日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.なまはげ
「なまはげ」とは、「秋田県男鹿市などで大晦日(元は小正月)に行われる民俗行事」です。
数人の青年が鬼の面をかぶり、蓑をつけ、木製の包丁や桶などを持って家々を訪れるます。
なまはげの「なま」は、「なもみ」という囲炉裏にあたっていると手足にできる低温やけどのことです。
なもみができるということは、冬場、火にあたってばかりいて怠けている証拠であるから、なまはげが包丁でなもみを剥ぎ、怠け者の子供を戒めるものです。
なもみを剥ぐところから「なもみはぎ」と呼ばれ、転じて「なまはげ」となりました。
なまはげは漢字で「生剥げ」と書きます。
「はげ」は「剥ぐ」が語源なので、「剥げ」はその意味通り。
「なま」は「なもみ」が転じた語なので、「生」は音からの当て字と考えられます。
「なまはげ」は新年の季語で、次のような俳句があります。
・なまはげの 面の中より 優男(鍋谷福枝)
・なまはげの 松明(たいまつ)雪に 挿し憩ふ(桑田青虎)
・なまはげの 解(げ)せぬ口上(こうじょう) 秋田弁(杉山青風)
・なまはげの 足踏み鳴らす 屋台骨(高澤良一)
2.鳴門巻き/なると巻き(なるとまき)
「なると巻き」とは、「かまぼこの一種。赤く染めた魚肉のすり身を、白いすり身で巻いて蒸したもの」です。
なると巻きは、断面にできる渦巻き模様を鳴門海峡の渦潮にちなみ付けられた名です。
鳴門海峡にちなんだ名ですが、なるとの生産地は徳島や兵庫でなく、東京ラーメンに欠かせないものですが東京でもなく、静岡の焼津が国内生産量の90%を占めています。
なると巻きの渦は、「の」の字に見える方が表面とされています。
3.縄(なわ)
「縄」とは、「麻や藁などの植物繊維や茎、化学繊維をより合わせて作ったもの」です。一般に、綱より細く、紐より太いものをいいます。
なわの語源は、糸や紐などをより合わせる意味の動詞「なう(綯う)」から。もしくは、藁をより合わせた「なひわら(綯藁)」の略からです。
漢字の「縄」は、「糸」と「黽」からなる会意文字です。
本来、「黽」は大きなカエルを表した字ですが、ここではトカゲを表します。
つまり、「縄」の字はトカゲのように長いなわを意味します。
4.汝/爾(なんじ)
「汝」とは、「二人称代名詞」です。多く、対等もしくはそれ以下の者に対して用いられます。
なんじは、「な(汝)」に「むち(貴)」が付いた「なむち」が変化した語です。
「な」は自分を指す語ですが、ここでは目下や親しい人に対して用いる二人称代名詞で、「むち」は貴い者を表します。
本来は、相手に尊敬の意を含んで用いられていたと思われますが、中世には対等かそれ以下の者に対して用いられています。
漢字の「汝」が「水」+「女」なのは、元々、河南省の嵩県から淮水に流れる「汝水(ジョスイ)」という川の名前だからです。
それが「なんじ」という人称代名詞の漢字になったのは、「ニョ」や「ジョ」など、昔の二人称代名詞の音に近い発音を持つことから当てられたものです。
5.就中(なかんづく)
「なかんずく」とは、「その中でも。とりわけ。特に」ということです。
なかんずくは、「就中」を漢文訓読した「なかにつく(中に就く)」が音便で「なかんづく」になり、「づ」と「ず」の混同から「なかんずく」となった語です。
古くは、「なかについて」の形も見られ、「なかにつく」とどちらが先に用いられていたものかは定かでありません。
なお、漢文訓読した「なかにつく」の語構成から、なかんずくに「とりわけ」の意味が生じたわけではなく、元々、漢語の「就中」は「とりわけ」を意味する言葉です。
6.名吉/ナヨシ(なよし)
「ナヨシ」とは、「ボラの若魚でイナのこと。または、ボラのこと」です。
ボラは成長するにつれて名前が変わる出世魚で、めでたい魚なので「名吉」の意味から付いた名といわれます。
古くから、ナヨシは正月のしめ縄に挿して祝ったり、七五三の祝いに用いるなど、めでたい魚とされており、「ミョウギチ」とも呼ばれていたことから「名吉」の意味に違いありませんが、「イナ」の別称であることを軸にするならば、「イナ」が「否」に通じることから、美称の「名吉」にしたと考える方が妥当です。
古くから伊勢地方では、ボラを豊漁祈願や八幡祭に奉納しており、伊勢やその周辺地域では、「イナ」に限らず「ボラ」を「ナヨシ」と呼ぶことから、伊勢で生まれた呼称とも考えられています。
7.萎える(なえる)
「萎える」とは、「体力・気力が抜けてぐったりする。植物がしおれる。糊が落ちたり長く着たために、衣服の張りがなくなり柔らかくなる」ことです。
萎えるの語源には、「な(菜)」のように柔らかくなるところからや、「なゆる(直放)」の意味など諸説あります。
萎えるは、文語ではヤ行下二段活用の「なゆ」なので、「な(和)」や「なぐ(和)」をヤ行活用した語かと思われます。
8.薺(なずな)
「ナズナ」とは、「田畑や道端に自生するアブラナ科の越年草」です。春の七草のひとつで、若葉は食用。ぺんぺん草。三味線草(しゃみせんぐさ)。
ナズナの歴史的仮名遣いは「ナヅナ」で、その語源には、撫でいつくしむ草の意味で「撫で菜(なでな)」とする説。
ナズナは夏に枯れるところから、「夏無(なつな)」とする説。
苗が地について縮まっているところから、「滞む(なずむ)菜」の意味とする説。
「野面菜(のつらな)」が変化し、「ナヅナ」になったとする説があります。
ナズナ(ナヅナ)の後方の「ナ」は「菜」と考えるのが自然で、枯れる時期が名前になることはまず無いため、「夏無」の説は考え難いものです。
断定は困難ですが、ナズナは古くから薬用として食べられ、音変化も自然なことから「撫で菜」の説が有力です。
「薺」は新年の季語、「薺の花」は春の季語で、次のような俳句があります。
・六日八日 中に七日の 齊かな(上島鬼貫)
・一とせに 一度摘まるゝ 齊かな(松尾芭蕉)
・よくみれば 薺花さく 垣ねかな(松尾芭蕉)
・妹が垣根 さみせん草の 花咲ぬ(与謝蕪村)
9.等閑(なおざり)
「なおざり」とは、「いい加減にしておくさま。真剣でないこと。深く心にとめず、あっさりしているさま」です。
「なお」は以前の状態が引き続いているさまを表す副詞「なお(猶)」、「ざり」は係助詞「そ」に動詞が付いた「あり」の「ぞあり」です。
「ざり」を「さり(避・去)」で、手を打たず避けて放っておく意味との見方もありますが、副詞「なお」にその意味が含まれているため「ぞあり」と考える方が妥当です。
なおざりは「たいして気にとめない」が原義で、転じて、「本気でない」「おろそかにする」といった意味になりました。
漢字の「等閑」は、同義の漢語「等閑(とうかん)」を当てたものです。