
どんぐりの漢字「団栗」は当て字です。
どんぐりの語源は諸説ありますが、この実をコマにして遊んだことから、コマの古名「ツムグリ」が「ヅムグリ」となり、「ドングリ」に転じたと考えられます。
ツムグリの「ツム」は「回転する」といった意味があり、「クリ」は「石」を意味する古語です。
その他、どんぐりの語源には、朝鮮語で「円い」を意味する「トングルダ」、蒙古語で「円い」を意味する「トグリク」、日本語で「円い輪」を意味する「トグロ」など、アジア圏で「円い」を意味する語系からといった説もあります。
ただし、アジア圏の語系であれば、古くから用例が見られそうですが、「どんぐり」という語の用例は、江戸になってからです。
また、トチの栗で「橡栗(トチグリ)」が音便化され、「どんぐり」になったとする説もありますが、有力とはされていません。
「団栗」は秋の季語で、次のような俳句があります。
・団栗の 寝ん寝んころり ころりかな(小林一茶)
・団栗の 己(おの)が落葉に 埋れけり(渡辺水巴)
・団栗を 沈め療園の 池曇る(有働亨)
・団栗の 音めづらしや 板庇(正岡子規)
4.とことん
「とことん」とは、「最後の最後。副詞的に用いて、徹底的に。最後まで」ということです。
とことんは、日本舞踏で「トコトントコトン」という足拍子の音を意味し、転じて踊りの意味となった語で、近世には民謡などの囃子詞として用いられました。
舞踏での「とことん」は、「床(とこ)」と「トン」という擬音が語源といわれますが、「とことん」でも擬音と考えられます。
現代の「徹底的に」「最後まで」といった意味に転じたのは、明治初年(1868年)の『とことんやれ節』に由来します。
『とことんやれ節』は、官軍東征の時に参謀の品川弥二郎が歌詞を作り、大村益次郎か祇園の芸妓君尾が節をつけた軍歌で、「とことんやれとんやれな」という囃子詞が添えられていました。
この歌は明治時代に大流行したため、「とことん」の語も一般に広まり、軍歌であったことも関係して「徹底的に」や「最後まで」の意味に転じました。
5.十日の菊(とおかのきく)
「十日の菊」とは、「時機遅れで役に立たないこと」です。のちの菊。六日の菖蒲(むいかのあやめ)。
十日の菊の「十日」は、「重陽(ちょうよう)の節句」(9月9日)の翌日のことです。
重陽の節句は別名「菊の節句」と言い、菊酒を飲んだり、湯船に菊を浮かべて菊湯に入るなど、菊を用いて不老長寿を願う行事があります。
その翌日に菊を準備しても遅いことから、時機を逃して役に立たないことのたとえとして、「十日の菊」と言うようになりました。
「端午の節句」(5月5日)の翌日を表す「六日の菖蒲」と合わせて、「六日の菖蒲、十日の菊」とも言います。
6.トランプ/trump
「トランプ」と言えば、今ではカードゲームのトランプよりも、アメリカ前大統領のドナルド・トランプ氏を思い浮かべることが多くなりましたね。
「トランプ」とは、スペード・ダイヤ・クラブ・ハート各13枚と、ジョーカー1枚の計53枚のカードを用いて行う室内遊戯」です。
トランプは英語「trump」からの外来語ですが、日本で「トランプ」と呼ばれるカードは、英語では「(playing)cards」と呼ばれ、トランプをすることは「play cards」と言います。
英語の「trump」は「切り札」を意味し、この遊戯やカードを意味するものではありません。
明治時代、外国人がこの遊びをしている際に「トランプ」と言っていたため、これに使うカードや遊戯そのものと勘違いし、日本では「トランプ」と呼ぶようになりました。
英語「trump」の語源は、勝利や征服を意味する「triumph」です。
マークの由来は、スペードが剣を表し「王候」、ダイヤは貨幣を表し「商業」、クラブは棍棒を表し「農業」の象徴で、ハートは「心臓」ではなく、聖杯を表し「聖職者」の象徴であるといわれていますが、これらの説には根拠がないため、正確な由来は未詳です。
なお「トランプ」にまつわる面白い話は、「トランプと暦との不思議な関係とは?トランプのマークの意味もご紹介します」「トランプのジョーカーとは一体誰のことか?わかりやすくご紹介します。」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
7.登竜門/登龍門(とうりゅうもん)
「登竜門」とは、「立身出世や成功のための関門」のことです。
登竜門の「竜門」とは、黄河上流にある竜門山を切り開いてできた急流のことです。
その竜門を登りきった鯉がいたならば、竜になるという言い伝えがありました。
この竜門の言い伝えから、人の立身出世の関門を「登竜門」と言うようになった由来は、中国『後漢書 李膺伝』の故事によります。
その故事とは、李膺という実力者がおり、彼に才能を認められれば出世が約束されたものと同じで、その認められた人は、竜門に登った鯉のようなものだとたとえられたというものです。
8.賭博(とばく)
「賭博」とは、「金品をかけて勝負事をすること」です。博打(ばくち)。
賭博の「賭」も「博」も、かけごとを意味します。
「博」の字は、双六などサイコロを用いた遊びを表しますが、双六の類は金品を賭けて行われることが多いことから、「賭」と同様に「賭け事」や「博打」の意味があります。